ファーブル『昆虫記』は評価されていなかった!? “早すぎた天才”たちが歩んできた人生

ファーブル『昆虫記』は評価されていなかった!? “早すぎた天才”たちが歩んできた人生

 もしもあなたが周囲から「天才ですね」と評価されたらどんな気分になるだろうか。私なら素直に大喜びするところだが、もちろん”天才”と呼ばれるに相応しい才能が伴わなければならない。ところがこれまでの歴史を振り返ってみると、現代でこそ高く評価されているものの、当時は周囲に才能を認められていなかったケースも目立つ。

 そんな偉人をまとめたのが、その名もズバリ『早すぎた天才 知られてないけど、すごかった』(文響社)。大野正人氏による著書で、イラストとともに「時代よりも早く才能を発揮してしまったすごい人」を紹介した1冊だ。各偉人のナビゲーターとして”紙芝居屋のおじさん”や”現代にタイムスリップした本人”、”北海道の大地”といったユニークな面々が起用されている点にも注目したい。

 まずは紙芝居屋のおじさんが先陣を切って顛末を語る、「二宮忠八」から見てみよう。忠八は”飛行機の開発”をおこなった人物なのだが、なんと彼が模型飛行機を生み出したのはライト兄弟が大空を飛ぶより10年も前のこと。模型とはいえ飛行にも成功していながら、なぜライト兄弟に先を越されてしまったのか。

 忠八の頭には”空から爆弾を落とせば戦争に勝てる”という確信もあり、実機の開発を軍隊に打診。しかし軍隊には彼のアイデアが理解できず、”今は戦時中だから”という理由で聞き入れられなかったのだ。

「あとになったらだれもが思う。『どうして、このとき動かない』。だけども、それは結果論。言ったところで変わりはしねえ。空を飛ぶのは、ロマンのかたまり。けれども、ロマンがわかりゃしねえ。それはそうだよ軍隊は、もっともロマンがない世界。話が通じぬ、当たり前」(本書より)

 忠八が自費で飛行機開発に着手したのは、ライト兄弟の偉業達成から3年後。彼の悔しさはどれほどのものだっただろう……。

 ナビゲーターの”セレブ・ド・フンコロガシ”が紹介する「アンリ・ファーブル」は、日本でも幾度となく翻訳されている『昆虫記』が有名。同書には昆虫の生態だけでなく実験の様子や苦労話も記され、時には昆虫を擬人化して紹介するというユニークな体裁が取られている。ところがセレブ・ド・フンコロガシいわく、発表当時は昆虫を研究している人の間で評判が悪かったというのだから驚きだ。

「これまでの昆虫学者は、昆虫の死体を見て、研究する人がほとんど。だから、ファーブルの早すぎる新しさが、わからなかったのね。

ほら、自分のやっていることを『正しい』と思っている人って、ほかの方法は『まちがい』だって思いやすいからね」(本書より)

 ユニークな内容ゆえに受け入れられなかった『昆虫記』だが、それでもファーブルを好きになる人は徐々に増えていったそうだ。やがてその実績を称える会が催されたものの、それからわずか5年後にファーブルは他界。晩年とはいえ、ようやく正当に評価されたファーブルの気持ちを思えば胸に迫るものを感じないだろうか。そんなファーブルを”ステキな人”と表現するセレブ・ド・フンコロガシは、以下の言葉でナビゲートを締めくくった。

「もし、みんなが、自分が愛することをみんなに広めたい。そう思ったとき、ファーブルの本はおすすめよ。だって、そこには、愛を楽しく伝える方法がたくさん書かれているもの」(本書より)

 再び日本の偉人に目を向けると、「いろいろやるのが早すぎた人物」として「平賀源内」を紹介。ちなみにナビゲーターは”女子中学生の本人”。本物の源内は男性なのだが、何か意図があってのことだろう。

 そんな源内は江戸時代に草花や鉱物についてまとめた図鑑を作ろうと、学者ながら”物産展”を開催。その後も日本で最初に温度計・歩数計を作り、土用の丑の日や破魔矢を考案するなど彼の行動は多岐にわたった。

 とはいえ”ひとつのことを極めるべき”という当時の常識から考えれば、周囲の人々にとって源内が非常識な人間に見えても仕方のないこと。いま源内の功績を聞けば誰もが「すごい」と口にするはずで、女子中学生の本人も語気を強める。

「じつは、わたしのやってきたことってさ。ぜーんぶ、みんなの時代には、ふつうにあるものなの! つまり、あることが常識になってることばかりなの!

きっと、これを読んでるみんなの時代だって、今、非常識と思われる人が、新しい常識を作っていってるはずよ」(本書より)

 時代より早く才能を発揮したために周囲から認められなかった偉人たち。彼らが見ていたのは”少し先の未来”だったのだろう。後世に名を刻んだ天才たちの生き方・感性を学べば、自分の進むべき道に確固たる自信を持てるかもしれない。

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