なんの役にも立たない、凄いおならが出るだけの大発明

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なんの役にも立たない、凄いおならが出るだけの大発明

 おならパウダー!

 破壊力満点のタイトルである。こんな愉快なジュヴナイルSFの作者が、ノワール小説シリーズ《刑事ハリー・ホーレ》で人気を博している、ノルウェー作家ジョー・ネスボだというから驚く。

 メアリ・シェリー、エドガー・アラン・ポオ、ジュール・ヴェルヌ、H・G・ウエルズなど偉大な先駆者たちとは別に、ジャンルSFのひとつの源流に素朴な発明物語がある。たとえば、1890年代に週刊(後期は隔週刊)で二百冊近くを刊行した《フランク・リード・ライブラリー》、1910年からはじまったジュヴナイルSF冒険シリーズ《トム・スイフト》(ヴィクター・エイプルトン名義で複数の作者が書きついだ)、ヒューゴー・ガーンズバック『ラルフ124C41+』(1911年)など。ガーンズバックは自身が刊行する大衆科学雑誌に、さまざまな作家の発明物語を掲載した。発明物語はサブジャンルではなく、いっそう根深いミームであり、そのもっとも成功した例が『ドラえもん』だろう。

『プロクター博士のおならパウダー』が面白いのは、肝腎の発明がなんの役にもたたない点だ。プロクター博士はすぐれた科学者だが、ずっと失敗つづきの人生を歩んできた。おならパウダーも、もともとは花粉症予防薬を作ろうとして、あやまってできてしまった。助手になった10歳の少年ニリー、彼の同級生の少女リサとともに、博士はおならパウダーの使い道を考えるが、どれもやっかいな問題を引きおこしそうで諦めざるをえない。しかし、ニリーがひらめく。

 意味ないおならブーブーでいいんだ! 特別な使い道なんていらない!

 かくして、三人はノルウェーの憲法記念日に、おならブーブー大作戦を企画する。

 このくだらなさがサイコーだ。訳者の神戸万知さんが「あとがき」で、こう指摘している。

 おなら、おしり、うんちなどといった「下ネタ」は、子どもにとって定番のお気に入りおふざけネタです。そのことばを聞いただけで笑いころげ、動物のうんちやおしりだけ集めた本もあるほどです。みなさんも、大好きでしょう?

 はい!

 さて、物語の主人公はニリー。彼は転校生で、身体が小さく、思ったとおりのことを口にしてしまうため、ガキ大将(金持ちで身体がデカい双子)に目をつけられてしまう。しかし、機転とユーモアと元気で、けっしてヘコたれない。彼がイカしているのは、トランペット好きなところ、そして愛読書が『ほんとうにいておそろしすぎる動物』だというところだ。

 いっぽう、彼とはじめて友だちになるリサは、親友のアナが引っ越してしまって以来、ずっと寂しい気持ちを抱えてきた。リサは芯がしっかりしていて大勢になびかないため、クラスでも浮いている。

 そして、科学界のハミ出し者で、人柄が良すぎるため上手に立ち回れないプロクター博士。

 まさに黄金トリオではないか。

 また、悪役(ガキ大将の双子とその父親である権力者)の徹底したクズっぷりも、ジュヴナイル小説の王道だ。クズは学ぶということがない。

 こうしたわかりやすい人物構図のもと、ニリーの冒険は空へ地下へ大きく展開する。おならパワー全開だ。トランペットも『ほんとうにいておそろしすぎる動物』も、いいかんじに物語と絡んでくる。

 この作品はシリーズ化され、現在までに五作品が刊行されている。第二弾Doktor Proktors tidsbadekaretは、タイムトラベルものらしい。

(牧眞司)

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