「キミはこの世に向いてないと思うよ」に驚愕!の巻/神谷町オープンテラス店長 木原健さん(1/3)

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「キミはこの世に向いてないと思うよ」に驚愕!の巻/神谷町オープンテラス店長 木原健さん(1/3)

東京・光明寺の「神谷町オープンテラス」(以下「テラス」)は、2005年に彼岸寺の松本圭介や青江覚峰が立ち上げて以来、「お寺カフェ」としてテレビや雑誌で何度も取りあげられ「若いお坊さんたちの新しい動き」のシンボル的な存在です。木原健さんは、この「テラス」で”店長”をするうちにお坊さんになってしまった人。いわば、「お寺カフェ」から出家された方なのです。

インタビューは、「テラス」のソファで、都心のお寺の境内に吹く風が木をわたるさざめきのような音、そして鳥たちの声をBGMにして、リラックスした時間のなかで行いました。

お坊さん、人生相談にまさかのコメント!?

木原さんは「普通のサラリーマン家庭」に生まれ、仏教とは特にご縁なく育ちました。ところがある時、思いもしないかたちで”仏縁”がヒョイと木原さんのところにやってきました。学生時代の友人、彼岸寺の松本圭介の突然の出家です。「たまたま友達がお坊さんになってしまった」ということが、意外なかたちで木原さんとお寺のご縁を結ぶことになったのです。

――木原さんは、どんなふうにして光明寺とかかわるようになったんですか?

大学卒業後しばらくした頃、松本のところへ人生相談に行ったのがはじまりでした。

――差し支えなければ、どんなことを相談したのか教えていただいても?
いいですよ。「どうやって生きていこうか。こんなに仕事もないし」と。悩んでいるうちに「お坊さんになった松本っていうやつがいたなあ」と思い出したんですね。お坊さんに話を聴いてもらいたいし、仕事のことも相談に乗ってほしくてここへ来たんですね。

――それはいつ頃のお話ですか?
2003年の夏、まだ松本がお坊さんになったばかりの頃でした。私は、公務員試験の勉強をしていたのですがなかなか芽が出なくて。思うところはあるけれどこの先どうしたらいいのかわからないという感じでいました。

――木原さんのご相談に、松本さんはなんと答えられたのでしょうか。

そうですね。今でも覚えていますけども「キミは、この世に向いていないと思うよ」と言いました。

――えっ…? そう言われて、木原さんはどう思われたんですか?
「ひ、ひどいなあ。なんだよ、せっかくここまで来たのに。ひどいじゃないか」と(笑)。

――切々と人生の悩みを打ち明けたら「この世に向いていないと思うよ」と(笑)。
ええ……。まあ、その後、いろいろと仕事上のアドバイスはくれましたけども。そのときはウェブデザインの仕事のことを考えていたので、学生時代はウェブデザイナーでもあった松本に話を聞きに行ったんですね。でも、何よりも強烈に覚えていますのは「この世に向いていない」という話ですね。

――「この世に向いていない」ってどういう意味だったのでしょう。
どういう意味でしょうね。その意味を今でもかなり、考えながら日々生きているんですけども、私は。おそらく、一般的な勤め人に向いていないんじゃないかということを……と解釈したいんですけども。当時の自分を振り返れば、世間離れしていたという意味です。おそらく。

神谷町オープンテラスに置かれていた「おぼうさん、はじめました。」

――松本さんは、たまにすごいことをおっしゃいますよね。私も先日「杉本さんも得度しちゃいなよ」って言われました(笑)。
あははは。「なにこの飛躍は!」と思いますけれども、彼のなかでは筋が通っているんですよね。

――はい(笑)。話を戻しますと、それで旧交が温められるとともに光明寺とのかかわりがはじまったんですね。
ええ。当時、松本は境内にある建物に住んでいたので、どちらかと言うと「お寺に行く」より「松本の部屋に行く」という感じで光明寺へ来たのですが、話が一段落すると松本がやおら立ちあがったんですね。どこへ行くのかな? とついて行くとこの本堂でした。

私はふつうのサラリーマン家庭で育ち、仏教とのご縁は特にありませんでした。19歳で母を亡くしたときにお葬式を経験していましたが、仏教とのご縁にはそのときは恵まれなかった。目の前のことがうまく受け入れられなくて、お経もお話も耳には入りませんでした。来てくれたお坊さんのことも印象がないんです。ふだんのおつきあいがないからしょうがないのかなという感じですけども……。だからかな、あまり仏教に対してもいいイメージはなかったんですよね。

ところが、友人が僧侶になったので会いに行ったらそんなことを言われ、「ええー?」と思いながらも本堂について行って、松本が讃仏偈をあげるのを聴いたんですね。はじめて聴くお経でしたが、なんだかしみいるようで。「意外に、お寺って悪くないのかなあ」と思いながら本堂で座っていました。それが光明寺での原体験、といったことでありましたね。

前代未聞の”お寺カフェ”店長にオファーされる

松本圭介さんの「おぼうさん、はじめました」には、松本さんがお坊さんになった頃の光明寺のようすが生き生きと描写されています。木原さんは、「テラス」に置いてあるサンプルを手に取り、「ほら、ここにもありますように」と愛おしむように当時のことを話してくれました。

ちなみに松本さんは、木原さんのことをこんなふうに書かれています。「決してわざと人を笑わせようとかしているわけではないのだが、天使は自然と周りの人を笑顔にさせる力を持っているらしい。お寺に天使というのもへんだけれど、どうも他にうまい形容詞が見つからない」。

神谷町オープンテラスのメニュー

――「テラス」の店長にというお話はどんなふうに?
その後は、ちょくちょく「誰そ彼」(光明寺で開催される音楽イベント)にお客さんとして遊びに来るようになり、「なんか面白いなあ」と思っていました。彼の「テラス」構想は、2005年の1月か2月頃から始まって、話は聞いていたのですが、ある日企画書を見せられて「木原くん、よかったら店長をやってくれませんか」とオファーを受けました。

――最初から、店長としてここに参加するようになったんですね。
そうです。はじめた頃は、週5日でやっていて、頼まれれば全席に無料でお茶をお出ししていました。私は時間だけはあったから毎日お寺に来ていました。しばらくはほとんどがらがらで、「お客さん、ほんとに来るのかな」なんて話してみんなで笑ってました。

ところが、松本の「東大卒僧侶の『お坊さん革命』」でも触れられていましたがあるときから「行列のできるお寺」になってしまったんです。カウンターの前にアイスコーヒーを待つ人が5人いて、ざわざわしている様子は「ちょっと違うよな」と。やはり、お寺に来られる方にとっても落ち着かない部分もありまして。

4年目からは、ご予約をいただいて「おもてなし」をするというゆっくりしたスタイルに変えました。今は私ひとりのことが多いですし、おもてなし用の席をいくつか作ってそこにお客さんをお迎えしています。じっくりやろうかなというのが今ですね。

――しばらく時間を過ごしたい方は入り口近の席でさざ波のように回転していく。そして、しっかりお坊さんとお話したい方は奥の席のほうへ。
そうですね。おもてなしは1回に50分くらい。一度にお話できるのはふた組くらいまでです。余裕を持ってやっていこうと思っていますので。

――「テラス」には必ずお坊さんがいる、という決まりはあるんですか?
決まりはないですけども、お寺の境内を預からせていただいているわけですし、お坊さんがいたほうが「お線香はどこですか?」ということからご相談ごとまで何でも対応できて安心ですからね。できるだけ、お坊さんがいたほうがいいとは思っていました。ただ、どうしてもお坊さんはみんな忙しくなってしまって、2007年頃からは「たまにお坊さんが来るよ」という場所になりまして。しばらくは、私とスタッフ何人かだけでやっていました。

――そうしたら、今度は木原さんが出家をされて。
そうです。2009年、3年前の5月16日に得度をしました(第2回「無常の風に吹かれて出家の巻」へ続く)。

プロフィール

木原健(祐健)/きはらたけし(ゆうけん)
1978年神奈川県生まれ。浄土真宗本願寺派僧侶。
東京・神谷町光明寺所属。法政大学社会学部社会学科卒業。お寺カフェ「神谷町オープンテラス」に設立時より参加。主に来訪者の接遇を担当。現場の長として「店長」の愛称で親しまれている。お寺を訪ねる様々な人との出会いに恵まれて2009年に得度。仏教を通じて今を生きる人の役に立てればと試行錯誤の日々。
http://higan.net/apps/mt-cp.cgi?__mode=view&blog_id=58&id=161

光明寺
http://www.komyo.net/
浄土真宗本願寺派 梅上山
光明寺。1212年創建。かつての山号は真色山常楽寺。創建当時は天台宗だったが、関東滞在中の親鸞聖人の教化をご縁に浄土真宗に宗旨を改めた。室町時
代、疫病の流行に際し、常楽寺の本尊・阿弥陀如来像が光明を放って人々を救ったと信じられたことから、常楽寺を改め「光明寺」と称する。さらに、江戸時代
には徳川家康が境内の梅を喜んだ故事に因み、三代将軍・家光から「梅上山」の山号を贈られて山号も改称した。現在は、東京・神谷町、千葉の君津、埼玉の草
加にお寺を構え、昔からのご門徒(お檀家)のみならず、あらゆる有縁の方々に「わたしとお寺の新しい関係」を結んでほしいと願い、その機会を作るべく積極
的な動きを見せている。

神谷町オープンテラス
http://www.komyo.net/kot/

明寺境内に開かれたオープンスペース。東京メトロ日比谷線
神谷町駅前から徒歩1分、オフィスビルに囲まれた立地を活かして、周辺で働く人々や地域住民に憩いの場を提供している。飲食物の持ち込みは自由、ランチタ
イムや休憩に立ち寄ってみたい。境内に入って目の前にある大きな階段を上がって左側、2階部分にテーブルとイス(一部はソファ)が用意されている。お墓の
向こうに見える東京タワーがある意味絶景。ひとやすみの前後には、ありがとうの気持ちを込めて本堂の阿弥陀さまにもお参りしよう。水・金は木原店長による
おもてなしもあり(要予約)。

オープン時間:平日9:00-17:00
※土日祝日はお寺の行事(ご法事)のためご利用をお控えください。
※曜日に関わらず、春彼岸(3月17日―24日)、永代経(4月15日)、お盆(7月)、秋彼岸(9月20日―26日)、報恩講(10月15日)の時期はご利用をお控えください。
※平日でもご法事やご葬儀などお寺に都合により臨時クローズあり
※「おもてなし」予約、オープン予定の詳細はウェブサイトで確認を。

お寺の音楽会 誰そ彼
http://www.taso.jp
音楽好きの僧侶と僧侶ではない音楽好き達が開催するライブイベント。「本堂で音楽を聴いてみよう」という軽い気持ちから始まった、言わば”お坊さんのホーム
パーティー”。ふだんは光明寺で開かれるが、静岡・伊東のお寺での『お寺と温泉ライブ あじさいさい』、築地本願寺『本願寺LIVE 他力本願でいこう』などにも協力している。

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○連載:坊主めくり

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