東大教授 松尾豊氏が語る、DX時代のディープラーニング活用とは?
日本最大級の人工知能の専門展「AI・人工知能EXPO」。第5回は4月7日~9日の3日間にわたって開催された。最終日にはAI研究の第一人者と知られる松尾豊氏によるセミナーが実施。ディープラーニングの活用例やDXに取り組むべき理由、成功への秘訣などが説明された。
東京大学大学院教授であり、日本ディープラーニング協会理事長も務める松尾氏。企業との連携や起業家育成にも力を注いでおり、研究室からはグノシーをはじめとする話題のベンチャーを輩出している。
人工知能の研究を30年間近く続けている松尾氏。AIにはI T、データなど様々な要素があるが、データをビジネスにスムーズに活かせていない近年の日本においては、ディープラーニングによるイノベーションが必要であると説明する。
冒頭ではディープラーニングの活用事例が紹介された。コロナ禍で一般的となった施設入館者の体表温測定もその一つだ。これにはディープラーニングによる画像認識処理が行われているという。
日立造船では目視で実施していた化学プラント熱交換器の検査を、AI超音波探傷検査システムで効率と精度を向上させ、2020年にはディープラーニングビジネス活用アワードの大賞も受賞した。さらにディープラーニングは農作物の収穫や農薬散布、養殖魚への給餌コントロール、漫画の自動翻訳機能や静止画のアニメーション化など、農業、水産業、エンタメなど幅広い分野で活用が進んでいる。
日本ディープラーニング協会(以下JDLA)ではディープラーニング活用に寄与する人材育成に注力しており、2017年より資格試験をスタート。ビジネスパーソン向けのG検定(Deep Learning for GENERAL)、エンジニア向けのE資格(Deep Learning for ENGINEER)を提供する。近年では“取得したい資格ランキング”の上位に君臨するほど高い人気を得ているという。
さらにオンライン講座「AI for Everyone」を開設。一般のビジネスパーソンがAIやディープラーニングをビジネスに活かすための最適な入り口になるといえよう。
JDLAは高専生向けのディープラーニング教育にも尽力しており、その一環として「高専DCON」を開催している。これは高専生が社会課題をテーマとしたディープラーニングソリューションを発表し、それに対してバリエーションをつけて評価を行うというものだ。プレ大会として開催された2019年は、目盛り点検をディープラーニングで自動化させるソリューションを発表した長岡工業高専が4億円、送電線の傷をディープラーニングで発見する点検ロボットを発表した香川高専が3億円のバリエーションを獲得した。
2020年の第1回大会では東京工業高専、鳥羽商船高専、佐世保工業高専の3校が5億円のバリエーションを獲得するというレベルの高い大会となった。東京工業高専は墨字文書を点字翻訳する際にディープラーニングを用いて要約するシステム、鳥羽商船高専はミカンの葉の状態をディープラーニングの画像認識で解析し、高糖度をキープさせる水やりロボット、佐世保工業高専は市場の魚をディープラーニングの画像認識で瞬時に見分けるシステムを発表した。
続いてディープラーニングの技術的トレンドが紹介。ディープラーニングにおいて注目される自然言語処理(N L P)は、2018年からは急激に精度が向上し、GLUE評価では人間の精度を超えたという。そのきっかけはBERTを組み込んだTransformerモデルだ。Transformerを実現する中で大きなポイントとなるのが、主に穴埋め問題のような形式で自己学習を進める「自己教師あり学習」であると松尾氏は指摘。この学習のメリットは、背後にある構造が学習可能となること、目隠しする前の状態の教師データによって学習が円滑に進むことなどがあるという。
最後に「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」について言及された。松尾氏はDXには「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」というプロセスがあると説明する。デジタイゼーションとは、紙で行われていた資料のデータ化など、アナログをデジタルに変えることを指す。一方でデジタル化されたものを業務効率化や価値向上に活用することがデジタライゼーションとなる。
DXの事例としてタクシー業界が取り上げられた。デジタイゼーションの段階ではタクシー配車時に利用者、オペレーター、ドライバー間の連絡が全てアナログで行われていたが、デジタライゼーションの段階ではAIによる位置情報によって効率化が大幅にアップした。このデジタライゼーションによって誕生したのが米国の送迎サービス「Uber」だ。
小売業界においては、紙媒体で行っていた売上管理をシステム化することがデジタイゼージョンであり、それらのデータを在庫管理や顧客サービスに活かすことがデジタライゼーションの段階に該当する。海外では「Amazon GO」のようにアプリや商品・顔認識などのディープラーニング技術を駆使した新モデルの店舗も登場しているという。
企業がAIやDXを用いたプロジェクトを進める際には、目標達成のためのリテラシー強化が不可欠であると松尾氏は強調。AIリテラシー習得のための取り組みとして、JDLAでは新AI基礎講座「AI For Everyone」を2021年5月6日に開講する。企業のDX実現を見据え、経営層の目標設定や全社員のリテラシーの向上を図っていく。
今後、ディープラーニングの技術はさらに飛躍し、経済に大きく発展していくと話す松尾氏。今後どのような新しいビジネスが登場するのか、各業界から注目が集まるに違いない。
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