東京電力の俺様ルール〜会見に出入り禁止を言い渡された木野龍逸さんに聞く

木野龍逸さん

福島第一原発事故発生後東京電力の記者会見に出席し続け、先日岩波書店より「検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか」という書籍を上梓したフリーランスライターの木野龍逸氏が東京電力より「会見への出入り禁止」を言い渡された。原発事故取材の第一線にいたライターを出入り禁止にした東京電力の狙いはなにか。また、なぜそのような判断をするに至ったのか。木野氏本人に話を聞いた。
(ききて:中島麻美)

会見に出入り禁止を言い渡された木野龍逸さんに聞く

東京電力福島第一原子力発電所の事故からもうすぐ1年半が経過する。

事故に関するニュースがあまり報じられなくなってきた昨今、東京電力の取材を続けるひとりの記者に「事件」が起こったのは今年6月27日のことだ。
昨年3月17日から東京電力会見に出席し続けてきたフリーランスライターの木野龍逸さんが、東京電力から正式に「東京電力会見に出入り禁止」を申し渡されたのだ。
木野さんが7月4日に自らのブログで告発をしたことから、その事件は世間に知られることになった。

「出入り禁止の理由として東京電力に説明されたのは、6月27日の株主総会の様子を僕が無断でUstreamで音声配信したことです」

と、木野さんは経緯を説明する。

「株主総会は代々木体育館で行われました。4700人ぐらい参加したんじゃないかな。株主ではない僕は、入場票を人からもらって持っていました。これまでずっと東電会見に出続けてきたので、とにかく東京電力からの公式見解が示されるであろう場所にはなんでも出席して、何が行われているのか見て聞いておきたかったんです。入り口でチェックされたりもしなかったのでなんの問題もなく中に入ったのですが……」

東京電力の株主総会で憤りを感じた

木野さんは「最初はおとなしく座って、静かに様子を見ていました」という。
それなのに、なぜ、東電側にバレる可能性が高い音声中継を始めてしまったのだろうか。
「理由ですか。腹が立ったからですよ。あの株主総会の異様な現場にいて、こんなことを密室で行うなんておかしいだろうと強い憤りを感じました」

憤りを感じた理由のひとつには司会をした勝俣恒久前会長の言動があったという。

「この日の株主総会で勝俣さんは会長を辞任しましたが、株主総会の司会っぷりがひどかった。株主動議で出ていた、NHKやニコニコ動画に総会を中継させないのかということも、採決せずにいきなり却下したり」

動議は、株主総会の中で、どのような運営進行を行うかや、取り扱う議題などを株主側から提案することができる仕組みだ。

「昨年の株主総会もそうなんですけど、株主総会の前には株主提案という形で、重要な議案がたくさん出されています。例えば、脱原発の方針、顧客サービスを第一の使命とすること、原発事故の賠償は自社資産の売却や経営合理化により自力で行うことなどを、会社の定款(会社が守るべき憲法のようなもの)に追加するという提案がありました。同じように、ちゃんとみんなが分かるように電気料金算出方法の情報を開示して透明性を確保するという項目を、定款に入れるというものもありました。こういう内容って、株主だけのために説明するものじゃないとぼくは思うんですよ。日本国民全員に関わる問題だし、それに原発被災者の皆さんにとっては当事者として知りたいと思う人もいると思う」

「俺様ルール」とも言える東京電力の強引な株主総会進行に対して怒りを感じた木野さんは、Ustreamで総会の配信をはじめることにした。

「あとから記事も出るし、株主の中にはTwitterなどで中継する人もいるかもしれないけど、生の声を聞いてもらうのが、あの異様な株主総会の雰囲気をわかってもらうには一番いいと思った」

木野龍逸さん

繰り返されてきた「東京電力による取材者への差別」

リアルタイムの中継をおこなっていたが、東京電力社員にバレてしまう。

「2時間ほどたってからでしょうか。多分Ustream配信を見つけた社員が、僕が中にいるということがわかって探したんだと思います。4700人も参加者がいたので、2時間位かかったんじゃないかな」

株主総会終了後、東京電力社員に呼び出され、その場で今後の記者会見への出入り禁止を申し渡された。

「後から考えると、東京電力だったらこういうこともやるだろうなあ、とも思いましたが、その時は、こんなことで出入り禁止にするのかとちょっと驚きました。とはいえ、取材に対する意図的な情報の制限や、取材者同士の差別なんかは以前からかなり行なっていましたからね」

木野さんは組織に所属しないフリーランスの立場で東京電力の取材を行なってきた。

5月26日に福島第一原発の5回目の取材ツアーが行われ、木野さんも抽選に当たり参加することができたが、フリーランスの参加が認められたのはこの時が初めてだった。

「でも、まだ差別があって、僕らフリーランスの記者にはカメラを持ち込ませないんです。理由を聞いてもよくわからない答えが帰って来ました。また、僕らに用意された視察ポイントは4号機から70メートル離れた場所でしたが、内閣記者会という記者クラブに入っている大手メディアは4人(スチールカメラマン1人、動画の音声1人、動画カメラマン1人、ペン記者1人)が細野原発担当大臣と一緒に、4号機の燃料プールの視察もしました。昨年の3月には、武藤副社長が毎日出ていた定例会見を打ち切る時に、今後は1週間に1回程度、役員会見をする、だから副社長の毎日の定例会見は終わりにするという説明をしていたにもかからず、週に一度の定例会見の約束は一度も実行されませんでした。一事が万事そうなんですよ」

木野龍逸さん

取材者への「ルール」と「ペナルティ」

そんな東電のやり方をつぶさに見てきたなかでの、会見出入り禁止の処置だったが、

「最初は、表沙汰にせず、やりとりを積み重ねて穏便に済ませようと思ったのですが、とりつく島がなかった。東京電力側が会見出入り禁止を解除する様子がないので、ブログに書きました」

木野さんは東京電力に対して、会見の出入り禁止を解くように求め、また現状の処分を続ける理由と根拠について公開質問状を二度提出した。またこれまで2回の直接交渉をしたが、出入り禁止は今も解かれていないままだ。

東京新聞の「こちら特報部」を始め、多くのメディアがこの不当な扱いを記事にしたのだが、木野さん自身が興味深く思ったのは、ブログ読者からの反応だったという。

「ルール違反をして、資格が無いのに株主総会に入場したお前が悪いのだから、会見に出入り禁止になるのは当然だ、という意見がけっこうありましたね」

国は7月31日に、原子力損害賠償支援機構を通じて1兆円もの税金を東京電力に投入、50%超の株式を取得した。事実上の国有化と言える。そのほかにも東電は8月末までに、原子力損害賠償支援機から賠償資金として1兆1700億円の、税金を原資とした交付金を受け取っている。

「これからもっと税金がジャンジャン使われていくでしょう。ぼくは福島第一の事故処理費用で、国の経済が傾くかもしれないと思っています。もちろん事故処理費用は必要ですが、そのお金の中には、数兆円になる東電の救済資金も含まれます。すでに国の介入を受けて破綻を免れている企業が、ローカルルールを持ち出して、経営方針を知りたいと思っている人たちを排除するのは、ヘンだと思うんですけどね」

そもそも、株主総会に関するルール違反をしたならば、株主総会に出席することに関してのペナルティを設けるべきだと記者も思う。例えば、スピード違反をしたら切符を切られて免許の点数をひかれたり免許取り消しになるのが通常なのに、なぜか選挙権を奪われてしまったらどうだろう。不当ではないだろうか。木野さんが東京電力から受けた「ペナルティ」はそういう恣意性のあるものだ。

「ルールがなぜ、なんのために存在するのか、ということを僕は考えたい。ルールは、守ることが目的化してしまってはいけないと思っています」

木野さんは、他の仕事を断って東京電力会見に出続けたため、昨年の収入は激減したが、弁護士でジャーナリストの日隅一雄さん(故人)ととともに『検証 福島原発事故会見  東電・政府は何を隠したのか』(岩波書店)を上梓した。

今のところ今後の会見出席の見通しは立っていないが、

「引き続き東京電力との交渉は続けていくし、これからも東電の事故処理や賠償の行方を見守ってゆくつもりです」。

『検証 福島原発事故会見  東電・政府は何を隠したのか』

『検証 福島原発事故会見  東電・政府は何を隠したのか』
http://www.amazon.co.jp/dp/4000246690/
日隅 一雄 (著), 木野 龍逸 (著)

木野龍逸さん

木野龍逸(きのりゅういち)  フリーランスライター
1966年生まれ。1989年から編集プロダクションに所属、その後豪州の法人向けフリーペーパー、商品雑誌、アウトドア雑誌の編集部などを経て1995年からフリー。国内外で環境・エネルギー、次世代自動車などを取材する。著書に、「ハイブリッド (文春新書)」、「検証 福島原発事故会見 東電・政府は何を隠したのか(岩波書店、日隅一雄氏との共著)」など。
Twitter https://twitter.com/kinoryuichi
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ききて:
中島麻美(なかしまあさみ) 編集者・記者・作家
1977年生まれ埼玉県育ち。出版社の編集者であり記者。2011年4月10日、福島第一原発正門前に立ってから福島県の取材を続けており、自分自身が見てきた福島県について執筆中。写真とあわせて出版予定。ガジェット通信では「レシピ+お話」という形式の連載やインタビュー記事を執筆。2011年、日本ねじ工業協会「ねじエッセイ・小論文コンテスト」で、B部門最優秀賞を受賞。NHK「視点・論点」に「ねじ」というテーマで出演する。http://goo.gl/K8m5Y
著書に「ガムテープでつくるバッグの本」があり「ガムテバッグの人」としてもメディアに登場している。
Twitter https://twitter.com/aknmssm
Facebook http://www.facebook.com/nakashimaasami

インタビュアー:中島麻美

[編集と写真:深水英一郎]

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中島麻実

お米料理が好きな中島麻美です。 チャーハン、まぜごはん、どんぶり、たきこみごはんにお世話になっています。 酒のつまみは唐揚げが好きです。定食はとんかつが好きです。 出版社でOLしています。仕事柄会食が多いです。 2口ガスコンロ、2畳足らずの狭いキッチンからお届けします(・∀・)

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