『千日の瑠璃』348日目——私は会議だ。(丸山健二小説連載)
私は会議だ。
夕日に映える三階建ての黒いビルの一室で三人の極道者が開いた、報復についての、大真面目な会議だ。長身の青年は、これ以上待てば甘く見られてしまうと言い、今夜にでも何かしら手を打つべきだと主張する。しかし指無し男は、今のこのこ出て行けば手ぐすね引いて待っている敵にしてやられるだけだと反論する。そして、殺された組長の代りに送りこまれた鳥の声が好きな男は、更に慎重な意見を述べる。敵が忘れかけた頃に実行するのが最も効果的なのだと言い、野鳥のさえずりを吹きこんだテープをラジカセに突っ込む。すると長身の青年はそのスイッチを切りながら、いつまでもやらなければ面子が丸潰れになるばかりか、「図に乗ってまたちょっかいを出してきますよ」と言う。
指無し男が言う。まほろ町への進出は時期尚早ではなかったかと言い、「あいつらだって必死なんだ」と言い、「どうせわしらは捨て石だもんな」と言う。だが、《捨て石》という言葉は、成功の暁にはこの県を任され、ゆくゆくは大幹部と目せられている新組長の激怒を買ってしまう。彼は、考えるのも決めるのも自分だと言い、ラジカセのボタンをふたたびぐいと押す。ふたりの配下は結局長上の言に従うしかなく、私は意味をなさなくなり、野蛮な企ては迂遠なものに終る。ビルいっぱいに満ちたオオルリのさえずりが私を残暑が幅を利かす表へと追い出し、雪辱を遂げる力を奪い取る。
(9・13・水)
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