14歳の少女にして宇宙船、戦争と人命救助のスペース・オペラ
2018年度英国SF協会賞受賞作。複数の語り手が入れ替わりながら、銀河規模での歴史的事件が語られる。邦題の「ウォーシップ・ガール」とは、その語り手のひとり、宇宙船のAI〈トラブル・ドッグ〉のことだ。このAIのベースは人間と犬に由来し、バーチャル保育環境下で意識が構築された。元々は軍用だったが、戦争中に知的存在の殲滅にかかわったことで、すっかり嫌気がさして退役。現在は、人命救助団体「再生の家」に参加している。
〈トラブル・ドッグ〉は言う。
いまのぼくは、実質、どの面から見ても人間だった。
ぼくは狼だった。
ぼくはミサイルのなりをした十四歳の少女だ。
これが”彼女”の自意識である。
なんとも印象的。アン・マキャフリイ《歌う船》シリーズを、いまふうにアレンジしたというか。〈トラブル・ドッグ〉と一緒に――彼女の身体(宇宙船)に乗りこんでいるわけだが――救助活動をおこなう「再生の家」の仲間たちをはじめ、ほかのキャラクターもそれぞれに個性派で、そのままアニメ化できそうだ。
知的存在を殲滅した過去を背負い、現在は命を救うための活動に専念している〈トラブル・ドッグ〉の来歴は、オースン・スコット・カード『死者の代弁者』を連想させる。ただし、カード作品のように内省的ではない。〈トラブル・ドッグ〉の考えかたはプラグマティックであり、必要があれば殺人さえ躊躇なしにおこなう。
そうした割りきりが、いかにもエンターテインメントだ。訳者の三角和代さんが「あとがき」で述べているように、この作品の持ち味は「ギミック満載のスペース・オペラ」「テンポのいい展開と自由自在な想像力」にある。
さて、〈トラブル・ドッグ〉たちはいま、七つある惑星がすべて彫刻されている(何物がいかにしておこなったかは謎)ギャラリー星系へ向かっている。そこで民間船が襲撃されたのだ。現場に到着する前から妨害が入るなど、どうやら事態の裏側に大きな政治的策動があるらしい。
いっぽう、撃墜された民間船の生き残り、詩人のオナ・スダクの視点で、ギャラリー星系の惑星ブレインでのサバイバルも描かれる。こちらのストーリーは、ギャラリー星系の彫刻に秘められた謎へと接近していく。
〈トラブル・ドッグ〉たちの「再生の家」チームの物語と、オナ・スダクの物語が結びつく終盤は、一挙に時空規模が拡大する。どうやら、このスケールの大きさは続篇へと引きつがれていくらしい。
(牧眞司)
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