日経新聞の名物コラムを書籍化! 漢字学の第一人者が綴る、漢字や四字熟語にまつわる逸話161篇

日経新聞の名物コラムを書籍化! 漢字学の第一人者が綴る、漢字や四字熟語にまつわる逸話161篇

 私たちが普段、当たり前のように読み書きしている「漢字」。日本は、中国から伝わった漢字から、さらにひらがなとカタカナを生み出し、それらをまじえた日本独自の表記方法を作り上げました。

 そんな漢字にまつわる逸話を、歳時記風に綴った161篇のコラムで紹介しているのが『遊遊漢字学 中国には「鰯」がない』です。本書は、平成29年3月5日から令和2年3月29日まで日本経済新聞の日曜版に連載された「遊遊漢字学」に、若干の修正と補足を加えて発行されたものです。

 著者は京都大学名誉教授で、漢字学の第一人者として知られる阿辻哲次氏。現在は、京都・祇園の漢字ミュージアムで漢字文化に関する生涯学習事業に参画しているそうです。

 「漢字学」と聞くと、とっつきづらく感じる人もいるかもしれません。けれど、「日曜日の掲載だからできるだけ肩のこらないものにしよう」(本書より)という著者の考えどおり、本書に収録されているコラムはどれも自然と興味を持てて、知的好奇心を刺激される内容ばかりです。

 たとえば、タイトルにもなっている「中国には『鰯』がない」という一篇。中国から日本に漢字が伝わった当初、日本固有のモノや概念を表す言葉は、漢字の発音だけを使う「万葉仮名」式に書かれていたといいます。しかし、漢字の学習が普及するなど、日本専用の文字が作られるようになっていったそうです。そのひとつが「鰯」という漢字。平城宮跡地などの遺跡から発見された木簡には「鰯」と書かれていますが、それより前に都とされていた藤原宮跡から発掘された木簡には「伊委之」と書かれているそうです。

 海産物にあまり恵まれておらず、ほとんどの人がイワシを見たことがなかったという古代中国に比べ、四方を海に囲まれ、昔から魚類が豊富だった日本。著者は「鰯」という漢字が日本で作られた背景について、「漢字は表意文字だから、実際に存在しない事物について文字が作られるはずがない」「『鰯』は≪魚≫と≪弱≫を組み合わせ、『弱くてすぐ死ぬサカナ』という意味で作られた国字(和声漢字)である」(本書より)と記しています。同じような理由から、「鰹」「鰤」「鯛」といった魚にまつわる漢字も日本で生まれたのだとか。地理的な事情や食文化によって、中国と日本で漢字の表記が変わってくるというのは面白いですね。

 ほかにも「『漢字』の『漢』とは?」「『魅』はなぜ≪鬼≫ヘンか」「令和の『令』は『霊』のあて字」「『烏』が『鳥』より一画少ない理由」など、見出しから興味をそそられるコラムがずらり。1篇はどれも見開き1ページに収まっていてコンパクトなので、「毎日1篇ずつ読み進める」「目次を見て気になったコラムから読んでいく」といった楽しみ方もできそうです。

 私たちのすぐ身近にありながらも、まだまだ知らないことも多い漢字の世界。本書を読めば、その奥深さに皆さんもきっと魅了されることでしょう。

(文・鷺ノ宮やよい)

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