「地域通貨」がコロナ禍で再注目! 釣った魚やお悩み解決でポイントがもらえる!?
2000年ごろに脚光を浴びた「地域通貨」が、コロナ禍で再び注目されている。どのように活用され、地域に新しい動きをもたらしているのか、専修大学デジタルコミュニティ通貨コンソーシアムラボラトリー(通称、グッドマネーラボ)代表理事の西部忠さんに話を伺った。
地域通貨とは、そもそもどんなもの?
地域通貨とは、限定した地域(ローカルな場所として市町村、地元商店街など)やコミュニティ(価値や関心を共有するコミュニティとしてのNPO、SNS、人の集まりなど)の中で流通する通貨のこと。紙幣を流通させる「紙幣(発行)型」、利用者同士が通帳を持ち記入して管理する「通帳(記入)型」、小切手を印刷して発行する「小切手型」、ICカードを発行する「電子カード型」などがある。
「かつての地域通貨は円に換えることはできませんでしたが、2000年代以降の地域通貨は地域商品券のように事業者のみ換金できるものが増えてきました。そのため地域通貨は、地域の中で、贈与や支援、サービスとの交換、地域内の経済圏の活性化、さらに地域コミュニティづくりなどに使われています」と西部さんは説明する。
地域通貨は2000年代に一気に全国で広まったが、当時は行政やNPO法人が始めて、助成金の終了や管理の手間などから持続できずに終了するケースも少なくなかった。しかし5年ほど前から、スマートフォンやネットの普及によって管理や運営の手間が軽減したこともあって、民間発の地域通貨が増えてきている状況だ。
今の地域通貨の代表格は「さるぼぼコイン」と「アクアコイン」
では、現在の地域通貨の最新事情はどうなっているのだろうか。
「デジタルを活用したことで、地域へ浸透させることに成功した事例としてぜひ注目したいのが、『さるぼぼコイン』(岐阜県高山市)と『アクアコイン』(千葉県木更津市)です」と西部さん。ともに電子地域通貨で、スマホ決済アプリと同様、QRコード(2次元コード)決済が可能だ。
さるぼぼコインの使い方についての画像。2020年11月13日現在、ユーザー数 約17000名、加盟店数約1500店舗と、地域の生活に浸透している(画像提供/飛騨信用組合)
「『さるぼぼコイン』は、金融機関が発行母体となる電子地域通貨の草分けとして、2017年からスタートしました。さるぼぼコインで決済することで、電気料金の9%が還元されるのが特徴で、現金をチャージしたり、イベントに参加したりすることでポイントがもらえます。電気代のほか水道料金などの公共料金、国民健康保険料、税金の納入などの支払いにも使用可能です。もちろん地域の店舗でも使えます」(西部さん)
12月4日には、飛騨・高山の事業者と連携して開発した「裏メニュー(新商品・新サービス)」を購入できる情報サイト「さるぼぼコインタウン」をオープン。掲載の裏メニューは、すべてさるぼぼコインでのみ購入できる。
例えば、飛騨高山の山が購入できる「山、売ります!」(1座/300000さるぼぼコイン)や、職人から建築技法が聞ける「大工が『古代の建築技法』のひみつ、教えます!」(1ひみつ/2500さるぼぼコイン)などの、ユニークな裏メニューがある。
現在さるぼぼコインは、高山市民の約20%が使用する地域の新しい決済環境として定着しつつあると、「さるぼぼコイン」を運営する飛騨信用組合も声をそろえる。クローズドな地域でここまでの密度でキャッシュレス環境が浸透している地域は極めて珍しく、全国から注目されている地域通貨だ。
次に紹介する『アクアコイン』は、君津信用組合、木更津市、木更津商工会議所が連携し、2018年10月から取り組んでいる電子地域通貨。官民一体となり、「アクアコイン」を通して地域経済の活性化やコミュニティの活性化を図っている。
アクアコインのステッカー。2020年11月3日現在、インストール件数 13276件、加盟店 617店舗とこちらも地域への浸透率の高さがうかがえる(画像提供/君津信用組合)
アクアコインのチャージ機。「アクアコイン」のチャージ方法は、君津信用組合窓口のほか、全国のセブン銀行ATM、プリペイドカード、市内5カ所にあるチャージ機など、さまざまな方法がある(画像提供/君津信用組合)
「観光案内所にあるチャージ機でチャージができるため、地域住民だけではなく、観光客でも『アクアコイン』を利用しやすくすることで、地域経済の活性化を目指しています」(西部さん)
「アクアコイン」の取り組みとして、ボランティア活動などに対し、市から行政ポイント『らづポイント』を付与し、地域における支え合いなどを促進することにより、地域コミュニティの活性化。そのほか、1日8000歩で1ポイントが付与される歩数連動ヘルスケア機能「らづFit」、連携している3社職員の給料支払いの一部をアクアコインで支給(本人の申し出による)、住民票等の手数料の支払い、公民館施設等の使用料の支払い、アクアコインで電気料金を支払える「アクアコインでんき」サービスの運用などを行っている。
君津信用組合によると、給料の支払いを地域通貨にすることで、「定期的にアクアコインのチャージがされ、利便性が向上するとともに、利用できる地域を限定することで、地元で利用している実感・地域愛が生まれてくる」のだという。
コロナ禍で新たに生まれた地域通貨も。地域コミュニティづくりに大活躍
地域通貨が再び広がりを見せているのは、デジタル化によって管理や運用がしやすくなったからだけではない。先程、西部さんが触れた「地域通貨の地域コミュニティづくり」の側面に大きな動きがあるためだ。
それは、「このコロナ禍で地域コミュニティが見直されていることと無関係ではない」と西部さんは言う。
コロナ禍で地元で過ごす時間が増え、人とのつながりを感じることが難しい状況下で、地域通貨が持つ「地域コミュニティづくり」の特徴を活かそうという流れは自然なことなのだろう。
そこで西部さんに、地域コミュニティづくりに重きを置いた興味深い3つの事例を伺った。注目すべきは、3つのうち2つはアナログな地域通貨が選択されている点だ。コミュニティづくりに重きを置いた地域通貨にはデジタルではなくアナログなものが多いところも、人と人の繋がりもオンライン化している今、人のぬくもりを感じられる要素になっているように感じる。
サンセットコインの会員カード。カード型とアプリ型から選べる(画像提供/静岡県西伊豆町役場)
「例えば今年10月には、提携する釣り船で釣った魚を、地域通貨『サンセットコイン』と交換できる『ツッテ西伊豆』という制度が、西伊豆町(静岡県)で始まりました。
受け取った地域通貨は、お店や旅館などでも使えますし、釣った魚は町内外へ流通する商品として活用され、うまく循環する仕組みになっています。
地域通貨で商品が購入できても、そのお店が円で商品を仕入れている以上、地域通貨の循環は滞ります。そのため、地域通貨がお店で買い物をするときだけではなく、店側が商品の仕入れ時にも使えると、地域通貨がまわりやすくなる。漁師不足を解消すると同時に、観光客と地域住民との交流を促しているのです」(西部さん)
「コロナ禍で菌のイメージがすっかり悪くなってしまいましたが、私たちの身体や自然界は菌によって活性化されていくという側面もあります。“菌”という名前には、地域の文化を発酵させていくという願いのほか、私たちにできることをしつつ、新型コロナウイルスに立ち向かっていこう、という思いも込めています」(運営のCafe & Bar「麻心」森下さん)(画像提供/相模湾地域通貨「菌」)
「相模湾地域通貨『菌』は、今年6月4日に鎌倉市(神奈川県)で生まれた紙幣型の地域通貨です。こちらも民間人が中心となって運営され、お店やバー、イベントなどで使用できます。各地で開催される説明会に参加して会員になると、10000菌を受け取れます(入会金3000円)。Webサイト上に会員のみがやりとりできる掲示板があって、困りごとを相談することで地域通貨がもらえるという、おもしろい仕組みです」
掲示板では、「衣、食、住、農、暮らし、海、山……」と多岐にわたる項目に関する困りごとを投稿ができるようになっている(画像引用元/相模湾地域通貨『菌』)
あえてアナログの良さを活かした地域通貨も再注目
既存の地域通貨だが、西部さんが「ぜひ知ってほしい」と最後に紹介してくれたのが、2012年に生まれた東京都国分寺市の地域通貨「ぶんじ」。カフェ『クルミドコーヒー』『胡桃堂喫茶店』の店主である影山知明さんなど20人ほどのメンバーが中心となって運営。国分寺エリアのさまざまなお店の他、個人間でもメッセージカード代わりに使える地域通貨で、お店で買い物をしたときにおつりとしてもらったり、イベントやボランティアに参加したりすると受け取れるものだ。
「国分寺地域通貨 ぶんじ」表面(画像提供/影山知明さん)
「国分寺地域通貨 ぶんじ」裏面(画像提供/影山知明さん)
「紙幣の裏にメッセージを書く欄があって、贈り手のことを想像してメッセージを記していくという、コミュニケーションを重視した地域通貨です。
この地域通貨のすごいところは、多くの人を巻き込む力の強さ。例えば、2018年から始まった地域通貨だけでも利用できる「ぶんじ食堂」は、最初の2年半は常設ではなく、まちのいろいろな場所で開催され、その会場も料理や片づけをする人も食材も、まちの人々の持ち寄りで運営されています。影山さんもキッチンに立つし、まちの子どもたちも料理を手伝うんです。年齢の垣根を越えた交流が、地域通貨によって生まれているんですね」(西部さん)
さらに2020年11月からは、家賃の一部を地域通貨「ぶんじ」で支払える“まちの寮”「ぶんじ寮」がオープン。旧社員寮を改修した建物を利用しており、入居者が畑仕事や掃除、ごはんづくりなどを行うことで、家賃は3万円(試算額)に。ぶんじ寮のキッチン/食堂は、「ぶんじ食堂」としても運営する予定だ。
「人とのつながりを感じられる場所で暮らすことを考えたときに、地域通貨があることで、新しく入った人も、地域の一員として溶け込みやすいのではないでしょうか」と西部さんは語る。
このコロナ禍で移住や多拠点生活への興味関心が高まっている。一方で、「うまく地域に溶け込めるだろうか」という心配は誰もが抱くこと。だからこそ、これらのような人のつながりをつくり、促してくれる地域通貨があれば、自然と地元の人と交流が生まれやすくなりそうだ。
●取材協力グッドマネーラボ 代表理事 西部忠さん
1962年生まれ。進化経済学者、専修大学経済学部教授、北海道大学名誉教授、進化経済学会会長。1990年代から地域通貨の研究・実践に取り組んできた。2018年4月、専修大学デジタルコミュニティ通貨コンソーシアムラボラトリー、通称、グッドマネーラボ を設立、その代表理事。2019年9月、岐阜県高山市でアジア初の地域通貨国際会議RAMICSを主催、世界約20カ国から地域通貨の研究者や実践家が参加。2021年1月に新刊『通貨の脱国家化と貨幣の自由化社会』(秀和システム)を発刊予定。(画像提供/西部忠さん)
グッドマネーラボ
・さるぼぼコイン
・アクアコイン
・サンセットコイン
・国分寺地域通貨ぶんじ
・相模湾地域通貨「菌」 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/12/177076_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
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