夫の死後、一人になった妻は夫の遺族年金だけで生活できる?無理なく備えておくべきことは

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夫の死後、一人になった妻は夫の遺族年金だけで生活できる?無理なく備えておくべきことは
一般的なサラリーマンだった夫の厚生年金を主な生活費としていた老夫婦の場合、夫が亡くなって一人暮らしになれば、残された妻は、自分の老齢年金だけではとても生活できないのではと、不安に思う人が多いでしょう。本人だけでなく、一人暮らしになった親を援助することになる子ども世代にとっても、親の経済事情は、自分たちの生活にも関わる大きな問題です。

家計を担っていた世帯主が亡くなったとき、残された家族がたちまち生活に困窮することのないよう、受け取ることができる公的年金が「遺族年金」。受け取るには受給要件を満たしている必要がありますが、老齢年金が唯一の収入というシニアの場合にも、その生活を守ってくれる社会保障制度の一つです。

一人暮らしの不安に加え、これまで夫婦2人分の年金でどうにか暮らしてきた生活がどうなるのか、悲観する前に、遺族年金について知り、本当に備えるべきことは何かを、親世代、子ども世代ともに、考えておく必要があるのではないでしょうか。年金制度に詳しい社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの高伊茂さんに聞きました。

リタイア後は「みえを張らず、他人と比べない」生活を心掛けるべき。早くからの健康維持と住居費問題の解決が心穏やかなシニアライフのポイント

Q:一般的なサラリーマンだった夫が老後に老齢厚生年金と老齢基礎年金を、専業主婦だった妻が老齢基礎年金を受け取っていた場合、妻は夫の死後に遺族厚生年金と妻の老齢年金のどちらも受け取ることができるのですか?
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遺族年金は、厚生年金または国民年金に加入している人または加入していた人が亡くなったときに、その人によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です。遺族年金には、「遺族厚生年金」と「遺族基礎年金」があり、亡くなった人の保険料の納付状況や遺族年金を受け取る人に条件が設けられています。

夫婦ともに65歳以上の場合、老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給していた夫が亡くなったあと、妻は自分の老齢基礎年金のほかに遺族厚生年金を受け取ることができます。

Q:夫婦ともに65歳以上で、主に年金収入で生活していた場合に、妻が受け取ることができる遺族厚生年金の受給要件は?
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夫婦ともに65歳以上で、主に年金収入で生活しているという場合には、「夫の厚生年金加入期間が25年以上」という要件に該当すれば、妻が遺族厚生年金を受給することができます。

言い換えると、夫の厚生年金の加入年数が25年に満たない場合は、妻は遺族厚生年金を受給することができません。夫の厚生年金加入期間が10年以上あり、夫が存命中に老齢厚生年金を受給していたとしても、夫が亡くなったあと、妻は遺族厚生年金を受け取ることはできないということもあります。

Q:遺族年金や、他の年金の金額の概算を事前に知ることはできますか?
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加入期間25年以上の老齢厚生年金を受給している夫が亡くなった場合、夫の老齢厚生年金の額の3/4が遺族厚生年金として、妻に受給されます。
わかりやすい例として、たとえば夫の老齢厚生年金の額が120万円、妻の老齢基礎年金の額が78万円の場合

遺族厚生年金の額は、120万円×3/4=90万円

妻の老齢基礎年金の額78万円と合わせると、合計168万円となります。

これまで妻が専業主婦という想定で述べてきましたが、実際には妻も会社勤務の経験があるという人が大半です。つまり、妻も厚生年金を受給しているというケースがほとんどでしょう。その場合には、妻の老齢厚生年金を優先支給しますので、夫の老齢厚生年金の額の3/4から妻の老齢厚生年金の額を差し引いた金額が遺族厚生年金として支給されます。なお、妻の老齢厚生年金の額が遺族厚生年金の額より上回る場合は、妻の老齢厚生年金の方が優先支給されます。

毎年、誕生月に届く「ねんきん定期便」には、将来自分がもらえるはずの年金額が記載されています。遺族年金の額については、夫の老齢厚生年金の額を3/4と計算することで、事前に概算を知ることができます。

「ねんきん定期便」は、自分自身の老後のライフプランに役立つ貴重な情報なので、しっかりと確認する必要があります。なお遺族年金については、所得税は今のところ非課税です。

Q:一人暮らしになった妻が、遺族年金と自分の老齢年金だけで生活する場合、住宅ローンや家賃など、住宅に係る出費が大きな負担になりませんか?
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住宅ローンや家賃など、住宅に係る出費が少ないことは、限られた収入で生活するうえで、重要な条件の一つです。住宅ローンは現役の間に完済しておくことがベストですが、住み替えなどの事情で、支払いが残っているというケースがあるかもしれません。

その場合でも、契約者の夫が亡くなった時点で、住宅ローンに付けていた団体信用生命保険によって、残金の返済は不要になりますので、遺された妻が年金から払い続けるというようなことにはなりません。

また、リタイア後の住み替えなどによる住宅購入、リフォーム、借り換えなどには、60歳以上を対象にした、住宅ローン「リ・バース60」もあります。

これは、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)と提携している民間の金融機関が提供する住宅ローンで、元金は契約者が亡くなった時に、相続人が一括して返済するか、担保物件(住宅および土地)の売却により返済となるものです。毎月の支払いは利息のみなので、大きな負担を抱えることなく住み続けることができます(※各金融機関により、要件は異なります)。

Q:遺族年金と自分の老齢年金だけでも心豊かに生活するため、心掛けたいポイントとはどのようなものでしょうか?
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現役の間に、ある程度の預貯金を蓄えておくことや、生涯現役とする人生設計ももちろん大切ですが、それ以外にも「人生100年時代」に備えて心掛けておかなければならないことがあります。たとえ子どもがいても、子育て世代は自分たちの生活で手一杯で、一昔前のように親の面倒まで見るゆとりなど期待できません。

公的年金以外の収入としては、投資などの不労所得、個人年金、確定拠出年金などがありますが、いずれも現役時代の早い段階からの準備が必要です。生涯現役が続けられるなら、働くことが最大の年金と言えますが、遺族年金だけで生活しようとすると、それほど楽観したシニアライフを思い描くことは難しいかもしれません。ただ、毎月の固定費の支出や、ライフスタイルの見直しなど、早い段階から心掛けておくことで、マイナス要素を減らす余地は十分あるでしょう。

リタイア後は、現役時代とは異なる価値観を持つ必要があります。

生活の中の支出を見直す際のポイントは、「みえを張らない」「他人と比較をしない」ということ。
シニアになれば、金銭的な蓄えだけでなく、生活する上で必要な家財道具なども、大抵のものは所有しているはず。あまり大きな買い物などは控えた方が良いことは、言うまでもありません。特にシニア向けにテレビやネットで発信される怪しい情報には、惑わされないようにしたいものです。

そして何より大切な条件の一つは、健康であること。
そのために、なるべく足を使って歩くように心掛けましょう。歩くことは若さや健康を保つ秘訣です。

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