「正しい」とはなにか?横糸編(1) 黄砂とPM(中部大学教授 武田邦彦)
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
「正しい」とはなにか?横糸編(1) 黄砂とPM(中部大学教授 武田邦彦)
3月に小学館から「「正しい」とはなにか?」という本を出しました。多くの方が「何が正しいか」を考える時に、高校時代に勉強したソクラテス、カントなどを思い浮かべるかも知れません。でも、それだけでは日常的に起こることについて「正しいかどうか?」を自分で判断するのはかなり難しいのです。
たとえば、消費税アップに伴って自民党は「消費税アップ還元セール」のようなものをスーパーなどでやるのを禁止する法律を作ろうとしています。私のように「日本は自由主義国家」と思っている人にとっては、「なぜ還元セールが悪いの?」という気がしますが、自民党は「悪い」と思っているらしいのです。
また家族で親子げんかや夫婦げんかが絶えない人もいますが、「なぜ、ケンカするの?」ということをあまりしっかりとは考えていない人もおられます。私は大学で15年ぐらい「正しいとはなにか」という講義をして来ましたが、良く学生が「先生の講義を早く聴いておけば良かった。ケンカをしなくてもすんだのに」とレポートに書きます。
そこで、本の出すのに合わせて、本は「ある考えに基づく縦糸」のようなものですから、「ガリレオ放談」(小学館のブックピープル)と「ブログ」で横糸を書きたいと思います。第一回は黄砂とPMです。
・・・・・・・・・
黄砂は数1000万年前から絶えず大陸から日本列島に降ってくるもので、「自然現象」だ。一方、PMは石炭を焚いたりディーゼル発電などからでる人工的な物質です。黄砂が無機質、PMは有機物なので、水と油のような違いがあり、まったく別もので、また「黄砂にPMがくっつく」などということはない。
中国の砂漠などの大地から黄砂が発生するが。黄砂は太古の昔から日本に飛んできて、日本の大地を作り、食物を育て海を豊かにしてきた.黄砂は弱アルカリ性なので、とても良いものだ。
ところが、役所や最近の報道はややいい加減なので、黄砂とPMを両方「大気汚染物質」として一緒に測定したり、記事に書いたりしている。もともと、アメリカで大気中に浮遊する微小物質がPM10とかPM2.5のような指標で示すことが決まったときには「砂塵のような天然物を除く人工物」となっていたが、日本の大気汚染法令では天然物を除いていない。
黄砂は粒径が数ミクロン(4ミクロンぐらいが中心)だから、PM10にもPM2.5にも入る。PM2.5は2.5ミクロン以下と報道されることもあるが、2.5ミクロン以下の粒子が50%ある粒子群を言っているので、4ミクロンの黄砂も入る。
・・・・・・・・・
このように現在のPMの発表や規制値は「いい加減な定義、測定、発表」ということで行われ、それを元にして「中国はケシカラン!」と非難している人がいるが、このようなことは「事実を曲げて相手を非難する」ということになるので、「南京事件で中国が事実に異なることを言っている」というのと同じレベルになってしまう。
またPMの最初の事件は1953年12月のロンドンスモッグだが、ロンドンスモッグも含めて何回かあったが、隣の市や隣の国に人的な影響があったことはない。その意味では中国のPMが日本に影響を及ぼすというためには歴史的な事実、流体計算、気象解析などを十分に行う必要がある。
第一、PMの報道がほとんど東京などの都市に限定されていて、中国からのPMと分離するのは詳細な分析をするか、もしくは日本の地方の測定値を公表する必要がある。
・・・・・・・・・
この例は「正しさ」を考える上での前提条件のような初歩的な例で、まずは事実を正確に整理しなければならないことを示している.「どれが正しいか」、つまり自分の意見を定めるためには、{事実→整理→意見}という順序が必要だ。決して{好き嫌い→意見→事実}にならないように注意しなければならない。
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年03月29日時点のものです。
ガジェット通信はデジタルガジェット情報・ライフスタイル提案等を提供するウェブ媒体です。シリアスさを排除し、ジョークを交えながら肩の力を抜いて楽しんでいただけるやわらかニュースサイトを目指しています。 こちらのアカウントから記事の寄稿依頼をさせていただいております。
TwitterID: getnews_kiko
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。