落語の登場人物は失敗ばかりなのになぜ愛される? 肩の力を抜いて生きる心の在り方を学ぶ

落語の登場人物は失敗ばかりなのになぜ愛される? 肩の力を抜いて生きる心の在り方を学ぶ

 落語の登場人物には、そそっかしかったり間抜けだったり、失敗続きのある意味「ダメ人間」が多いのに、なぜ多くの人から愛され、生き生きとしているのでしょうか。

 その理由を「特に江戸庶民の社会は、現代よりもはるかに『多様性を許し、少数派さえも優しく受け入れる社会』」だったからだ、というのは落語家の立川談慶(たてかわ・だんけい)さん。これは今回紹介する書籍『仕事も人間関係も生き苦しい人のための 落語に学ぶ粗忽者(そこつもの)の思考』に記された言葉です。

 本書は立川さんが落語に出てくる「粗忽者(あわて者、そそっかしい人という意味)」のキャラクターを引き合いに出しながら、「立派に生きるべき」「何者かになるべき」といった思い込みを手放すように導いてくれる一冊です。

 生きづらいことも多い現代社会のなかで、みなさんはどのような悩みをお持ちですか? たとえば「他人の些細な言動が気になってしまう」という人は多いのではないでしょうか。

 立川さんが本書で紹介しているのが「長短」という噺(はなし)です。気長な長さんが悠長に煙草を吸う様子に、短気な性格の短七は思わずイライラ。「煙草なんて、こうやって吸うもんだ」と煙管(きせる)をはたく手本を見せたものの、気づかぬうちに火玉が短七の袖口から着物の中に入ってしまいます。長さんがそれを指摘しようとするものの、気の長い性格のためにゆっくりと問いを重ねていくうちに、着物に焦げが広がってしまう……という、落語らしい面白味のある小噺です。

 立川さんは、師匠であった立川談志さんをよく短七と重ね合わせてしまうのだとか。「実際、談志は非常に頭のいい人でした。(略)感受性が強く、類推もできる、気配りもできる。しかし目端が利きすぎるがゆえ、『他人の些細な言動が気になって仕方ない人』でもありました」(本書より)といいます。そのため、そばで見ていて「なんてしんどい生き方だろう」と驚いたそうです。

 けれど、「『目端が利く』(頭の回転が速い、才知がよく働く、機転が利く、気配り上手)というその長所を最大限に活かしてほしい」と立川さん。もしそれを「対個人」ではなく「対組織」で発揮できた場合、「業務を改善するアドバイザー的な仕事として成立するはず」「所属している組織の問題点を見つけて改善していく立場になり、リーダーシップをとっていける」(本書より)とアドバイスします。

 また、人や社会の些細な動きが気になって仕方がないからこそ、気づいたことを広く伝えることができるとも考えられます。まさに、それこそ落語界で発信し続けた談志の生き様であるともいえるかもしれません。このように「『芸』として昇華する方向を目指してみるのも、いいモチベーションになるのではないでしょうか」(本書より)と立川さんは勧めます。

 第1章から5章まで各章のテーマごとに、「『嫌い』『許せない』と思う人がいる」「誰からも理解されていないと思ってしまう」「先輩や上司との関係がストレス」などの悩みが見出しになっている本書。気になる見出しの箇所から読むのもおすすめです。

 また、最終章の第6章には、「気持ちがふっと楽になる落語10選」として「目薬」「がまの油」など10の落語を収録。読んでみて面白いと感じたら実際に寄席を観に行ってみるなど、落語の入門書としても楽しめそうです。

 「もともと落語とは、ストレスフルで過酷な環境で愛されてきた芸能」(本書より)という立川さん。世の中が生きづらい、日々の生活でストレスが溜まると感じている方は、肩の力を抜いて心穏やかに生きるヒントを本書から学んでみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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