「口パク」疑惑に対し、筋を通したビヨンセ

SuperBowl47

それにしても圧巻のパフォーマンスであった。先週の1月21日に行われた大統領就任式で、歌手のビヨンセさんの歌った国歌斉唱に「口パク」疑惑が投げかけられた。ビヨンセさんはそれに対し沈黙を保ち、そのおかげで騒ぎはどんどん大きくなり、その最中、この31日に行なわれた第47回スーパーボウルの記者会で行なわれたパフォーマンスが、それらの騒動に対する彼女の解答であった。

動画:http://www.guardian.co.uk/music/video/2013/feb/01/beyonc-admits-synching-sings-live-video

記者会見のステージに登場したビヨンセは、開口一番、記者達に起立を求め、そしてアカペラで国歌を斉唱し始めた。今風の言葉を使うなら「ガチ」のその熱唱は、立ちどころにその場に居合わせた記者達の心を掴み、「口パク」疑惑によって共有された人々の「不信感」の全てを払拭してしまうのであった。その光景は、まるで映画のワンシーンのようでもあった。

歌手の「口パク」は、もはやアメリカのテレビショーでも一般的であり、既に皆が認知している習慣であるにも関わらず、何故今更大統領の就任式に限って歌手の「口パク」がこんなに大きな騒動になってしまったかと言えば、「口パク」は自身の力を偽り、人々から「尊敬」を騙し取る行為という認識がまだアメリカには残っており、それは大統領の就任式という人々の「尊敬」の結晶を祝福する場には相応しくない、という心情が働いていたからではないかと思われる。共和党の予備選挙に出馬していたロン・ポールの息子、ランド・ポール連邦上院議員が「アナタが嘘くさく見える」と大統領に対して発言をしていることからも、そのことが伺えるのではないだろうか。

ビヨンセさんがそれでも本番で「口パク」に踏み切った理由をその記者会見で、「気温(の低さ)、スケジュール等の遅れ、そして充分なサウンドチェックの時間を与えられなかったこと」を挙げ、「とても重要な式典であることは良く解っているから、むしろリスクを取った時の結果の方に不安を感じた」と説明した。そして、自身が来る2月3日に開催されるスーパーボウルのハーフタイムショーに向けての練習に精力を注ぎ込んでいる最中であり、大統領式典の為の練習時間があまりとれなかったことも、付け加えている。今回のスーパーボウルが開催されるニューオーリンズの『メルセデス・ベンツ・スーパードーム』は、2005年8月末にアメリカ合衆国南東部を襲った大型台風カトリーナの被害を受け、多くの人々が避難し、生活をした場所でもある。ビヨンセさんの家族がルイジアナ出身、ということもあり、ビヨンセさんの今回のスーパーボウルのハーフタイムショーに掛ける思いは、人一倍強いものがあるようだ。また、一部のアメリカのメディアには「大統領就任式よりスーパーボウルが優先するのは理解できる」という論調もあるので、その辺りの感覚として、日本で生活をしていても中々分からない難しい判断があるように思われる。

もちろん、どんな理由があろうとプロである以上、厳粛な式典で「口パク」なんてもってのほか、という意見もあるのだが、それに「説明」で立ち向かっても堂々巡りになってしまうことは、ビヨンセさんでなくとも容易に想像ができるだろう。そこでビヨンセさんは、人々の抱いた不信感の根本にコミットし、その信頼を回復するのは自身のパフォーマンスでしかないという「本質を貫く」ことで、自身の信頼を回復したのである。それは「パフォーマーとして生きる人はかくあるべし」ということの、あまりにも完璧な見本であった。ビヨンセさんが歌をパフォームすることなく、「説明」だけでこの問題に対応したら、果たしてどうだっただろう。

2月3日に、そのスーパーボールが開催される。そしてビヨンセさんはそこで「 I will absolutely be singing live(間違いなく生で歌う)」と宣言した。ボールゲームももちろんだが、どんな局面でもパフォーマーとしての筋を貫き通せるビヨンセさんの圧巻のパフォーマンスにも、期待が膨らむばかりである。

※この記事はガジェ通ウェブライターの「あらい」が執筆しました。あなたもウェブライターになって一緒に執筆しませんか?

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