『千日の瑠璃』75日目——私はごみ袋だ。(丸山健二小説連載)

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私はごみ袋だ。

闇の色をした、その気になりさえすれば死んだ人間でも詰めこめる、ビニール製のごみ袋だ。さながら宇宙のように膨らんだ私たちは、昨夜降りた霜に覆われて、うたかた湖の辺りにうず高く積み上げられている。そして私たちは、中身については互いに触れないよう心掛け、少しでも早く片づけられ、無へと帰されることをひたすら願っている。

ところが、夜が明けて湖面を白鳥の声が滑り始めると、松の梢から烏の一団が舞い降りてくる。野蛮で、貪食家のかれらは、「てめえら何様だと思っていやがる」 だの、「気取るんじゃねえ」だのと怒鳴り散らしながら、鎌のような形をした太い嘴を振り回して私の仲間を次々に突き破り、汚物を路上にぶちまけてゆく。私たちがひた隠しに隠していた、物ではなくなった物を、使用済みの紙おむつや生理用ナプキンや避妊具などを容赦なく日の目に晒し、散らかし放題散らかし、少しでも食べられそうな物を見つけると、ろくに確かめもしないで呑みこむ。

とうとう私もやられてしまい、ずたずたにされ、丘の上の家から出たありとあらゆるごみを吐き出す。なぜか私たちは、そんな必要などまったくないのに、深く恥じる。恥ずかしさのあまり、中身とは何の関係もないのだ、とそう世間に向って叫びたいほどだ。するとそこへ、ごみによく似た、しかし生きている少年が現われ、そっと私に寄り添う。
(12・14・水)

丸山健二×ガジェット通信

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