世界700兆円の新産業!? 「フードテック」の最新事情を徹底解説したビジネス書
皆さんは「フードテック」という言葉をご存じでしょうか? これはフードとテクノロジーを組み合わせた造語で、食品関連の分野とITやバイオなどのテクノロジーを融合させることを表します。実はこのフードテック産業、2025年までに世界700兆円もの巨大市場に達すると見込まれているのです。
これほどまでに大きな流れが押し寄せているにもかかわらず、日本でフードテックはあまり盛り上がりを見せていません。そこで、日本発のフードイノベーションを加速させようという目的のもとに書かれたのが本書『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』です。本書を読めば、フードテックにはどのようなビジネスチャンスが潜んでおり、それによって私たちの食体験がどう変わるのかがわかるでしょう。
では現在、フードテックは世界においてどれほど活発化しているのでしょうか? 注目されているもののひとつが、植物性代替肉や培養肉といった新食材の領域です。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏も、培養肉スタートアップなど「未来のプロテイン」に対して積極的に投資をしているほどだといいます。
植物性代替肉について詳しく書かれているのが、第4章「『代替プロテイン』の衝撃」です。代替プロテインに参入する企業はここ数年で急増しており、その中でも代表格といえるのが、アメリカのインポッシブルフーズ社です。2019年に開催された世界最大級の展示会「CES 2019 」で植物性プロテインを使ったハンバーガーを発表し、メディア関係者らに振る舞ったところ、それがデジタル技術に関心の高い層に絶賛され、ネット上で一躍話題となりました。現在、インポッシブルフーズの植物性パティは、アメリカのみならず香港やマカオ、シンガポールなど1万5000店以上のレストランで採用されているといいます。
このインポッシブルフーズの対抗馬とされるのが、アメリカのビヨンドミート社です。米国内のマクドナルドや中国のスターバックスコーヒーなどに商品を提供しており、植物性プロテインを使ったハンバーガー用のパティ製造販売で名を馳せているといます。
両社の代替肉は「鮮肉」としての状態で販売され、調理すると赤身が茶色く変化し、肉汁と香りが広がるなど調理体験まで肉と同じになっているのが特徴。味わいや食感も本物の肉と大きく変わらないというから驚きです。
では、日本の状況はというと、大塚食品が大豆ベースの代替肉ハンバーグ「ZEROMEAT(ゼロミート)」を、不二製油が「大豆ミート」製品を販売しているほか、日清食品は東京大学生産研究所と共同で培養ステーキ肉の研究を進行中だそうです。代替肉ではありませんが、ベースフード株式会社は、必要な栄養素材が過不足なく練り込まれたパスタやパンを開発し販売しています。
「日本の食事事情の中では、ハンバーガーが代替されるよりも、こうした主食を健康目的でアップデートするほうが身近に感じられるのかもしれない」と本書にあるとおり、今後、日本ならではのフードテックの進化が期待されるところです。
紹介した内容は本書の一部分にしか過ぎません。ほかにも、台所をソフトウェア化して便利にする「キッチンOS」、店舗を持たないレストラン「ゴーストキッチン」、Amazon Goに代表されるような「次世代コンビニ」など、実にさまざまな話題が登場します。「With&アフターコロナ時代」の食の在り方などについて触れられている点にも注目です。
現在、世界で巻き起こるフードイノベーションの全体像をつかみ、日本のフードテック産業を盛り上げていくためのきっかけを考えることができる本書は、食にかかわる多くの人が必読すべき一冊といえそうです。
(文・鷺ノ宮やよい)
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