『千日の瑠璃』385日目——私は相似だ。(丸山健二小説連載)

 

私は相似だ。

胡散臭い眼つきで少年を見る一卵性双生児の幼い姉妹を、ボルトとナットのようにしっかり結びつけている、相似だ。呪わしい運命を生きるその少年は、私に気づいて辻公園のなかへと入ってくる。そして彼は、僅か五歳にして世間擦れしているふたりのまわりをぐるぐると回りながら、寸分違わぬ造作の、如何にもこすっ辛い顔を交互に見比べる。

初めてまほろ町の親戚へ遊びにやってきた姉妹ではあるが、すでにふたりはそうした類いの病人を幾度も見て知っている。実家の近所にも曲線的な動きをとめられない者が住んでおり、多いときには日に五回も出くわすことがあった。ところが、馴れているはずなのに、暴悪無類の野犬に固まれたときのように、ふたりの面にみるみる恐怖が広がり、遂には泣き出してしまう。少年はなだめすかそうと思う。だが彼は私に戸惑い、どっちの子に声をかけていいのか決め兼ね、迷っているうちにどっちがどっちとも判別できないふたり分の泣き声はますます大きくなる。圧倒されてたじたじとなった彼は逃げ出すしかない。

それでも私は追い掛け、追いつくたびに、その少年にもうひとりのそっくりな少年を錯覚させる。彼は行く先々で瓜ふたつの自分と出会う。石段で頭を打って人事不省に陥った己れを、湖岸に立って怒気を帯びた声を発している己れを、また、家族の荷厄介になっている己れを、いたるところで目撃してしまう。
(10・20・金)

丸山健二×ガジェット通信

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