『千日の瑠璃』319日目——私は説明だ。(丸山健二小説連載)

 

私は説明だ。

かんかん照りをものともせずに、少年世一が盲目の少女を相手に延々と繰り返す、懸命の説明だ。私の内容はというと、それはもうオオルリのことに決まっている。世一が誰かをつかまえて熱心に話すことなどほかにあるわけがない。世一はまず口笛で以て鳴き声を再現してみせる。ついで、相手の眼には何も映らないのを承知しながら、鳥の仕種を忠実に真似てはばたき、少女のまわりをぐるぐる回る。これが普通の子どもなら、眼を回してばったりと倒れてしまうに違いない。

しかし、普通ではない世一は、三半規管が乱されることによってむしろ体の揺れがおさまり、誰にでも聞き取れる話し声を出せるようになるのだ。事実、世一が回転してからの私は、少女の耳にすんなりと滑りこむ。彼女の少ない知識と経験が総動員し、見えないことによって培われた想像力が存分に働く。そのおかげで私は、本物を超えるかもしれない青い鳥を、ものの見事に、彼女の光を知らぬ胸のうちに飛ばすことができる。

「わかったあ?」と訊く世一の声に濁りはなく、「わかった」と答えて深々と領く少女の笑みは至上のもので、彼女に寄り添って離れようとしない白い犬の「わん」は紛れもなく私に向けて感謝の意を表している。残念ながら私には、かれらの未来を洞見することなどできない。しかし、かれらの千日くらいならどうにか保証してやることができそうだ。
(8・15・火)

丸山健二×ガジェット通信

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