今起きていること。日本人の賃金を下げよ。リストラせよ。雇うな

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今起きていること。日本人の賃金を下げよ。リストラせよ。雇うな

今回は鈴木傾城さんのブログ『DARKNESS』からご寄稿いただきました。

今起きていること。日本人の賃金を下げよ。リストラせよ。雇うな

アメリカの2012年の大統領選の焦点は、いかに国民に仕事を与えるか、という点にかかっている。

アメリカの失業率は8%以上になる。若年層や有色人種の失業が非常に高く、たとえば黒人だけを見ると失業率が15%にもなっている。

オバマ大統領はこうした現状をチェンジすると豪語して大統領になった人物だったが、失業率の改善には失敗しており、これが再選のアキレス腱になっている。

アメリカで失業率が高止まりしているのはなぜか。それは企業がアメリカに工場を作らず、新興国で工場を作っているからだ。

では、なぜアメリカで工場を作らないのかというと、一にも二にもコストを削減するためである。多国籍企業、グローバル企業は、「高賃金の人間はいらない」のだ。

どんなに働いてもリストラの対象

日本の企業もまた海外に物を売っているのだから、コスト削減が至上命令になっている。

今回、シャープが日本国内に巨大工場を作って企業そのものが吹き飛ぶような失敗をしている例もあるが、これを見て他の企業はこう思うはずだ。

「やはり日本国内に工場を作ってはいけないのだ。日本人を雇ってはいけないのだ」

なぜ日本企業が日本人を雇いたくないのかというと、日本人の給料があまりにも高すぎるからである。その高い人件費が企業の競争を阻害している。だから、経営者はこう考える。

「日本人をリストラせよ。日本人の賃金を下げよ。日本人を雇うな」

日本企業は生き残りのために日本人をリストラする。多国籍企業、グローバル企業は、「高賃金の人間はいらない」というのは、日本の中でも冷徹な企業論理として動いている。

そのため、日本人の失業率もさらに上がっていく。そして、再雇用されたときには日本人の給料は以前よりも下がっている。

もっと、はっきり言おう。これからの時代は、あなたがどんなに一生懸命に働いても、給料がどんどん下がっていく。あるいは、どんなに働いてもリストラの対象になる。

そういう時代が来るのである。

2012年9月8日にも、その象徴的な記事が報道されている。スーパー業界の雄イトーヨーカ堂が、3年内をメドに「正社員を半減」させて、「パートの比率を9割に引き上げる」というのである。

高賃金の社員はいらないのだ。そして、次に雇うときはほとんどをパートにする。そうすると、「安い給料」で、「いつでも人をリストラできる」体制ができる。

企業は生き残る。しかし、この流れが加速すると、どうなるのか。若者は最初から仕事を与えられず、中堅層の給料は激減する。

企業は生き残っても、あなたが生き残れない時代が来る。これが世界中の先進国で起きている。

2012年9月7日、WHO(世界保健機関)は不気味な指摘をして、世界に対策を呼びかけている。

「自殺者が増えて年間100万人になった。若年層の自殺もまた増えている。自殺は適切な対応で予防することができる。政府が中心となって自殺対策の戦略を策定するべきだ」

こんな時代に世の中に出ていく若者に未来はない。それを敏感に感じる者ほど絶望に落ちていく。

まわりを見回して欲しい。これはあなたにとって他人事だろうか。決してそうではないはずだ。これは私たちの問題であると当時に、あなたの問題でもある。

勝者は「多国籍企業」になる

最近、世界は通貨を刷りまくって先進国がインフレになるという見方よりも、グローバル経済が浸透して世界の富が平準化するまでデフレが続くのではないかという意見が台頭してきている。

「通貨を刷っても刷ってもインフレにならず、世界に先進国と後進国の差がなくなるまでデフレが続く」「インフレは後進国で続くが、先進国はむしろデフレになる」

グローバル経済が続くのだとすれば、それは理屈に合う意見であり、通貨の大量供給がすなわちインフレを呼ぶという教科書的な動きとはまた違う新たな考え方でもある。

日本は第二次大戦終了後から激しいインフレを経験した。そのあと、1950年代から1970年代までは、世界の歴史を通じても比類がないほどの高度成長を迎えた。

この間は、ずっとインフレに次ぐインフレだった。そして、石油ショックを迎えると、それがさらにインフレを加速させた。日本人にはインフレの記憶が刻まれている。

しかし、グローバル社会に突入すると、日本のみならず、先進国のあちこちで労働者の給料が下がりはじめていった。

なぜなのか。それは、企業が徹底的にグローバル化して、賃金の高い国から安い国へと国境を超えて移動するようになったからだ。

そのために、先進国の労働者は捨てられて、結果的に賃金の引き下げを受け入れざるを得なくなったのである。相対的に後進国の労働者の給料が上がるようになった。

これがグローバル経済の生み出した経済の平準化だ。

だから、先進国がいくら通貨供給量を増やしても、インフレにならなくなっているのだという。

デフレ解消のためには、日銀はどんどん通貨を刷って増やせばいいと言うのだが、グローバル経済の中で個別の国だけを見ても、もはや対処できない問題になっている。

グローバル経済での勝者は「多国籍企業」だ。彼らは国から国へ、自分の有利なところに移動して莫大な利益を手にすることができる。企業のオーナーとマネージャーはその恩恵を受ける。

一方で、敗者は誰か。国民と、国家である。彼らは自由に移動できないからである。

労働者を殺すシステム

国家が敗者となるのは、利益を生み出す企業が「住みやすい地」を求めてどんどん逃げて行って、失業した国民と一緒に置いてけぼりにされてしまうからである。

企業が出ていくので歳入が減る。しかし、失業者が増えるために歳出が増える。

これが毎年繰り返されると、国家は累積債務を膨らませるだけ膨らませて、最後には破綻するしかなくなる。

破綻すればどうなるのか。その国の通貨は激安になって、労働者の賃金も激安になるのだ。

皮肉にも、そうなると多国籍企業が戻ってくる。しかし、賃金は昔と同じではない。奴隷的な安さで雇われる。

今、世界で起きているのがその流れだと言われれば、納得できるものもあるかもしれない。

ギリシャで何が起きているのか。イタリアで何が起きているのか。イギリスで何が起きているのか。底辺の賃金低下である。なぜ、そうなってしまったのか。

多国籍企業が、低コスト低賃金を求めてどんどん工場を中国に移設し、国内に残った企業は低賃金でも働く移民を雇うようになったからだ。

中流階級の働く場所が消えた。それで中流階級が没落し、暴動が起きやすい国になっていったのだ。

これは「ウォール街を占拠せよ運動」で荒れ始めたアメリカでも同様だ。多国籍企業が先進国の労働者を捨てて賃金の安い国に移動していったのだ。

だから、中流階級が没落してしまい、アメリカ政府は莫大な累積債務を抱えるようになってしまったのである。

アメリカが金融立国を選択したのは、グローバル経済の流れの中で高賃金のアメリカ人が雇えなくなったから多国籍企業が逃げていった結果である。

グローバル経済は、労働者を殺すシステムだったのである。そして、その結果ゆえに国家も一緒に死ぬ。

普通の労働者の数百倍もの利益

なぜ世界は不平等や格差が拡大したのか。それは企業が多国籍化して、国境を超えてしまったからだ。

それがどんどんエスカレートして、低賃金のところにしか居つかなくなった。

だから、賃金の高い先進国が見捨てられて、先進国の人たちの賃金が下がり、不平等と格差が拡大していっている。

ボーダレスの世界になって利益を得たのは企業だ。だから、先進国の労働者はもう「働いても豊かになれない」のである。グローバル経済が続く限り、もはや豊かになれない。

賃金が上がりだすと、いきなり企業が労働者を捨てて海外に行ってしまうのだから、もう右肩上がりの賃金もなければ、終身雇用もない。

また、安い給料で固定されるので、豊かになれない。日本でも、アメリカでも、ユーロ圏でも、それが起きている。

「ワーキング・プア」の原点がここにある。先進国の国民は安定した職場を失ってしまったのだ。大企業は後進国に移転して利益を自国に持って帰らない。国籍まで捨ててしまっているのである。

その結果、どうなったのか。先進国で失業率が上がり、不況から脱出できなくなってしまったのだ。

インフレが起きず、むしろデフレが続いている。富は多国籍企業が内部留保して、大株主(企業オーナー)と、経営者(マネージャー)が富を分け合う。

それは、労働者の数百倍もの利益であり、それが「選ばれし1%」の人たちになる。

だから、世界は通貨を刷りまくって先進国がインフレになるという見方よりも、グローバル経済が浸透して世界の富が平準化するまでデフレが続くのではないかという意見が出てきているのである。

ただし、国が破綻すれば通貨価値が超絶的に下落するのでハイパー・インフレに襲われる。しかし、破綻しなければ永遠にデフレで苦しめられる。

どちらがいいという問題ではない。突然死するか、苦しみながら死ぬかの違いだけで、どちらも悪いのは間違いない。

日本もまた、この流れに完全に巻き込まれている。その結果、多くの日本企業が賃金の高い日本人を目の敵にしてこのような方針を貫いているのである。

「日本人の賃金を下げよ。リストラせよ。雇うな」

執筆: この記事は鈴木傾城さんのブログ『DARKNESS』からご寄稿いただきました。

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