梶裕貴さんに聞く 『AI』との恋愛はアリ?「人間だからこその“曖昧さ”に美しさや尊さを感じる部分ってありますよね」
声優・梶裕貴さんが実写連続ドラマ初主演を務める『ぴぷる~AIと結婚生活はじめました~』がWOWOWにて5月18日より放送となります。
2030年、人間とAIが結婚できるようになった近未来を舞台に、人型AIと結婚することを選んだサラリーマンの摘木健一(つみき・けんいち)と、その妻となった人型AIの「ぴぷる」、そして「ぴぷる」を開発したAI研究者の女性・深山楓(みやま・かえで)をはじめとする個性あふれるキャラクター達による、「AIと人間のあり方」を問うSFヒューマンコメディです。
様々なアニメ作品、ナレーション等で活躍する梶さんが連続ドラマにどの様に挑んだのか。お話を伺いました!
――実写の連続ドラマ初主演ということで、お話を聞いた時の気持ちを教えてください。
梶:もともと、原作小説と連動して企画されたWEBドラマ「耳で楽しむ小説『ぴぷる』で同じく主人公の摘木役を演じさせていただいておりました。原作も大好きで、摘木に共感する部分もあったので、「いつかまた続編やアニメ化できたら嬉しいですね」というお話をスタッフさんとしていたんです。そんな中で、本当に冗談混じりで、「もちろんアニメでも、実写になってもお願いします」と言ってくださって、「そんな機会があればぜひ」とお返事していたら…まさか、アニメよりも先に実写化が実現するとは!(笑)。本当に声をかけていただけて嬉しかった反面、驚きもしました。一度演じさせていただいた役に再び機会をいただけたこともそうですし、声の現場とはまた違った場所でお芝居を経験させていただけるという事がありがたかったですね。
――実写のお芝居自体は初めてでは無い梶さんですが、改めて感じる難しさはありましたか?
梶:レギュラーで…しかも主演という形での参加だったこともあり、これまで以上に、難しさと面白さの両面を感じました。当初は、主演という立場でありながら、役者としての経験値が他の共演者の皆さんよりも圧倒的に少ないことをハードルに感じていましたね。でも、実際にクランクインしてみれば、想像していた以上に素敵なチームで、そんな不安はまったくの杞憂だったことに気がつきました。助ける、助けられるという感覚ではなく、皆が常に仲良く同じ方向を向いて作品づくりをさせていただけていたな、というのをすごく感じています。同時に、いつも当てている声でのお芝居と、映像でのお芝居の違いも感じましたね。それから、ドラマ撮影と並行して声優業も継続していたので、撮影を終えて声の現場に行ったりすると、「安心する…。そして、自由だな。ここでだったらなんでもできる!」とほっとしたり。(笑)声優の仕事が、自分にとってどういう存在なのか、改めて感じる機会にもなりました。
――とても良いチームで作品作りが出来たとの事ですが、これは勝手な私の想像で共演のアヤカ・ウィルソンさんや、大原櫻子さんも梶さんにお会い出来て嬉しかったのではないかなと。「あ、本当にあのキャラクターの声だ!」といった感じで。
梶:スタッフさんも含めて、ありがたいことに「アニメ観てます!」と言ってくださることはありました。僕も皆さんのお芝居は、共演する前から拝見したり拝聴したりすることがあったので嬉しかったですね。今回のチームは、良い作品を作りたいという気持ちがすごく強い皆さんで。もちろん他愛ない話も沢山しましたが、真面目な芝居論について熱く語り合うこともあって。「うわ!そんなところまでいろいろと考えて役と向き合っているんだな」と、とても勉強になりましたね。自分もそうありたいと思いながら日々、声優業をやらせていただいてはいますが"本番が始まるまでに、自分でどう準備して、そこで生まれたものにどう対応していくのか"ということが、どれだけ大事なのかということを改めて感じられたので、ありがたかったです。
――声優さんの業界でも梶さんのようにドラマ、映画、舞台に出られている方がたくさんいます。どなたからかアドバイスはもらいましたか?
梶:アドバイス…という感じではないですけど、みなさん興味は持ってくださっていたようで。大河ドラマに出演された大塚明夫さんや高木渉さんも「どう?順調?大変でしょう?」と声をかけてくださったり。他にも、以前お世話になった樋口真嗣監督からも「先に連ドラ童貞を奪われちゃった」みたいな、ジョーク混じりのエールをいただいたり(笑)。みなさん、新しい挑戦に対して、すごく背中を押してくださっているような気がして嬉しかったですね。同輩とか近い世代もそうであれば、ベテランの役者さんだったり監督さんだったり、そういう方たちが声をかけてくださる事で「自分の挑戦は間違ってなかったんだな」と、とても励みにもなりました。
――すでに声では演じられている役ですが、ご自身で演じることでまた違いもあったのではないでしょうか。
梶:基本的に“演じる”という意味においての構造は同じだと思うんですけど、最終的なアウトプットの仕方は異なってくる気はしています。アニメであれば画面の中で既に絵がお芝居をしてくれているわけで…その上で、どこまでデフォルメして表現するのか、という専門的なテクニックが必要になってくると思うんです。一方、実写では本人の容姿含めた表現すべてがフィルムに反映されますよね。とはいえ、こちらにはカメラワークやアングルなどの制約も入ってくる。どちらにも違ったハードルがあるわけです。そういった意味では、いつもと違うところに縛りは感じましたが、声を使わずに目線だったり少しの表情変化だったりで感情を伝えることができたのは非常に楽しかったですし、やっぱり声の芝居とは別物なんだなとも感じましたね。
――なるほど。そこが難しさでもあり面白い部分なのでしょうね! 摘木というキャラクターについては演じる上でどの様な工夫をされましたか?
梶:演じさせていただいた摘木は、自分のチャンネルでWEBラジオのMCをしている設定なので、“喋る”という事に対して比較的慣れたキャラクターではあるとは思うんです。とはいえ、プロというわけではない。なので、自分の演じる役が声優という職業のキャラクターではない以上、その“声”という要素が、視聴者の方にとって余計な情報として引っかかる部分になって欲しくはないな、とは思っていました。本来"声"は、自分がいくら消そうと思っても個性として残る部分。もうそれは仕方ないものだとして、自分の武器であるはずの声の個性をどこまで削って、それだけじゃない部分で表現できるのか。経験は少ないながら、映像作品として観ていて違和感のない自然なお芝居を目指せればな、という意識はありました。
――梶さんは摘木に共感出来る部分もあるそうですが、それはどんな所なのでしょうか。
梶:共感出来ると言うと「コイツ大丈夫か?」と心配されるくらい攻めている役かもしれませんが(笑)…でも、実は男性のほとんどがどこかしら共感できるものを持っている人なんじゃないかなと。恥ずかしい、情けない部分がある反面、意外と男らしかったり、すごく人間らしい人。最後までご覧いただければ、きっと応援したくなるようなキャラクターだとわかっていただけると思いますし、「こういうところ、誰にだってあるよね!」と理解していただけるはずです。声でのお芝居であれば、10代や20代のキャラクターを演じることはよくあるのですが・・・映像になったときにその世代は、もうキツいと思うので(笑)。30代前半の男性…年齢感が自分に近いというところで、変に作りすぎることなくやれたという意味では、入りやすい役だったのかもしれません。
――おっしゃる通り、綺麗なとこだけ見えているわけじゃないのが良いキャラクターだなと私も感じました。
梶:そういう部分があるからこそ、演じていて楽しいんですよね。第一話は特に衝撃的なシチュエーションやセリフが多かったりするんですけど…それによって、もしかしたら嫌悪感を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが(笑)、ぜひ最後まで通してご覧いただいた上で、彼のこと、作品を判断していただきたいなと思います。
――作品のテーマは「AIとの恋愛」です。梶さんにとってはAIとの恋愛はアリですか?ナシですか?
梶:『ぴぷる』の中の世界で言えば、僕は摘木を演じる上で、ぴぷるに対して本当に家族のような愛情を持って接していたので、全然アリだなと思いますね。ただ、これも結末までご覧いただければわかるところではあるんですけど…人間だからこその“曖昧さ”みたいなものに、時として美しさや尊さを感じる部分ってありますよね。AIの選択する答えが、どこか空虚で、悲しく感じられてしまうところがある気がするんです。AIとしては、相手にとって「必要なこと」、ベストな選択肢を確実に選んでくれるんでしょうけど・・・そういった、自分にとっての「必要なこと」って、必ずしも自分が求めていることとは限らない。「必要なこと」を突きつけられるより「望んでいること」を、誰か他人と達成できた方が幸せだったりすることもあるのかなとか思うと・・・(ぴぷるの様に)ここまで進化したAIでも、やっぱり、どこか人間との間に溝があるのではないかと考えちゃいますね。
――本当にそうですね。スマートに選択出来るAIだからこそ通じ合えないもどかしさがあったりして。
梶:例えば、「好きな人に好きな人がいると分かった」という恋愛相談をAIにしたとして、もしかしたら「もうやめなさい。確率は0%です」と判断されてしまうかもしれない。でも同じ相談を僕が友達にされたとしたら、まず、その人がどうしたいのかを聞きます。結末よりも、自分の意思や気持ちを大事にしたいのかどうか。たとえ届かなくても、伝えることで救われる気持ちってあると思うんです。そこは僕が人間である以上、大切にしたいことですね。もちろん、相手の気持ちを自分なりに最大限汲んだ上で、ですが。“結果”だけでなく“過程”がとても大事なんです。
――ちなみに梶さんはAIであったり、そういうテクノロジーやガジェットの分野はお好きだったりするのですか?
梶:興味はありますけど、詳しくはないですね。そういった特番なんかが放送されている時とかは、思わず見ちゃいますし、面白いなって思います。
――どっちかというとアナログな方ですか?
梶:そういうわけではないと思っているんですが…そう思っているだけかもしれないです(笑)。自分にとって不便のない範囲で、そして周りの人に迷惑をかけることない程度の知識や技術は備えておきたいし、知っておくべきだなと思います。例えば本を読むにしても、電子書籍ならではの便利さがありますよね。いつでもどこでもすぐに読めるし、保管スペースが必要ない、などのメリットがあると思うんです。でも、紙の本の良さっていうのもやっぱりあると思っていて。"触れて読む"って、すごい魅力的ですよね。なので、どちらの良さも繊細に感じていきたいなと思っています。
――本作は2030年が舞台で今から10年後ですが、梶さんが今年35歳になられる年で、より大人になっていく10年だと思うんです。私生活でも仕事でもこの先10年で挑戦してみたいことってありますか?
梶:うーん…変わらずに、着実に、というのが一番かもしれないですね。まあ変わらずと言いつつ、より新しいところ、深いところを目指したいという思いは当然ありますけど。今回のように、映像のお芝居に挑戦させていただけたというのは、自分にとってかけがえのない財産だと思いますし、今後もこういった機会があれば…自分がやるべきだと思うことであれば、臆さずに、貪欲に挑んでいきたいと考えています。その先がどうなっていくのかはやってみないとわからないことだと思うので、今一度、"声優"という職業にしっかりと軸足を置いて、アグレッシブに挑戦し続けていきたいなと思っています。でも…やっぱり、健康が一番大事ですね!(笑)
――分かります。(笑)私も梶さんと同じ1985年生まれなので、健康って大事だなと改めて…。
梶:本当ですよね。健康じゃないと何も出来ないので。お互い、健康で頑張っていきたいですね!
――『ぴぷる』の放送も、これからのお仕事も本当に楽しみにしております。今日はありがとうございました!
WOWOWオリジナルドラマ「ぴぷる~AIと結婚生活はじめました~」
5月18日(月)よりスタート(全8話)
[初回2話連続放送・第1話のみ無料放送]
毎週月曜 深夜0時よりWOWOWプライムにて放送
出演:梶裕貴 アヤカ・ウィルソン 大原櫻子
忍成修吾 山田悠介 / 臼田あさ美 濱田マリ
原作 : 原田まりる「ぴぷる」(KADOKAWA 刊)
音楽 : フジモトヨシタカ
(ドラマ「連続ドラマW 名刺ゲーム」、ドラマ「連続ドラマW ヒポクラテスの誓い」)
脚本 : 小寺和久(映画『デイアンドナイト』、ドラマ「虫籠の錠前」)
監督 : 酒井麻衣(ドラマ「恋のツキ」、映画『はらはらなのか。』)
瀧悠輔(ドラマ「連続ドラマW 名刺ゲーム」、ドラマ「アラサーちゃん 無修正」)
<ストーリー>AIを家族に迎え、結婚できるようになった2030年。
冴えないサラリーマンの摘木健一(梶裕貴)は長年片思いをしていた憧れの会社の先輩とのデートに失敗し、そのショックから、勢いで性交渉機能搭載の美少女 AI を購入し、妻として迎え入れ、ぴぷる(アヤカ・ウィルソン)と名付ける。しかし、なぜか結婚初夜の夜の営みを拒絶されてしまう。摘木はぴぷるの開発元を訪ね、共感能力ゼロのミステリアスな AI 研究者・深山楓(大原櫻子)に出会い、自身による初期設定に問題があったことを知るが、残念ながらぴぷるの設定を変更することはできないことを告げられる。その代わりに深山は、摘木に驚きの提案をしてきて…!?
(C)2020ドラマ「ぴぷる」製作委員会
https://www.wowow.co.jp/drama/original/piple/
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https://otajo.jp/87554 [リンク]
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