ゴールドラッシュの小惑星で繰りひろげられるアクションSF
ロバート・シルヴァーバーグ『小惑星ハイジャック』(創元SF文庫)
ペイパーバック作家だったころのシルヴァーバーグ作品。二冊分が背中合わせで一冊になっているエース・ダブルの”片面”として、1964年に発表された。
こういうのが読みたかった!
知るひとぞ知る傑作――というわけではない。正直、マイナーな作品だ。しかし、いまの時代、こういう肩の凝らない、テンポが良くコンパクトなSF(文庫本二百ページ弱の尺)は貴重だ。過去に遡ってさがせばまだまだあるはずだが、まず翻訳されない。まあ、そればかり翻訳されるようになったら、それはそれで困るのだけど。
二十三世紀、小惑星帯で希少元素を採掘するゴールドラッシュが起きていた。大学院を出たばかりのジョン・ストームは大手企業の誘いを断り、旧型の宇宙船を駆って、単身、宇宙へ向かう。恋人のリズには、二年間のうちに有望な鉱脈が見つからなければ諦めると言い残して。
彼はついていた。二年の期限が迫っていたとき、全体に鉱脈が広がった小惑星を発見する。大当たり!
しかし、火星経由で地球へ戻ったジョンは、たしかに登記したはずの小惑星の記録がないこと、それどころか市民としての彼自身の記録が消えていることに驚愕する。手続き上の瑕疵か、コンピュータのエラーか、役所にかけあってもなかなか埒が明かない。憤懣が収まらずに歩いているところを、走ってきた黒リムジンから銃撃される。
自分は犯罪に巻きこまれたのだ。もう誰も頼りにできない。ジョンは謎を追って、火星へ、さらに小惑星へと向かう。
プロットも登場人物の造型も単純明快で、スナック菓子のような感覚で読める。
ことの発端を小惑星においているだけで、物語のパターンはSFである必要もなく、西部劇だって海洋小説だってかまわない。
……と思っていると、そこはさすがシルヴァーバーグ、終盤ではちゃんとSFのギミックを用意している。ジョンは鉱脈が広がる小惑星で、思いもよらない光景に遭遇するのだ。
まあ、その「思いもよらない光景」も、実際はSFが積みあげてきたアイデアの倉庫からのリユースなのだが、それも含めて楽しく読める。
(牧眞司)
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