第102回 『キング・コング』

『キング・コング』
1933年・アメリカ・100分
監督/メアリン・C・クーパー、アーネスト・B・シュードサック
脚本/ジェームズ・クリールマン、ルース・ローズ
出演/フェイ・レイ、ロバート・アームストロング、ブルース・キャボットほか
原題『KING KONG』

***

 告知映像が小出しに配信され「メカゴジラも出るのか?」などとお祭りムードの日米怪獣タイトルマッチ『ゴジラVSコング』。コロナ禍の影響でどうなるかはわからないが、今のところ3月にシンガポールから公開がスタートする予定だ。そこで今回は、そもそも最初の『キング・コング』はどんな映画だったのかを解説していこう。

 キングコングと言えば、若い映画ファンには『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのピーター・ジャクソン監督『キング・コング』(05年)、あるいはレジェンダリー・ピクチャーズの『キングコング 髑髏島の巨神』(17年)を真っ先に浮かべるかもしれないが、その全ての始まりが1933年に公開された『キング・コング』だ。当時これに若き日の特撮の神様・円谷英二がインスパイアを受け、やがて『ゴジラ』が生み出されるのだ。ストーリーは単純明快で、特撮パートを十二分に引き出す見事な展開を見せる。

 映画監督のデナム(ロバート・アームストロング)は、ニューヨークの町中で万引きしていた女優志願のアン(フェイ・レイ)を拾い、新作の冒険映画にヒロインとして大抜擢する。撮影スタッフは海図に載っていない未知の島・スカルアイランドに上陸するが、アンが原住民に拉致され何かの生贄として祭壇に繋がれる。デナムと船員ジャック(ブルース・キャボット)らが取り戻しに行くと、そこへ姿を現したのは原住民に「コング」と呼ばれる10メートル以上もある巨大な類人猿だった。

 アンを掴んでジャングルへ帰っていくコングをデナム達は追うが、そこは恐竜や古代生物がウヨウヨしている原始世界だった。アンはティラノサウルス、足のある大蛇みたいな爬虫類、翼竜プテラノドンに食われそうになるが、すべてコングが身を挺して守り、傷だらけになりながら倒していく(頼もしい)。単身コングの巣に潜り込んだジャックは、コングとプテラノドンが戦っている隙にアンを救出する。

 画面の奥から客席に向かってドドドと走ってくるステゴザウルス、湖面からヌーッと首をもたげるブロントサウルス、コング対ティラノサウルスの激闘……ウィリス・オブライエンがクリエイトした恐竜達に当時の観客は度肝を抜かれた。オブライエンとは、『原子怪獣現わる』(53年)、『シンドバッド』シリーズ(58~77年)、『恐竜100万年』(66年)など人形によるストップモーションアニメで一世風靡したレイ・ハリーハウゼンの師匠だ。筆者も幼少時にハリーハウゼン作品を観て、呼吸で腹部が膨らんだり凹んだりしている恐竜のリアルな描写に「え! 生きているの?」と驚愕し、父親から「人形を少しずつ動かして撮影して……」と仕掛けを聞いて納得したものだ。

 そういった手法が一般的に知られていない当時は大人でも相当驚いたようで、RKOに「本当にあんなのがいるのか?」と問い合わせの電話が殺到した。アフリカの奥地に恐竜が生き残っていると多くの人が信じ、翌1934年にはアノ有名なネッシー写真が発表されて世界に衝撃を与えた(94年に捏造発覚)ような時代だけに、一笑に付すことはできない頷けるエピソードだ。

 さて、物語は後半も観客を飽きさせず大盛り上がりを見せる。デナム監督は爆弾でコングを気絶させ、見世物にするためニューヨークまで運ぶ。鎖で繋がれたコングは劇場で公開され、アンとジャックも当事者としてマスコミに囲まれる。だが記者のフラッシュに興奮したコングは鎖を引き千切り、市街地に出て大暴れする。

 アンを探し求めるコングは建物によじ登っては窓の中を覗き、走行中の電車を転覆させるなどしてニューヨークは大パニックに陥る。ついにアンを捕まえたコングは1931年に完成したばかりの世界一高いビル(当時は)、エンパイア・ステート・ビルの頂上に登り、戦闘機に機関銃で撃たれて墜落死する。血を流し力尽きていくコングに憐憫の情が湧くほど、しっかり表現されているオブライエンのアニメートは実に見事だった。

 ゴリラ好き少年だったクーパー監督は、『赤道アフリカの探検と冒険』(ポール・デュ・シャイユ著)の中に書かれていた「特別サイズで無敵、アフリカの森の王」と原住民の間に伝わるゴリラに魅入られた。成人になりRKOに入社したクーパーは、ニューヨークの高層ビルを見上げながら「巨大なゴリラが高層ビルのテッペンで戦闘機と戦う」という構想を思いつく。当初はコモドオオトカゲとゴリラを取り寄せて戦わせようと本気で考えたが(汗)、オブライエンの卓越した技術を見て人形アニメに決めたようだ。

 『キング・コング』は世界的に大成功を収め、アドルフ・ヒットラーにも絶賛され、倒産寸前だった製作会社RKOはこれ1本で救われた。以降キングコングはメジャー会社によって何度もリメイクされ、東宝もRKOとライセンス提携を結び『キングコング対ゴジラ』(62年)と『キングコングの逆襲』(67年)という2本のキングコング作品を円谷英二で撮る。後者は本コラム第59回で解説済みなので、次回は『コングVSゴジラ』前哨戦として『キングコング対ゴジラ』を紹介しよう。

(文/天野ミチヒロ)

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 第102回 『キング・コング』

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。

記事ランキング