「『ナムアミダブツのご提案.ppt』の巻」松島靖朗さんインタビュー(3/3)

access_time create folder生活・趣味

「『ナムアミダブツのご提案.ppt』の巻」松島靖朗さんインタビュー(3/3)

『彼岸寺』の人気連載『ITビジネスマンの寺業計画書』を執筆中のお坊さん、松島靖朗さんインタビュー最終回です。今回は、松島さんと『彼岸寺』の出会い、住職としてお寺を守っていくうえで感じている”事業”と”寺業”の違い、そしてこれから「やってみたいこと」について伺ったお話についてお伝えしたいと思います。お坊さんのプライベートをちょいめくりする恒例の「坊主めくりアンケート」では、松島さんのありのままの素顔を垣間見ることができます。最後までどうぞお楽しみくださいませ(第1回第2回

彼岸寺はアイスタイル以来の出会いだった

松島さんが『彼岸寺』で『ITビジネスマンの寺業計画書』を連載しはじめたのは昨年のこと。まずは、松下弓月と連絡を取り合うようになり、のちに当時はまだMBA留学でインドにいた松本圭介と知りあいました。ネットを通じて仏教を広めることを考える松下と、マーケティングの視点からのお寺改革に取り組もうとする松本との出会いは、ネット事業でマーケティングの経験を積んできた松島さんにヒット。『彼岸寺』の運営メンバーとして参加することになりました。

――松島さんが『彼岸寺』を知ったのはいつごろだったんですか?
修行前からサイトを見たりはしていたんですけども、どちらかというとコンテンツより運営メンバーの方に興味を感じていました。『Twitter』で弓月さんを知り、ネット上でのコミュニケーションを使って仏教を広めるというところでは、同じような感覚を持っている人だなと思っていました。

また、インドから帰国した松本に会ってみると、マーケティング、ビジネス、経営とお寺、仏教というところですごい興味がかぶっていて、これからライバルになる存在だという気がしたんですよ。一緒に何かできそうな感じがすごくしました。浄土宗の奈良県のお坊さんのなかにいる自分が、『彼岸寺』に参加することは、今自分として役に立てることであり成長することにもなるんじゃないかと思って。まさに、NTTデータにいた僕がアイスタイルに出会ったときと同じような気持ちでした。

――マーケティング、ビジネス、経営とお寺、仏教。ちょっと意外な言葉の組み合わせですね。
お寺を改革していくためにマーケティングの手法を使おうということです。「お寺とは何か」を因数分解して、「この要素はマーケティングでいうこれを当てはめましょうか」と考えることで、お寺がよりよくなる方法を考えられる。松本も同じ発想を持っていたので「ちょっとライバル?」という感じがしたし、すごくうれしくてしかたなかったですね。

『彼岸寺』のおふたりに出会ってからは、お坊さんとしての自分自身のドライブがかかりました。やはり、奈良の田舎のお寺にいると不安になることもあります。Iターンで戻ってきて、よく知らない人たちになじみつつ自分自身にできることを増やしていかなければいけないなかで、孤独感もありますから。同じような視点と問題意識を持っているお坊さんがいると思うだけですごく心強いですね。

――お坊さんもネットを通じて出会う時代、ですね。
そうそう(笑)。僕がネットの魅力として感じている「人と人をつなげる」ということに、自分自身も当てはまったというか。改めてネットの力はすごいなと思いますね。

“事業”と”寺業”の違いとは?

「マーケティング手法でお寺を考える」という、おそらく日本仏教史初の試みがこの春『未来の住職塾』ではじまりました。マーケティングというと「なんかビジネスやお金儲けに関係してそう」と漠然としたイメージを持つかもしれません。でも、マーケティングは”お金儲け”に直結するものではなく、現状を分析するための方法。「マーケティングの視点で企業を見るときとお寺を見るときの違い」をちょっと教えていただきました。

安養寺本堂内のようす

――マーケティングの視点でお寺を見る場合、企業を見るときと共通する部分としない部分があるのかなと想像しています。
一番面白い違いは、会社の場合は商品の値段を決めるのがすごく楽しくて重要な仕事なんですけども、お寺では一切できないことです。お坊さんは、自分が提供しているものに値段をつけられないし、またそこが逆に一番面白いところでもあって、僕自身も新しいことにチャレンジしている気がしています。

値段をつけられないことに価値を感じてもらえるとしたら最強じゃないかと思うんですよ。「値段をつけて売る」ことがある意味当然とされるなかで、その大きく重要な条件を外した状態で生きられるなら僕自身も変わってくると思いますから。

――マーケティングという言葉にはどこかお金の匂いがしますが、手法そのものはお金儲けとは関係ないんですね。
そうです。でも、マーケティング=お金儲けではないとわかっているのは、お金儲けをする世界にいる人だけなんですね。『未来の住職塾』は、お金儲け以外のことにマーケティング手法を使う場でもありますから、そこからイメージが変わっていくかもしれませんね。

つまり、端的に言うとマーケティングって「NEEDS」と「SEEDS」をつなげるための手法なんです。たとえば、「苦」を抱えている人たちが持つ「NEEDS」に、阿弥陀さまという「SEEDS」をつなぐためにどうするのかと考えるのがお坊さんのマーケティングのひとつかもしれません。

――お寺とお坊さんのマーケティング、いろんな答えが導かれそうです。
会社にいたときは、「誰に何をいくらでどのように提供するか」という方程式に当てはめて課題を考えていたんですね。お寺では「いくらで」と値段をつけませんし、提供するものも日用品や化粧品とは違い「信仰」という目に見えないものだからすごく難しいです。今は、その答えを探す旅がはじまったところです。

お寺ごとに条件も違うから、僕のお寺でできたから他のお寺でできるとも思わない。僕ができたことが他のお坊さんにできるかというとそうでもない。それぞれ、自分自身で考える状態にしていきたいというのが少し先のイメージというか、活動のなかでやってきたいことのひとつです。

八宗兼学プレゼン大会で「ナムアミダブツのご提案」!?

松島さんの語り口の面白さは、やはり仏教の言葉とビジネス用語が絶妙にミックスされていること。蝉丸Pさんが「ニコニコ動画の文法で仏教を説いた」ように、松島さんはきっと「ビジネスの文法で仏教を説く」ことができるお坊さんだと思うのです。


当麻寺 練供養会式にてお勤めされる松島さん(晴れ姿!)

――これから、お坊さんとしてやってみたいことはありますか?
『彼岸寺』には、せっかくいろんな宗派のお坊さんが集まっているわけだし、それぞれの宗派の教えをお互いに紹介しあう場があってもいいんじゃないかと思うんですよね。違いに対して喧々諤々の議論をしたいわけではなくて、お互いに知らない状態でいることは気持ち悪くて。知ったうえで「それでもお念仏のほうがいい」と思えるなら自分の信を強化することになるだろうし、そうじゃないかもしれない。そういう場を持ちたいなあ。

――それはもう、八宗兼学プレゼン大会しかないですね(笑)。
それ、すごくやりたいです(笑)。実はね、「南無阿弥陀仏のご提案」っていうパワーポイントを作りはじめているんです。これを見せながら、営業するかのようにやってみようかと思って。

お坊さんが既存の檀信徒さんに対して、教えを深めていく場はあるんですけど、新規開拓はあまりやっていないですよね。僕は、まったく新しい人に対して布教する場を開拓したいんです。一番厳しい場だと思うんですけど、今後は絶対に必要なことだと思いますね。

地域活性化に必要なものは「わかもの」「よそもの」「ばかもの」だと言われています。僕もこれを強く意識して、「お坊さん2年目のわかもの」「東京から戻ってきたよそもの」「浅学菲才なばかもの」として、仏教界でふるまっていきたいと思っています。

――「こんなお坊さんになれたらいいな」というイメージはありますか?

理想のお坊さん像というのは特にないんです。今は、お勤めもいろんな作法もていねいにやりたいと思っていて。自分を律してやり続けた結果、何かしらいいお坊さん、しゅっとした立派なお坊さんになっていたらいいなと思います。ちょっと、イチローの影響を受けているんです(笑)。

『彼岸寺』や『未来の住職塾』みたいに新しいこともしたいんですけど、奈良のお寺でルーティンの決まったことをしっかりやり続けることも大事にしていたいですね。

――バランス良く、ですね。今日はありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします!(完)

坊主めくりアンケート

1)好きな音楽(ミュージシャン)を教えてください。特定のアルバムなどがあれば、そのタイトルもお願いします。

BennieK(今はプロデューサーになったVOCALのYUKIちゃんがタイプです)

2)好きな映画があれば教えてください。特に好きなシーンなどがあれば、かんたんな説明をお願いします。

「クライマーズ・ハイ」。日航ジャンボ機墜落事故という大事件を題材に地方メディアの編集部と営業部がガチンコで繰り広げる世界が何度見ても熱い。堤真一演じる全権デスク悠木の「チェックダブルチェック」という編集方針、尾野真千子演じる玉置部員の眉間の皺に萌えます。

3)影響を受けたと思われる本、好きな本があれば教えてください。

山崎豊子「不毛地帯」。商社マンになるしかない!と思ったキッカケの本です。

4)好きなスポーツはありますか? またスポーツされることはありますか?

登山とサーフィン。この数年は山も海も行くことができていません。いつ行けるのでしょうか…。

5)好きな料理・食べ物はなんですか?

すみません。焼肉です。特にハラミ。


6)趣味・特技があれば教えてください。

趣味:銭湯でも温泉でもとにかくお湯に浸かってゆっくりしているときが一番リラックスできます。
特技:くだらないつぶやき


7)苦手だなぁと思われることはなんですか?

お坊さんがいっぱいいる集まりに参加することがだいぶ苦手です(苦笑)


8)旅行してみたい場所、国があれば教えてください。

フランスのカフェでパリジェンヌと他愛もないお話がしたいです。


9)子供のころの夢、なりたかった職業があれば教えてください。

とにかくビジネスマンになりたかった。当時はITなんて業界はなかったので商社マンとして世界中を駆け回りたかった。デスクの上には地球儀、デスクの後ろの壁には世界時計。秘書は4ヶ国語を操るパリジェンヌ。


10)尊敬している人がいれば教えてください。

法然上人、イチロー、山崎豊子


11)学生時代のクラブ・サークル活動では何をされていましたか?

帰宅部でひたすらアルバイト。稼いだお金をバイクやデートにつぎ込んでいました。


12)アルバイトされたことはありますか? あればその内容も教えてください。

ガソリンスタンド・コンビニ店員・高原野菜農場での住込み作業・水牛引き・コールセンター・ホームページ制作・裁判所傍聴券の行列etc

13)(お坊さんなのに)どうしてもやめられないことがあればこっそり教えてください。

綺麗な人を見ると声を掛けたくなる。アットコスメを毎日見ている。


14)休みの日はありますか? もしあれば、休みの日はどんな風に過ごされていますか?

毎月2ヶ月先までの予定を組むのですが、その段階では何も予定が入っていなかった日も結果的にお参りにっていたということの繰り返しです。3ヶ月に一度ほど短い休みをとって温泉や海に出かけています。でも携帯電話がなったらすぐにお寺に戻ります。


15)1ヶ月以上の長いお休みが取れたら何をしたいですか?

黒谷金戒光明寺でたっぷり修練したいです。


16)座右の銘にしている言葉があれば教えてください。

「笑いのある人生」


17)前世では何をしていたと思われますか? また生まれ変わったら何になりたいですか?

前世はわかりませんが、極楽浄土に往生して爺ちゃんに会いたいです。


18)他のお坊さんに聞いてみたい質問があれば教えてください。(次のインタビューで聞いてみます)

「お坊さんとして実現したいことは何ですか?」


19)前のお坊さんからの質問です。「あなたの理想のお寺はどんなお寺ですか?」

お寺にお参りすることが待ち遠しい!と想われるお檀家さんが沢山いらっしゃるお寺が理想のお寺でしょう。

プロフィール

松島靖朗/まつしませいろう

法性山専求院安養寺所属。1975年奈良生ま
れ。早稲田大学商学部卒。新卒で株式会社NTTデータに入社。ビジネスインキュベーションセンター勤務の後、
株式会社アイスタイルでアットコスメのWEBプロデュースに従事。2008年退職後、実家のお寺を継ぐべく奈良で修行生活を送る。2010年12月伝宗伝
戒道場成満。
http://higan.net/apps/mt-cp.cgi?__mode=view&id=30&blog_id=75

法性山専求院安養寺
奈良県磯城郡田原本町八尾四十


永十年(1633年)創立の浄土宗寺院。本堂・地蔵堂・鐘楼などの伽藍は当時からのもので、地元の檀信徒のための檀家寺として護持されている。昭和六十年
(1985年)に安置されていた阿弥陀如来像が鎌倉時代の仏師快慶作のものであることが判明し、国・重要文化財の指定を受ける。以来、檀信徒のみならず全
国より参拝者が訪れるお寺に。
檀信徒向け法要の他に、一般の方も参加可能な写経会、阿弥陀堂参拝、念仏会などを開催中。予約が必要ですので電話等でお問い合わせ下さい。(0744-33-0753)
Facebookページ: http://www.facebook.com/anyouji

○連載:坊主めくり

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 「『ナムアミダブツのご提案.ppt』の巻」松島靖朗さんインタビュー(3/3)
access_time create folder生活・趣味
  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。