放射線と被曝の教室(2) シーベルトとベクレル・グレイ
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
放射線と被曝の教室(2) シーベルトとベクレル・グレイ
(このシリーズは法規にも違反することを言って、子供の被爆を増やそうとしている人たちへ具体的な反撃をするために執筆したものです)
このシリーズの(1)*1に、日本は法治国家であり、原子力は昔からあるので国民を被曝から守る法規は存在すると書きましたし、具体的な法規も示しましたが、何しろ相手はそんなことはよく知っていてウソを言っている人たちですから、こちらももう一段、武装をしておく必要があります。
*1:「放射線と被曝の教室(1)被曝から日本人を守る法体系」2012年9月11日『武田邦彦(中部大学)』
http://takedanet.com/2012/09/post_9f31.html
被曝を防ぐ法律には、「シーベルト」を記載しているものと「ベクレルやグレイ」を示しているものがあります。これをたとえで説明します。
高速道路の速度標識に「時速80キロ」とあります。本当はこの80キロというのは厳密に言うと「安全の指標」ではありません。高速道路のある区間で「1年に1名の犠牲者なら仕方が無い」と決めて、それから事故確率と速度の関係を使って、「それでは80キロ」ということになります。
つまり、あることを規制する場合、本質的な数値ではなく、実行可能な数字を表示するのが普通です。高速道路に「1年1名の犠牲者になるような速度で走ること」などと言われても、現実的に役に立たないからです。
同じように、酔っ払い運転でもそうで、「呼気の中にアルコールが0.15mg/L」などと決まっていますが、この数値に意味はありません。「酒に酔って危険な運転になるアルコール量」と言うのが普通で、本来なら人によって酒の強さ、運動神経などに差がありますから、一定の値ではないのが普通です。でもそれでは取り締まることもできないので、呼気中のアルコール量で表示します。
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この関係を知っていて逆手に取る人がいます。被曝に関する法律ではその多くが「シーベルト」の制限を明記していますが、「一般公衆の被曝限度」が明記されているものはほとんどありません。それは「シーベルト」と「ベクレル、グレイ」などの本質的な差によっています。表記されていないから1年1ミリシーベルトが決まっていない訳ではありません。
放射線の基本的な単位は、ベクレル(放射性物質の量)、グレイ(放射線の強さ)で、シーベルトは「人間が受けるダメージ」です。つまり、人がどのぐらい被曝で痛むかがシーベルトなので、法律を作るときにはまずシーベルトを決めます。
一般公衆の被曝限度、自分の意思で放射線作業につく成人男性などによって、それぞれ「許されるシーベルト」が決められます。これは高速道路の1年何人の犠牲者にするかというような数値なので、これを法律に書いてもあまり意味がありません。
そこで、まず法律を作るときに「1年1ミリシーベルト」を確定して、それが確定されると、「管理区域では1年5グレイ、食材では1キロ100ベクレル、水道なら1リットル10ベクレル」と決まっていきます。つまり、「シーベルト」という単位は「被曝と健康」の時の単位で、「ベクレル、グレイ」が物理的な単位なのです。
たとえば、食品の暫定基準値が1キロ100ベクレルとなっていますが、これについて、食品安全委員会が「食品からの内部被曝が1年1ミリシーベルトとすると、食品の基準は1キロ100ベクレルになる」と言っていることと符合します。
(法規では外部被曝、内部被曝合わせて1年1ミリシーベルトで、今の日本では外部被曝がありますから、この食品委員会の数値は「日本の食材を食べるなら、日本に住んではだめだ」と言っていることになります。)
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このように、もし、公衆の被曝限度1年1ミリシーベルトが決まっていなければ、食品の基準も原子力施設の基準も決まりません。原子力の施設やレントゲン室の基準も、まずは「1年1ミリ」の基準を決め、それに基づいて、レントゲン室から外に漏れる量が決まり、コンクリートの厚みが決まるということです。
ですから注意深く読むと、放射線の施設から廃棄したりするときには「1年1ミリ」が表記されます。つまり施設内は1年5ミリでも、その施設から出すものは公衆に触れますから、1年1ミリが表に出てくるのです。
また、私が「福島から運びだすものは汚染度を測定して」と言っているのは、放射線が高いところからものを出すときには1年1ミリ以下の被曝になるように「表面汚染の限界」が定められており、さらに、人間が住む土壌の汚染も決まっています。
日本人を被曝から守るおおもとの数字が「1年1ミリシーベルト」であることが理解されたと思います。原発事故から1年半が経ちましたが、私の感じでは、専門家は最初は政府に追従して「1年1ミリなど規定がない」と言い、それがウソとばれると「ICRPは20ミリと言っている」と言うようになりました。
また、テレビや新聞などはここで説明したことはもちろん、すべて知っているのですが、報道すると政府に睨まれるとか、電力会社のコマーシャルが入らないということで、間違いを承知で報道しています。2011年、1年1ミリ以外のことを言っている人との対談が何回か組まれましたが、すべてキャンセルになりました。
対談の計画の時に、私から「ご研究の結果については何も異議をもうしませんが、法律で1年1ミリと決まっていることは言います」と言うと、すべて断ってこられました。
法律で決まっていることを知っているのに、ウソを言って子供を被爆させるということが許されるはずがありません。自分が後ろめたいので汚い言葉でバッシングをしてきますが、少しは日本人の誠意を見せて欲しいものです。
まるで「酔っ払い運転をしても、事故が起こるとは限らないじゃないか!」と居丈高にいっているアウトローの人たちのようです。事故直後、多くの専門家は「国民は法律に気がつくはずはない」と考えて、1年1ミリを口にしませんでした。つまり東電側についたのです。
しかし1年たってウソを突き通すことができないと分かると、多くの専門家や厚労大臣は1年1ミリと言い出しました。でも、悪質な自治体は未だに「1年100ミリで障害がでるという科学的結果はありません」とこれも「ウソ」を言っていますし、評論家などで未だに法律を読まない人もいるようです。私は絶対に負けません。負けたら子供が被爆します。
平成24年9月11日 放射線と被曝の教室(2) シーベルトとベクレル・グレイ 武田邦彦氏音声ファイル 『ニコニコ動画』
http://www.nicovideo.jp/watch/so18914573
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
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