作者一流の書法と画像的想像力の横溢。さまざまな側面を示すショーケース。

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作者一流の書法と画像的想像力の横溢。さまざまな側面を示すショーケース。

 酉島伝法の三冊目! 待望の短篇集だ。

 一冊目は創元SF短編賞を受賞したデビュー作を表題とする連作集『皆勤の徒』。
 二冊目は書き下ろし長篇『宿借りの星』。
 どちらも日本SF大賞に輝いている(『宿借りの星』は小川一水《天冥の標》と同時受賞)。ちなみに同賞二回受賞は、飛浩隆(『象られた力』『自生の夢』)に続き二人目だ。酉島さんも飛さんも寡作で知られるが、それでこの受賞結果なのだから、作品ごとのクオリティの高さをうかがわせる。読者の期待度も大きい。

『オクトローグ』はその期待にたがわぬ一冊だ。その表題どおり八篇を収録し、この作者のさまざまな面が示されたショーケースにもなっている。

 たとえば、「彗星狩り」は初期ブラッドベリを髣髴とさせる叙情的宇宙SFだ。宇宙に棲む無機生命の種族。その少年ミクグが、はじめて彗星狩りに参加する。長大な軌道を描く彗星は、遙かな歳月を経てこの宙域を通りかかる。そのときに滋味豊かな成分を採取するのだ。ミクグは、種族特有の器官である耀臓(ようぞう)を熱くさせ、「どうして僕たちはこれほどまでに彗星に焦がれるのだろう」と、不思議に思う。

 いっぽう、「ブロッコリー神殿」は、マックス・エルンスト「雨後のヨーロッパ」をさらに稠密にしたような生態系SF。舞台となるのは、海に覆われた惑星上にある、枝を放射状に広げる巨大な樹幹が密集する生態系。そこを異星から訪れた探検隊が調査するのだが……。まったく質が異なる知性間の接触/ディスコミュニケーションを扱う点で、レム『ソラリス』に通じるところがある。ただし、あれほどシビアな物語ではないのでご安心を。生物学の論理が下敷きにしつつ、圧倒的な崇高美の描出に成功していることに、舌を巻くばかりだ。

「環刑錮」は、異形化された主人公の身体の感覚と、彼が人間だったころの記憶がシームレスに交叉する叙述がすばらしい。冒頭の一文「土中を掘り進んでいたはずが、過ぎ去った日々に戻っている」が、作品全体を示している。ここに描きだされているのは、かつてJ・G・バラードが言いあてた内宇宙、すなわち「現実の外世界と精神の内世界が出会い、融けあう領域」(浅倉久志訳、ジュディス・メリル『SFに何ができるか』)にほかならない。

 巻末に収められた「クリプトプラズム」は、この短篇集のための書き下ろし。いくつもの要素が絡みあった作品だが、とりわけ注目すべきはスターリング『スキズマトリックス』の発展形ともいえるヴィジョンである。物語の背景として、あたりまえのように人類の宇宙進出/生体敵多様化/意識変容があるのだ。登場人物たちが暮らす市街船は、宇宙空間に広がる薄膜状の巨大なオーロラと遭遇する。採取したサンプルからは規則性のある生体高分子が発見され、そこから培養をおこなったところ、さまざまな生物が発生する(ただし多くは成長しきらずに崩れてしまう)。主人公は、ついに異星知性体の再現に成功するのだが、その正体は予想を遙かに超えたものだった……。

 どの作品も、この作者独特の書法(異様世界を記述するための異様語彙)と鮮烈な画像的想像力に横溢している。初手だと戸惑うかもしれないが、巻末の大森望「解説」が格好の水先案内になる。解説は後回しにすると決めているひともあるだろうが、酉島作品ばかりは先に解説を読むことを勧める。作品を読みつつの併読でもいい。

 この作者の作品は、再読を繰り返すことで、読者の脳裡に映されるイメージの解像度をあげていくところに大きな醍醐味がある。もちろん、それだけの手間をかける甲斐もある。解説で示されるのはあくまで輪郭なので(そもそも酉島作品の紹介でそれ以上のことはできない)、読者の体験や発見を損ねることはない。

(牧眞司)

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