何も考えず服従するのは気持ちがいい? 「ファシズムの体験学習」が教えてくれること

何も考えず服従するのは気持ちがいい? 「ファシズムの体験学習」が教えてくれること

 少し前に話題となった「ブラック校則」。ツーブロック禁止や下着の色指定など、意図がよく分からない校則が現存する学校は多く、多様性や個人の尊重という観点からも見直そうという動きが出ています。

 そんな理不尽な校則を再考する際に一読しておきたいのが、今回ご紹介する田野大輔さんの著書『ファシズムの教室:なぜ集団は暴走するのか』です。

 本書は、「ファシズムの危険性に気付かせること」を目的に田野さんが大学の授業で行った「ファシズムの体験学習」の記録で、その内容はナチスさながら。「ハイル、タノ!(田野万歳!)」と敬礼、キャンパス内を集団で行進し、カップルを囲み「リア充爆発しろ!」と叫ぶというものです。もちろん、このカップルは事前に仕込んだ「サクラ」で、一連の行動にも台本があるロールプレイ。安全面にじゅうぶん配慮した上で実施されました。

 いささか滑稽に見える疑似体験ですが、参加者が特異な体験を重ねるうちに徐々に良心を失っていく様子を、本書では以下のように分析しています。

「『指導者から指示されたから』『みんなもやっているから』という理由で、参加者は個人としての判断を停止し、普段なら気がとがめるようなことも平然とおこなえるようになる」(本書より)

 そして、ナチスが「恐怖政治」で民衆を服従させていたわけではなく、民衆が自発的にナチスを支持していった面に触れつつ、責任感を持たない「権威への服従」が独特な快楽をもたらし、誰しもそこに魅了されてしまう可能性を含有していることを伝えています。

 さらに本書で見逃せないのが「制服」の効果にも言及している点です。「同じ制服を着ることが集団意識にどんな変化をもたらし、いかにしてファシズムと結びつくのかを認識させることは『体験学習』の最も重要なねらいの一つである」(本書より)という観点から、授業中は全員白シャツ・紺色ジーンズでパンツインという服装を指定していました。

 田野さんのねらいはどのように作用したのでしょうか? 体験学習に参加した大学生からのコメントをいくつか紹介します。

「制服もロゴマークも身につけていないくせに集団にまぎれ込んでいる人を見ると、憎しみすら感じた。規律や団結を乱す人を排斥したくなる気持ちを実感した」(本書より)

「250人もの人間が同じ制服を着て行動すると、どんなに理不尽なことをしても自分たちが正しいと錯覚してしまう」(本書より)

「運動会でやったことと同じだと思った」(本書より)

「中学・高校で制服を着ていたことが怖くなった」(本書より)

 コメントからは、全員が同じユニフォームを着用して同じ行動を取り、集団への帰属意識が生まれる中で、やがて1人の人間としての感情が麻痺していくに至るリアルな心理が伝わってきます。

「受講生は実習での体験をふり返って、自分が感じた高揚感や万能感、胸躍るような充実感にこそ危険があることに気づき、それに流されないための内面的な歯止めを身につけるようになる。その意味で、『ファシズムの体験学習』は一種のワクチン接種のような効果を持つと考えられる」(本書より)

 著者がワクチンと例える通り、本書は集団行動の危険性を察知できる「免疫」を獲得するための最適な入門書と言えるでしょう。近年、教育現場では、従来型の管理教育から生徒主体の実践型アクティブ・ラーニングへ方針が転換されつつあります。本書を読んだ上で、今一度、学校がなぜ校則や制服を取り入れているのか、その意義を問い直す必要があるのではないでしょうか。

[文・山口幸映]

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