無人駅で地域活性! グランピング施設、カフェ、クラフト工房などへ
今、JR東日本が無人駅を使って地域を活性化する取り組みを進めている。今年の2月には、上越線土合駅(群馬県みなかみ町)にサウナやグランピング施設などを設置した取り組みが話題になった。JR東日本グループはなぜ無人駅の活用に積極的に取り組んでいるのか? その狙いと効果について、JR東日本スタートアップの隈本伸一さんと佐々木純さんにお話を伺った。
4つの無人駅活用プロジェクトが進行中
JR東日本管内には約1600の駅があり、そのうちの約4割を無人駅が占める。JR東日本にとっては“遊休資産”とも呼べる無人駅。清掃や駅舎の修繕など維持管理費はかなりの額に上るが、JR東日本スタートアップの隈本さんによると、問題はコストだけではないそうだ。
「無人駅の周りには、往々にして地域のにぎわいがありません。せっかく空いているスペースや躯体があるので、これらを活用して地域のためになる活動をしたい思いは、以前からありました」
JR東日本グループが進行している無人駅活性化プロジェクトは現在、全部で4つ。それらは全て、オープンイノベーションの推進を目的とした「JR東日本スタートアッププログラム」から生まれたものだ。つまり、JR東日本グループの単体ではなく、ベンチャー企業などとのコラボレーションによって進められている。
「無人駅の活用に関しては、ベンチャー企業から提案を受けたり、逆に我々から提案することもありました。プロジェクトの選定基準は、『JR東日本グループとのシナジーが生み出せるか』『新規性があるか』『事業継続性があるか』の3点です。今取り組んでいる4つの事例はこれらを満たし、加えて地域のためにやるべきと判断されて実施にいたりました」
それでは4つの事例を順番に見ていこう。
1 山田線上米内駅(岩手県盛岡市)×漆
漆の産地として知られる盛岡市。地元の一般社団法人次世代漆協会と連携し、駅舎を漆をテーマにした施設にリニューアルした。カフェスペースや漆器の販売施設、作業のできる工房などを設置して今年の4月29日にオープン。資金はCAMPFIREと連携しクラウドファンディングより募った。
(写真提供/JR東日本スタートアップ)
同施設は地元メディアに大きく取り上げられ、4~5月は100人が訪れる日もあったそう。桜の名所の近さも幸いし、4~7月の3カ月間で約2865名もの人が来訪し、大きなにぎわいを見せた。現在も営業中だ。
リニューアル前(写真提供/JR東日本スタートアップ)
リニューアル後(写真提供/JR東日本スタートアップ)
一般社団法人次世代漆協会代表理事の細越確太さんによると、市内・市外問わず多くの方が訪れ、中には繰り返し訪れる方もいるという。
「この取り組みを始めてから、わざわざ上米内に来てくださる方が増えました。地域活性化を課題に感じている人のなかには、駅を利用した活動に共感してくださる方も多く、新たな連携の芽が生まれつつあると感じます」
本プロジェクトを担当した隈本さんは、「別の建物ではなく、駅でやることに意味があった」と振り返る。
「地元の方と話す中で、駅は地域の人にとって想像以上にシンボリックな存在だと分かりました。電車の乗り降りを繰り返し、思い入れのある場所になっていくのだと思います。地域活性化に無人駅を使うメリットは単なるコスト抑制だけではなく、自然と人が集まる点や、地域の人たちの協力を得やすい点にあると感じました」
上米内の漆器(写真提供/JR東日本スタートアップ)
こうした地域活性化のプロジェクトは、地元の人たちの理解が欠かせないと、隈本さんは続ける。
「今回のプロジェクトは、地域住民の方に『自分たちの住む地域は漆が有名』だと若い人たちに知ってもらう目的もありました。地域の人たちに働きかけるのに、駅という場所はぴったりです。地域活性化を大きな流れにするためにも、いかに地域住民の方にアピールするかが重要だと思います」
2 上越線土合駅(群馬県みなかみ町)×グランピング
上りホーム改札のある駅舎から下りホームまで、地下に462段の階段が続き、「日本一のモグラ駅」として知られる土合駅。グランピング施設の運営などを手がけるVILLAGE INC.と連携し、土合駅を地域の情報発信拠点にする試みを行った。
(写真/PIXTA)
駅前の空きスペースにサウナやグランピング場、宿泊施設を設け、駅舎内には切符売り場を改装しカフェを設置。クラフトビールの提供や工芸品づくりワークショップ開催など、地元企業との連携も実現。今年の2~3月にかけて行った実証実験では宿泊予約が満席となり、現在は秋の正式オープンを目指して準備を進めている。
宿泊施設「モグラハウス」(写真提供/JR東日本スタートアップ)
(写真提供/JR東日本スタートアップ)
グランピング場(写真提供/JR東日本スタートアップ)
カフェは2020年8月8日に正式オープンした(写真提供/JR東日本スタートアップ)
3 常磐線小高駅(福島県南相馬市)×地域コーディネーター
地方創生プロジェクトを数多く手がける一般社団法人Next Commons Lab(NCL)と協業し、小高駅舎を改装してコミュニティの場を創出するプロジェクト。地域の課題を解決する創造的人材を育成するとともに、旅をしながら地域で仕事ができるインフラや環境を構築して、関係人口の創出・拡大につなげるのが狙いだ。
駅員が使用していたスペースを改装し、都市と地域の起業家や起業をサポートする人が集まる場や、小高駅を利用する学生の交流の場をつくる予定。小高駅に駐在しコーディネーターとして活動する「民間駅長」を現在募集している。
常磐線小高駅の駅舎内の待合スペース(リニューアル後)(写真提供/JR東日本スタートアップ)
4 信越本線帯織駅(新潟県三条市)×ものづくり
洋食器や金属加工など、ものづくりの街として知られる燕三条地域に位置する帯織駅を、ものづくり交流拠点「EkiLab(エキラボ)帯織」としてリニューアルするプロジェクト。町工場と連携して“ものづくりのアイディアを形にできる場所”を目指している。クラウドファンディングを手がけるベンチャー企業CAMPFIREとの連携により、この場をクリエイターとして利用する会員や資金を募るなどした。
駅舎横の駐車場に新設する工場には、CADを使えるパソコンや3Dプリンターなどを設置。会員は基本施設を自由に利用できるほか、デザイン・設計ソフトのオンラインセミナーやワークショップを受講できる。ものづくりの相談窓口として、燕三条地域の職人や企業の紹介・マッチングにも対応していく。今年10月開業を目標に現在準備中。
EkiLab帯織 施設(イメージ)(写真/CAMPFIREのプロジェクトページより)
EkiLab帯織でできること(イメージ)(写真/CAMPFIREのプロジェクトページより)
無人駅活用のバリエーションは無限大
グランピングからものづくり拠点まで、プロジェクトのバリエーションが富んでいるのは、ベンチャー企業や地元企業などの協業相手のおかげだと、佐々木さんは振り返る。
「無人駅活用の取り組みをJR東日本単体でやろうとすると、どうしてもアイデアが出てこなかったり、偏ったりすると思います。でも今回は、秘境地域を宿泊施設に変えるのが得意なVILLAGEさん、コミュニティづくりに長けたNCLさん、クラウドファンディングで働きかけるのが上手いCAMPFIREさん、地元の企業・団体の方々など、色々な得意分野のある方たちと組めたおかげで、これだけの多様性が生まれました。無人駅の活用バリエーションは、本当に無限だと思います」
面白いアイデアを実現するために大切なポイント。それは「協業先の良さを最大限に生かすこと」だと、隈本さんは言う。
「弊社の役割は、JR東日本側と協業先の橋渡しです。相手がベンチャー企業さんの場合にはできるだけ自由にやっていただきたいと思っています。JRと組む上でいろいろ我慢されてしまうと、せっかくの個性が消えてつまらないアイデアになってしまいますから」
JR東日本グループ内は、新たな取り組みを始めやすい空気になりつつあるという。
「当社ではスタートアッププログラムを開始して今年で4年目なので、ベンチャー企業との協業が社内にも浸透してきました。無人駅以外のプロジェクトも年間で20個ほど走っています。今後も無人駅が関わるものもそうでないものも含めて、新しい取り組みがどんどん生まれてくると思います」
最後に今後の方針について聞くと、2人とも「無人駅活用の事例を蓄積して、社内外に広めていきたい」と話してくれた。自分たちの事例を参考に、無人駅を活用して地域活性化をしようと考えるプレーヤーが増えてくれたら。そんな思いとともに、今も一つひとつのプロジェクトを丁寧に形にしている。
上米内駅の事例では、駅舎を使ったことで「地域で新たな連携の芽が生まれた」との声が聞かれたように、駅は単なる「電車を乗り降りする場所」以上の意味を持つようだ 。その価値に気づいたいま、これからも想像を超える地域活性化の取り組みが無人駅から生まれることを、期待せずにはいられない。
●取材協力
駅舎内喫茶「mogura」 元画像url https://suumo.jp/journal/wp/wp-content/uploads/2020/09/174809_main.jpg 住まいに関するコラムをもっと読む SUUMOジャーナル
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