これがミニチュア!? Mozuがつくるコンセントの向こうの「小さな暮らし」

これがミニチュア!? Mozuがつくるコンセントの向こうの「小さな暮らし」

一見、なんの変哲もないコンセントが実は扉になっていて、開けるとそこには小さな部屋がある。そんな世界を描いた動画「こびとシリーズ」をご存じでしょうか。今回は若きミニチュアアニメクリエイター・Mozuさんに自分の部屋や友だちの部屋をつくった理由、将来の夢についてインタビューしました。

「自分が大好きな部屋」をミニチュア作品にしたら、バズった!

コンセントを開けると部屋?と言われても混乱してしまう人も多いでしょう。まずは手掛けた作品をご覧ください。

「こびとの秘密基地」

「こびとの階段」

制作したのは、MOZU STUDIOS代表取締役でもある水越清貴(Mozu)さん。21歳という若さながら、次々とミニチュア作品を世に出し、SNSのフォロワーはツイッター19万5000、インスタ17万という影響力を持ち、本を出版したり、個展を予定していたりと、すでにトップクリエイターといってもいい存在です。水越清貴(Mozu)さん(写真提供/MOZU STUDIOS)

水越清貴(Mozu)さん(写真提供/MOZU STUDIOS)

冒頭の「こびとの秘密基地」はツイッターでもバズりにバズり、なんと68万いいね!超(2020年4月現在)。日本のみならず世界中から反響があったといいます。ミニチュアは1作品あたり製作期間が3~4カ月ほどかかり、身近なものを加工してすべて手作業……と、気の遠くなるような作業を重ねていることが分かります。では、なぜミニチュア作品をつくるようになったのでしょうか。

「はじまりは小学校5年生のとき。友だちに誘われてガンプラ(ガンダムのプラモデル)で遊ぼうという話になったのがきっかけです。初めてプラモデルを買った店の名前も機種も、今でもはっきりと覚えていますよ。その後、プラモデルではなく背景のジオラマづくりに興味を持つように。見よう見まねでつくったので、はじめは本物の土を使って部屋中を土で汚してしまいお母さんに怒られました(笑)」

と振り返ります。始めた当初はまったくうまくいかなかったものの、ジオラマ制作熱は冷めることなく、試行錯誤をしながらジオラマの風景の一部である、建物づくりへと没頭していきます。転機となったのは、高校生の時。趣味でつくっていた部屋を友人がSNSにアップしたところ、一夜にして大反響があり、一躍、ミニチュアクリエイターとして脚光を集めたのです。

巾木(はばき)を入れる瞬間が気持ちいい! ミニチュアの家をつくって気づいたこと

でも、どうして自分の部屋のミニチュアをつくろうと思ったのでしょうか。「自分の部屋」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「自分の部屋」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「当時、芸術系の高校に進学したものの、僕が好きなのは、人に喜んでもらったり驚かせたりするカルチャー系。一方、同級生は現代アートなどに興味を持っている人が多くて、友人がまったくできず……。それで当時、いちばん好きだった『自分の部屋』をミニチュアでつくってみようと思って。それこそ、学校にいる以外の時間は全部費やしました」(水越さん)

ミニチュア作品では、「こんな家に住みたい」と理想のきれいな家がつくられることが多いなか、水越さんがつくったのは、生活感があって等身大の高校生の部屋。それこそ漫画が並んでいたり、ノートが床置きになっていたり。この「絶妙にリアルな感じ」が共感を呼んだといいます。作業風景(写真提供/MOZU STUDIOS)

作業風景(写真提供/MOZU STUDIOS)

「“この部屋に住みたい“”あるよね~“など、いろんなコメントが寄せられました。自分が好きなこの部屋、好きなのは自分だけじゃなかったんだって、思えたんです」(水越さん)

ミニチュア作成では「実際の住まいを計測して1/6にするだけ」と言いますが、その1つひとつへのこだわり、ディテールが半端ではありません。また、家電量販店の袋や表彰状などパロディなども多く、思わずにやりとしてしまうしかけが満載です。ただ、すべて手づくりのため、1つのパーツに6時間かかることも珍しくありません。材料はすべて100均ショップなど、身近にあるものを加工していくのだといいます。

「日本の家と海外の家を比べて思うのは、壁紙が白色で落ち着いているところですね。『こびとの旅館』をつくった時には、日本人って狭い空間にギュッと生活必需品を詰めるのが好きなんだなと思いました。狭い中にものを詰め込むというか、空間が狭いゆえの工夫があるんだと思います」(水越さん)「こびとの旅館」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの旅館」(写真提供/MOZU STUDIOS)

また、ミニチュア作品をつくっていてめちゃくちゃ気持ちいいのが、「巾木(はばき、床と壁の境目にとりつける部材)」を入れる瞬間だとか。

「作品づくりでもかなり仕上げに近い工程なんですが、壁と床の間に巾木を入れると、めちゃくちゃ空間がしまるんですよ。それまでただの“空間”だったのが一瞬にして“部屋”になる。本物の家をつくっている大工さんも、気持ちいいんじゃないかなって思っています(笑)」(水越さん)巾木を入れると空間が“しまる”(写真提供/MOZU STUDIOS) 巾木を入れると空間が“しまる”(写真提供/MOZU STUDIOS)(写真提供/MOZU STUDIOS)

(写真提供/MOZU STUDIOS)

ちなみに、もともとは巾木という名前も分からずに「壁 床 木材」などで検索してその名前を知ったそう。こうやってミニチュア作品をつくることで、「見ているけれど見えていない」ものがたくさんあるんだと気がついたといいます。また、こびとシリーズで使っているコンセントと壁紙はすべて本物の建材だそう。リアリティがあるのも納得です。「こびとのトイレ」(写真提供/MOZU STUDIOS) 「こびとのトイレ」(写真提供/MOZU STUDIOS)「こびとの押入れ」(写真提供/MOZU STUDIOS) 「こびとの押入れ」(写真提供/MOZU STUDIOS)「こびとの階段」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「こびとの階段」(写真提供/MOZU STUDIOS)

夢はコマ撮りアニメーション制作会社をつくること。冒険はまだまだ続く

水越さんのミニチュア作品の特徴は、きれいすぎないこと。どこか「身近」で「ありそう」な感じが魅力のひとつです。

「以前、ジオラマで『ゴミ捨て場』をつくったんですが、たとえ捨てられたモノでも、使っていた人の思いや暮らしのニオイがするのが好きなんですね。家族がいるとこんなゴミが出るよね、粗大ごみを捨てる人がいるとか、妄想しながらつくる。また、僕が楽しそうにつくっているからこそ、見てくれる人が喜んでくれる、おもしろがってくれる。SNSで寄せられるコメントは全部見ています。これからも見てくれる人との距離が近くありたいと思っています」と話します。「ゴミ捨て場」(写真提供/MOZU STUDIOS)

「ゴミ捨て場」(写真提供/MOZU STUDIOS)

水越さん自身は、高校卒業後、大学に進まず、アーティストとして活動することを決め、コマ撮りアニメーションのスタジオ「アードマン・アニメーションズ」(英国・ひつじのショーンなどの作品で有名)に見学にいったり、ミニチュア作家たちと対談したり、その後に自分の会社を設立したり……と数年間で着実に夢を叶えてきました。また、ミニチュア作品だけでなく、ミニチュアアニメが、アジア最大級の短編映画祭「Digicon6」で、JAPAN Youth部門の最優秀賞ゴールドを獲得したり、トリックアートを描いて出版したりと多彩に活躍しています。

現在は企業とのコラボもしていますが、将来は依頼されたミニチュア作品をつくる「職人」ではなく、「自分の好きな作品をつくって、喜んでもらうアーティスト」になりたいとのこと。また、元来の夢である「コマ撮りアニメーション」もつくりたいと計画しています。

「コマ撮りアニメーション」ってめちゃくちゃ手間ひまがかかり、お金がめっちゃかかる一大プロジェクトです!

それにしてもまだ20代なのにこの活躍ですが、ネット時代の新しい才能はこうやって開花していくのでしょうね。水越さんの小さい世界につまった、大きな夢。これからも応援したいと思います。●取材協力

MOZU STUDIOS

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