『千日の瑠璃』336日目——私は相談だ。(丸山健二小説連載)

 

私は相談だ。

世一の姉が入院中の弟に代って世話をしているオオルリに、大真面目に持ち掛けた相談だ。彼女は鳥籠の底に敷く新聞紙を折り畳みながら、現在進行中の、この機を逃したらあとは二度とないであろう恋愛の行方について、青い鳥にたずねた。そして相手の答を待たずに、ストーブ作りの仕事は本当にうまくいっているのだろうか、と訊いた。あの男はこのところ溶接の火花から遠ざかっている。そうかといってほかの仕事をするわけではなく、あたら便々と日を送り、聞き厭きた愚にもつかない自慢話を繰り返している。

彼女は尚もつづけた。あの人はあたしが差し入れる弁当を待ち構えていたみたいにがつがつと食べ、満腹になるとすぐに素っ裸になる。あたしから体を離す時間が夜毎に速まり、言葉遣いがぞんざいになり、お金を無心するときだけ上機嫌になり、そのうえ近頃では「あと千円奮発してくれないかなあ」などと口走るようになり、結婚したら町営住宅か、もっとましな借家に入居しようと言い、そのくせ約束をすっぽかすことが多くなり、心腹に落ちる話はひとつとしてなく……。

そこまで言って、彼女は泣いた。するとオオルリは、報恩の念に溢れた声でひとしきりさえずり、それからずけずけとものを言った。あいつは屑だ、と鳴き、すぐに別れるべきだ、と鳴いて、最後にひと際甲高い声で、だが女次第の男だ、と鳴いて、私への回答とした。
(9・1・金)

丸山健二×ガジェット通信

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