数年前に「LINE」を思い付いていたとしても、やらなかったであろうプロデューサーのお話
今回はとあるサイトプロデューサーさんのブログ『サイプロ(とあるサイトプロデューサーのブログ)』からご寄稿いただきました。
数年前に「LINE」を思い付いていたとしても、やらなかったであろうプロデューサーのお話
【デコメール死亡 「LINEの登場」を予測できなかったプロデューサーのお話】*1が意味不明なくらいバズってしまい、恐縮しております。
*1:「デコメール死亡 「LINEの登場」を予測できなかったプロデューサーのお話」 2012年11月4日 『サイプロ』
http://toaru-sipro.com/?p=2788
そこで、ちょっと番外編です。
仮に僕が数年前にLINEを思いつき「イケるかも」と思ったとします。当然、思いつくだけではダメで、企画を練ったあと、コスト、ARPU、継続率、プロモーションプラン等を踏まえた収益計画を作らなければなりません。簡単に言うと「作るのにいくらかかって、いくら儲かります。だから社長金出してくれ」というための説明資料です。
結論から言うと、数字を作っている最中に「厳しそうだな・・・」と思い、提案まで持っていかなかったと思います。その理由をいくつか。
1.市場が小さい
スマホの普及率が当時は10%以下だったため、市場がいきなり人口の10分の1です。LINE自体はガラケーも対応しておりますが、使いにくい為、スマホ向けのサービスと考えて良いでしょう。
当然、「今後の伸びを踏まえての仕掛け」なのはわかるのですが、次項で記載するよう「相手がいないと使えないサービス」なため、「まだ早い」と判断すると思います。
(資料引用元:株式会社 MM総研*2)
*2:「スマートフォン市場規模の推移・予測(12年3月)」 2012年3月13日 『株式会社 MM総研』
http://www.m2ri.jp/newsreleases/main.php?id=010120120313500
2.相手がいないと使えない
市場が小さいだけならまだしも、LINEは「相手」がいないと使えません。当然のことなのですが、ユーザーを1人ずつ獲得してくるのではなく、ドバッっとグループ丸ごととってくる必要があります。更にお互いがインストールしていたとしても、うまく繋いであげないといけません。
※LINEはドバッととるために、テレビCMを打ち、繋げる仕組みは「電話帳データを丸ごとサーバーにアップする」という凄い作戦に出た。
3.広告モデルは売上が立ちにくい
サービスを無料で提供する以上、広告収入で売上を立てる必要があります。1日の平均メール送信数は7通らしいので、送受信合わせて14通とします。(返事返ってくると信じて)
当時市場が10%程度なため、1人1日1.4通。つまり1日1.4回しか見ないこととなります。1PV1円と考えても、1人1ヶ月42円です。
※LINEはマネタイズを度外視したのか、広告を載せないという作戦に出ました。仮説ですが、それなりのシェアをとったら当初は載せる予定だったのではないでしょうか。
4.キャリアのメールアドレスからシェアを奪える自信がない
LINEを思い浮かんだ時に、これは「イケる」と思いつつも、事業計画を書いている最中に「キャリアのメールアドレスからユーザーを奪えるのか・・・」と思ってしまいます。機能がちょっと良い程度だと、シェア100%のキャリアメールからお客さんを奪うのは厳しい気がします。
奪うには大規模プロモーションが必要なのですが、広告モデルだと次項で記載するように苦しむことが予想されております。
※ここも仮説ですが、LINEは「無料通話」があったため、どちらかというとチャットより、そちらの方が訴求力があった気がします。ウィルコムだと「月額いくら払わなければいけない」ところが無料ですからね。若年層に響きそうです。初期時にチャットと通話のどちらがメインに利用されていたか興味があります。
5.広告での獲得が難しい
広告収入で売上を立てるモデルの場合、収益性(ARPU)が低い為、通常は広告費をあまり使えません(CPIを抑えなければならない)。さらにゲームやコミックと違いWEBでの広告訴求ポイントが難しそうです。バナーに記載する文字が「無料通話」「かわいいスタンプ」になるので、伝わりにくい印象です。
何より、たった1人インストールしてくれたところで意味がない。相手がいないと使えないから、継続率も悪そうです。
しかも当時、GREE、とmobageがスマホのシェア争いで広告を出稿しまくっており、CPIの相場が高かった記憶があります。たぶん数千円とかだった気がします。
※LINEのCPIが当時いくらだったかは不明ですが、グループ会社のlivedoorに出稿していたことは記憶にあります。他の媒体であまり見ていなかった気がするので、おそらくCPIが高く、効果的に見合わなかったのではないかと想定します。その状態でテレビCMに切り替える判断は僕にはできないです。
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といった意味で、どう頑張っても黒字化する絵が書けず・・・「無理だ。やめよ」ってなってたと思います。
LINEのプロモーション手法は本当に上手かったと思うのですが、施策の順番や、考え方、全部知りたいです。。そもそも「単月黒字時期」、「累損解消時期」、「目標売上」、「撤退判断時期&判断基準」をどこに置いていたのか。
「電話帳をサーバーに上げて、無理矢理ユーザー同士をつなげる」ってのも凄い。思いついたとしても、うちの会社だったら、法務とか、コンプライアンス担当からOK出なかったと思う。ビビってスカイプ型のID検索とかにしちゃいそう。
結果的には、「電話帳まるごとアップ」、「テレビCM」、「広告載せない」で当たったのかな・・・。と、いってもこの規模でようやく単月黒字*3だからね。簡単じゃないビジネスだったと思う。
*3:「NHN Japanの「LINE」事業が年内にも単月黒字へ、当面の赤字基調から一気に収益改善」 2012年8月31日 日経デジタルマーケティング
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmgp/20120830/236202/
■「地道なソーシャル活用で飛躍 アプリ「LINE」のプロモ戦略」 2012年5月24日 『日本経済新聞』
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK21035_R20C12A5000000/
上記記事内容に書かれている、初期の苦しいプロモーション状況を認識しながらも、(おそらく)KPI値等を基にイケると判断し、大胆な「テレビCM」にプロモーション方法を切り替えたのかな。結果的にシェア(インストール相手も含めて)取れて成功って感じ。
NHNさんの勇気と自信、素晴らしいです。
手法としてはウィルコムに似てる気もします。「お互い持ってれば無料」で「テレビCM連発」みたいな。でもマネタイズで比較すると、LINEは月額費用(固定売上)無いから、黒字化を考慮するとウィルコムより難しそう。(ウィルコムは売上が月額で上がるので、予想が簡単。必然的にCPAが高くても大丈夫だし、許容できるCPAが分かりやすい)
と、まぁ「思いつかないし、思いついたとしてもやらないプロデューサーってクソじゃね?」と思われると思いますが、実際うちの社長も承認出さなかったと思います。もうちょっと稼ぎやすいサービスって別にあるからね。(で、ソーシャルゲームに行ったんだけど)
新しいサービスを市場に浸透させるのは、針の穴に糸を通すくらい難しいと思います。特に僕は「口コミでの拡散」を信じておらず、入口のプロモーション(集客導線)を入念に調査するタイプなので、より慎重な判断をします。今回LINEは成功しましたが、どこで失敗してもおかしくないですし、資金力とリスクを取れる会社でないとできなかったと思います。
LINEプロデューサーさんおめでとう!
執筆: この記事はとあるサイトプロデューサーさんのブログ『サイプロ(とあるサイトプロデューサーのブログ)』からご寄稿いただきました。
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