【試乗】ポルシェ 911 カレラ4S|高出力&ラグジュアリーに進む911に安定感をもたらす存在
ポルシェ 911における4WDの歴史
ポルシェ 911は3代目(964型)となった1989年に大幅な改良を行った。そしてこの年に、特別なモデルを除いて、911としては初めてのフルタイム4WDの市販車を提供したのである。
驚くことに、なんと2WDよりも1年早く4WDを発売したのだ。それほど4WDはすでにポルシェ的には完成していたとも思える。
それから8代目(992型)の911である現在まで、964型のカレラ4を含めると6度のアップデートを図っている。
そして今回、最新モデルである8代目の「911カレラ4S PDK」に試乗した。「4S」とは、フルタイム4WD を示す“4”に、ワイドボディとエンジンのパワーアップを図った証しである“S”を組み合わせたものだ。
運が良いことに、私はこれまで歴代のポルシェ 911に試乗する機会を得てきた。その経験から感じることは、この車が年々、成功者の証しのようなステイタス性とラグジュアリーなグランツーリスモを漂わせつつあるということである。
特に7代目(991型)から、ロングツーリングも苦にならないほど快適性が一気に向上した。その中でも「4S」は、十分すぎるパワーをしっかりと路面に伝えて、あらゆる天候でのスタビリティ性を確保していた。
ノスタルジーと高性能の両立
今、目の前に用意された8代目のポルシェ 911 カレラ4S。エクステリアは7代目と比べると少々デコラティブな雰囲気がある。しかし、内装はクリーンかつインフォメーションの計器類の視認性がすこぶる高い。なによりも上品なマテリアル感が、スポーツカーでありながらラグジュアリーなGTを醸し出す。外観は4Sというマッシブなボディであるが、乗り込むととてもエレガントだ。
シートを合わせる。911はシートポジションを絶えず低く設定しており、トータルの運動性能をいかに考えているかが理解できる。バックレストとヘッドレストが一体化したスポーツシートは、1974年に登場した2代目(930型)から現在まで変わらない形状だ。一貫したフィロソフィーがすべてに統一されているのだ。 エンジンの始動もボタン式ではない。昔ながらのスイッチを時計回りに回してエンジンに火を入れる。位置だってナロー時代から変わっちゃない。エンジン内のピストンは最良の位置で停止しているので、クランキングは極めて短く「キュルッ……ボーン!」というレーシングカーのようだ。PDKは、ポルシェが耐久レース時に負担を少なくするために開発した、伝達効率の高い2ペダルのトランスミッションだ。走り出しはとてもスムーズ。
高出力かつラグジュアリー化する911にふさわしい安定感
元来RRである911は、リアに大きな荷重がかかる。それは加速時にフロントのコンタクトが希薄目になることを意味しているが、ポルシェは長年のノウハウで克服してきた。
しかし、付加価値とともに高まる出力とラグジュアリーな乗り心地も求めると、やはり難しくなる部分もあるようだ。
その点、この4Sには長距離も安定したパフォーマンスで走りぬける快適性が備わっている。加速時の直線はもちろん、コーナリングも終始スタビリティは高い。静粛性も向上した。そして、ダイレクトなハンドリングと安心できるブレーキについては、ポルシェが世界一優れたGTである。細かくコントロールできるブレーキストロークは久しぶりにドライブしても感動する。
8速のPDKも無意味にシフトアップばかり考えずに、効率の良いエンジン回転でのシフトアップ・ダウンを繰り返す。だからこそ、いつでもどこから踏み込んでもスタンバイOKなのである。
ゆったりとした大人のドライビングが可能になった911 カレラ4Sであるが、やはり911は助手席に乗せる車ではない。1人で運転を楽しむ、そんな昔から変わらぬエッセンスが宿っている。成功者の誇張しないスポーツカーが8代目のポルシェ 911であり、その中でも安定感あるドライビングとパフォーマンスを演じるモデルこそ、カレラ4Sなのである。
文/松本英雄、写真/篠原晃一
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