少女マンガの「ブサイクヒロイン」を全26作品から紹介! 彼女たちはどう美醜の問題と向き合う?
ライターとして活動する一方、大学教員として日本の少女マンガについての講義をおこなっているトミヤマユキコさんは、学生からこのような質問をされることがあるそうです。
「少女漫画のヒロインには、なぜブサイクがいないのですか?」
「仮にブサイクという設定でも、ブサイクに描かれていないのはなぜですか?」
たしかに、少女マンガのヒロインといえば、大抵がかわいい容姿をしているように感じられます。けれど、実際にはそうではないヒロインも存在しており、「『少女マンガって美男美女だけの世界じゃないんだよ』と伝えたい。それが、この本の元になった連載をスタートさせた動機である」(本書より)と、トミヤマさんは本書『少女マンガのブサイク女子考』に記しています。
そして、トミヤマさんが原稿を書くにあたってイチからリサーチをおこなったところ、ブサイクヒロインはトミヤマさんの予想をはるかに超えて多く存在していたといううれしい誤算まであったそうです。
少女マンガというと、真っ先に恋愛モノを思い浮かべる人も多いかもしれません。たしかに本書でも、第一章「ブサイク女子と恋」で、ブサイク女子がヒロインの恋愛マンガについて取り上げています。けれど、ブサイク女子が主人公の少女マンガには、ルッキズムや自己認識、自己肯定感について考えさせられる作品が多いことに、本書を読むと気づかされます。
たとえば、第二章「ブサイク女子の生き様」で出てくるのは、自分がブサイクであることに葛藤する女子たち。好きな人のためではなく、自分が自由になるために地味で暗いブサイクから変身しようとする女子(『なかじまなかじま』/西 炯子)、「痩せればキレイになる」という幻想を抱き、過酷なダイエット法で痩せる女子(『脂肪と言う名の服を着て[完全版]』/安野モヨコ)、自分はブサイクだからと身の程をわきまえて、あえて女っぽくないキャラを演じている女子(『鏡の前で会いましょう』/坂井恵理)など。
トミヤマさんのマンガ解説を読みながら、こうしたヒロインたちにどんな結末が待っているのか、気になって仕方がなくなってしまうことでしょう。
これはきっと、私たちが生きている中で、美醜の問題は避けて通ることができないからかと思います。誰しも自身の容姿について思い悩んだり、容姿で判断されてショックを受けたりした経験を持っているはず。だからこそ、ブサイクヒロインの姿に自分を重ねて共感したり、どのように生きるのかに興味を持ったりするのではないでしょうか。
全部で26作品の少女マンガが収録されている本書。そのストーリーやテーマはさまざまで、ブサイク女子が主人公の作品の多様性に驚かされます。
ちなみに、本書の「ブサイク」という言葉を蔑称だとして不快に感じる人もいるかもしれません。しかし、「単に使用を禁じて終わりでは、ただの思考停止ではないか」というのがトミヤマさんの意見。「マンガの『キャラ』は、リアルな現実、生身の自分から距離を置きつつ考えを深めるための装置としてとてもよい働きをする」(本書より)と説明しています。本書は単なるマンガ批評本にとどまらず、自分のコンプレックスと向き合うきっかけになる一冊といえるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]
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