独自のセンスで選んだ七篇、中国とアメリカの状況を照らしあう

独自のセンスで選んだ七篇、中国とアメリカの状況を照らしあう

柴田元幸・小島敬太編『中国・アメリカ 謎SF』(白水社)

 非常に変わった成りたちのアンソロジー。SFでアンソロジーを編む場合は、年刊傑作選や作品傾向といったテーマをあらかじめ決めるものだが、本書は、小島さんが中国担当、柴田さんがアメリカ担当で、ここ数年読んだ短篇SFのなかから選りすぐる企画だ。唯一の条件は、日本ではほぼ未紹介の作家であること。中国が三作家四篇、アメリカが三作家三篇、これを交互に排列して全七篇の一冊になっている。

 作品内容についての相談をしていないのに、実際に選んで並べてみると、作品間に響きあうものが感じられる。図らずも生まれた出会いの妙だ。そこから浮かびあがったキーワードが「謎SF」である。

 中国では、タイトルが出オチの梁清散「焼肉プラネット」。不時着した惑星が灼熱の大地で、現住種族はことごとく焼き肉(ただし生きて動きまわっている)という、なんともバカバカしいシチュエーションである。主人公は高耐熱・気密、酸素供給がじゅうぶんの宇宙服を着ているので生存できるが、喫緊の問題は食事(栄養確保)だ。焼き肉はそこらにいるが、宇宙服を脱ぐと熱で死ぬ。かんべむさしを思わせる、ちょっと懐かしいスラップスティックSF。

 いっぽう、アメリカ作品のいちばんは、ブリジェット・チャオ・クラーキン「深海巨大症」。伝説上の生物である海修道士(シー・マンク)を探す目的で、原子力潜水艦が出発する。探検隊はチームリーダーである胡散臭い管理職トレヴァーと、三人の女性研究者、そして主人公のルビー(前職は教会の受付係)。ほかに艦長や調理人がいるはずだが、なぜか姿をあらわさない。ルビーの唯一の使命は、バチカンからの教皇大勅書を海修道士へ届けることだ。冗談としか言えない動機だが、物語はシリアス、というよりグルーミーな雰囲気で淡々と進んでいく。描かれるのは探検隊五人のあいだの、冷たく澱んだ、しかし発火物を潜ませたような関係だ。トマス・M・ディッシュを思わせる不条理SF。

 そのほかの作品も面白い。簡単に紹介しよう。

 ShakeSpace(遥控)「マーおばさん」は、蟻の群れが創発する集団知性をITの実験と繋げた寓話タッチの一篇。ヴァンダナ・シン「曖昧機械」は物語のなかに物語が埋めこまれるボルヘス的展開だが、それを〈概念的機械空間〉という数理的意匠でパッケージしたところが独特のセンス。王諾諾「改良人類」はデザイナー・ベイビー普及の行きどまりを描く。中核にあるのはストレートな文明批判だが、冷凍冬眠から目覚めた人物の視点で描くことで物語にサスペンスの味わいを加えている。王諾諾がもう一篇。「猫が夜中に集まる理由」は、シュレディンガーの猫を題材にした素朴なアイデア・ストーリー。テッド・チャンを思わせる構図ではあるが、ロジックや哲理はほぼ省みられず、あくまで情緒的に物語を運んでいる。マデリン・キアリン「降下物」は、核戦争後の荒廃した世界へ、過去からの時間旅行者(語り手)がやってくる。語り手は、戦争で失われた知識を有しているがため、ひとびとからの過大な期待を集めるが、自分自身は言いようのない孤独を募らせていく。時間旅行は一方通行、しかも乗ってきたマシンはもう使えないのだ。

 巻末には、編訳者おふたりによる「対談」を収録。このアンソロジーの成立経緯のほか、互いが選んだ作品がどのように対照しているか、中国とアメリカの現状がいかに反映されているかなど、作品観賞のガイドとしても役立つ。

(牧眞司)

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