北朝鮮ミサイル発射時の「駐米日本大使公邸パーティー」(早稲田大学客員教授 春名幹男)

access_time create
e382b9e382afe383aae383bce383b3e382b7e383a7e38383e38388-2012-12-25-154439

※この記事は国際情報サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。 http://www.fsight.jp[リンク]

 12月12日の北朝鮮長距離ミサイル発射を米情報機関は全く予想できず、虚を突かれたことが明らかになった。

東アジア担当米政府高官も参加

 12日午前は米国東部時間では11日夜。実はその時、ワシントンの駐米大使公邸ではナショナルデーの大パーティーが開かれていた。多くの国はナショナルデーのレセプションを革命記念日などに行なうが、日本の場合は天皇誕生日で、クリスマス休日と重なるため、2週間ほど前倒しでやる在外公館が多い。広壮な米大使公邸では、着任したばかりの佐々江賢一郎大使を囲んで、にぎやかに宴が進行したに違いない。

 米外交誌フォーリン・ポリシーのブログによると、米高官の出席者には、ウェンディー・シャーマン国務次官(政治担当)、ジム・ズムワルト副次官補(前駐日公使)、シド・シーラー国家安全保障会議(NSC)東アジア担当部長、クリス・ジョンストン国防総省北東アジア部長、エイミー・シーライト国防長官上級顧問らがいた。

 午後7時49分(日本時間12日午前9時49分)の発射の情報が伝わり、米政府高官らは携帯端末ブラックベリーで知らされて、慌てて大使公邸を後にしたようだ。

 外務省の東京での発表によると、佐々江駐米大使とシャーマン国務次官は米東部時間11日21時55分(日本時間12日11時55分)から約10分間、電話で北朝鮮によるミサイル発射について会談した。恐らくシャーマン氏は国務省のオフィスに戻って、事態を確認したあと電話で話し合ったのだろう。

完全に騙された米情報機関

 その事実から、米政府にとって予想外の発射であったことがよく分かる。特に、シーラー部長は元中央情報局(CIA)のキャリアで、今年3月北朝鮮の4月のミサイル発射をやめさせるためCIAの元同僚であるジョー・デトラニ氏とともに平壌を訪問したと言われる。インテリジェンスには長けた人物だ。

【関連記事】「機密」を講演で語りPCに取り込んでいた愛人――CIA前長官を追い込む情報続く

 ヌーランド国務省報道官は「数週間にわたって発射を警戒し、対応を準備してきた」と体裁を取り繕ったが、米政府高官らは強いショックを受けたのが真相という。

 では、なぜ騙される結果になったのか、発射までの経緯を時系列で振り返る。

 北朝鮮が「人工衛星・光明星3号」を12月10日から22日の間に打ち上げると発表したのが12月1日。しかし、同10日、「技術的欠陥」が見つかったとして発射予告期間を29日まで1週間延長すると発表。翌11日、韓国メディアは「ミサイルを発射台から撤去した」との「韓国政府情報」を伝えた。最強の監視体制を敷く米政府機関までがこれを信じてしまった。

 米ジョンズ・ホプキンズ大の北朝鮮分析サイト「38ノース」がGeoEye衛星画像をあらためて分析したところによると、米国東部時間8~10日の間、ミサイルを発射台から修理棟に輸送するために必要なトレーラーなどの動きは全くなく、銀河3ロケットは発射台に据え付けられたまま。上空から情報衛星で見る限り、発射の準備は完全に整ったかに見えた。

 しかし、北朝鮮側の発表のように、ミサイルを修理棟に運搬する場合、米東部時間で12~13日までかかり、修理して再び発射台に据え付けるには9~10日間、つまり同21~22日まで発射できないだろう――と想定された、というのだ。

「技術的欠陥」などなかった

 つまり、「技術的欠陥」のため発射期間を1週間延長するとの北朝鮮発表を信じ込み、北朝鮮ミサイルが発射台から「撤去された」という韓国情報の事実を確認しないまま、発射予測を勝手に米東部時間21~22日の間に設定したのが間違いだった。そもそも「技術的欠陥」などなかったのである。

 「38ノース」は、真珠湾攻撃の予測失敗を分析したロバータ・ウォールステッター氏の名著「真珠湾-警告と決定」の教訓から、「敵の行動に関する現在の予測に注意を集中してしまう人間の傾向」ゆえに、北朝鮮が仕掛けた罠に陥った、と分析している。

 北朝鮮は発射予定を騙したことによって、少なくとも米国、日本などの諸国の監視体制の問題点を暴いた、という点では成功だったと言えるかもしれない。
ジャーナリスト春名幹男氏の解説記事をもっと読みたい方はこちらの記事一覧へ(ニュース解説サイト『Foresight』)

春名幹男 Mikio Haruna
ジャーナリスト

1946年京都市生れ。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒業。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。現在、早稲田大学客員教授、名古屋大学客員教授。

※この記事は国際情報サイト『Foresight』より転載させていただいたものです。 http://www.fsight.jp[リンク]

  1. HOME
  2. 政治・経済・社会
  3. 北朝鮮ミサイル発射時の「駐米日本大使公邸パーティー」(早稲田大学客員教授 春名幹男)
access_time create

Foresight

フォーサイトとは:ニュースをより深く「わかる」ために必要な記事を毎日配信している会員制サイトです。政治、国際問題を中心に、執筆者には信頼度の高い専門家を揃え、日本人には肌で理解しづらい文化を持つ中東やアフリカの情報等も網羅しています。「読者フォーラム」では、読者の皆さんによる意見交換が活発におこなわれています。

ウェブサイト: http://www.fsight.jp/

TwitterID: Fsight

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。