あなたは本当にオタクですか?/オタクとサブカル、ヤンキーと体育会系
今回はrootportさんのブログ『デマこいてんじゃねえ!』からご寄稿いただきました。
※記事のすべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/248520をごらんください。
あなたは本当にオタクですか?/オタクとサブカル、ヤンキーと体育会系
「リア充」と呼ばれる集団は、よく考えてみると二つのグループに大別できる。
一つは社会的な行動様式を持ち、高所得層に食い込んでいるグループ。いわゆる「体育会系」だ。そしてもう一つは、ヤンキーと呼ばれる社会的アウトローのグループだ。近傍にはギャル・ギャル男・お兄など、やはり低所得~中間層をボリュームゾーンとする人々が存在している。彼らの違いはどこにあるのだろう。
また近年、オタクのライト化が進んでいるという。数十年前、オタクとは好きなモノを追求する日陰者たちのことだった。しかし最近では、流行りのアイテムに次々に飛びつき、コミュニケーションツールとして深夜アニメを消費する「軽いオタク」が登場しているという。一方、オタク同様に内向的な趣味を持つ人々として、「サブカル」と呼ばれる層が存在している。では、サブカルとライトオタクとの違いは何だろう。
体育会系、ヤンキー、オタク、サブカル。
これらの生活スタイルの違いは、各個人の所得や教育水準よりも、それぞれの性格・嗜好のほうが大きく影響しているはずだ。所得水準や教育水準が低いからヤンキーになるのではない、ヤンキーになるような性格をしているから、低所得・低学歴になりがちなのだ。当たり前だが、ヤンキーのなかにも高学歴・高所得の人はいる。体育会系のリア充だからといって、早慶上智卒・大企業社員とは限らない。
今回の記事では社会的な立ち位置をとりあえず無視して、性格的な特性からこれら四つの層を分類してみたい。
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ことの発端は、人気ブロガー・シロクマ先生(id:p_shirokuma)のこんなつぶやきだった。
ヤンキー、オタク、サブカルの三角形それぞれの加齢について考えると、一番ギアチェンジがキツそうなのはなにげにサブカルのような気がする。昔の緊張感漂うサブカルであれ、昨今の記号消費者に堕落した、ヌルオタとの境目がわかりにくくなったサブカルであれ。
@p_shirokuma
まず、「サブカル」とはどんな人たちのことだろう。
これが「オタク」なら分かりやすい、特定のものに対して情熱を注ぐ人たちだ。アニメやマンガ、ゲーム、あるいは鉄道や工場、廃墟、アイドルなど、対象はなんであれ世間の常識を逸脱するほど情熱を傾けている人たち。それがオタクだ。「最前線君」で画像検索していただければ、ステレオタイプなオタク像が分かるだろう。
一方、サブカルの定義は難しい。
学問的な議論が白熱しているため、私のような部外者が迂闊なことをいうと火傷ではすまないっつーか骨まで熱で溶かされてしまいそうだ。
一応、ハイカルチャー(※学問、美術、文学や演劇)に対する大衆文化を指すものとしてサブカルチャーという言葉が生まれてきたらしい。映画やSF文学、オカルト、ストリートファッションやポルノ、アングラ……etc etc etc……。サブカルチャーと呼べるものは枚挙にいとまがない。
この定義ではヤンキーの文化(※ホンダのワゴンに乗っている、pikoのジャージを着ている、倖田來未が大好き)も、サブカルチャーに含まれる。しかし「サブカル」と言われてイメージする人物像にヤンキーは含まれないだろう。「サブカル」には、もっと内向的な趣味人というイメージがある。
ところで、京都の寺町商店街ではヴィレッジバンガードとアニメイトが軒を連ねている。
ここを通りがかった人のうち、ビレバンに入る人を「サブカル」、アニメイトに入る人を「オタク」と分類したい。内向的な趣味を持つ人々のうち、怪しげな輸入雑貨やお香の煙で部屋が満ちている人を「サブカル」とし、フィギュアやポスター、マンガやDVDで部屋が埋め尽くされている人を「オタク」のアーキタイプだとしよう。えらい学者さんがどう分類しているかは分からないけれど、とりあえずこの記事ではそういうことにする。一言でいえば、サブカルとは大槻ケンヂのことである。
前述のシロクマ先生のつぶやきに対して、私は次のようにリプライした。
@twit_shirokuma 先生! そこに体育会系や真面目系クズを足して二次元の散布図にしたくなります!
@rootport
シロクマ先生が「ヤンキー・オタク・サブカル」を挙げたのは、いずれも世間的には(主流ではなく)傍流の生活スタイルであり、また高年齢になると“卒業”する場合が多いことなど、共通点が多いからだ。ようするに社会的な観点から分類しているのだ。シロクマ先生のご専門の精神医学では、「個人が社会にどのように関わっていくか」がとても重要なのだろう。
一方、私は「個々人の性格・嗜好」に興味が湧いた。
人は生まれつきオタクなわけではない。性格・嗜好に合致する生き方を選んでいくうちに、気づけば立派なオタクへと成熟しているのだ。ヤンキーやサブカル、体育会系でも同じだ。
「ヤンキーと体育会系」「オタクとサブカル」はそれぞれ、なんとなしに同じグループに分類できそうだ。リア充度という横軸を引いたときに、軸の対極になるだろう。
ヤンキーと体育会系は、どちらも仲間意識や規範意識を大切にしている。個性よりも“空気”を優先するタイプの人々だといえる。一人で趣味を追求するよりも、仲間と何かをしているほうが楽しい……一言でいえば「社交的」な人たちだ。
それに対して「オタクとサブカル」は、どちらも趣味や個性を優先する。最近では「終コン」という言葉が飛び交い、他人の趣味にケチをつける人が目立つようになった。が、それは自分の好きなものがあるからこそだ。社交的な人は他人の趣味には無関心だ。しばしば体育会系の人は「アニメなんて卒業したら?」という言葉を漏らす。これは彼らが社会的規範・常識を重んじているからであって、アニメの内容そのものを批判しているわけではない。一方、オタク同士がケンカを始めると宗教戦争に発展してしまう。個性を重んじるがゆえに、それを否定してくる相手は絶対に許せないのだ。絶対にだ。一言でいえば「内向的」な人たち:それが「オタクとサブカル」だ。
では、オタクとサブカルの違いはどこにあるのだろう。
以前の私は、それを「セックスをするかどうか」だと思っていた。しかし、オタク同士の恋愛についてネットには膨大な具体例が転がっている。大槻ケンヂのエッセイなどを読むと、サブカルな人たちは並々ならぬ童貞力をお持ちのようだ。二次元の嫁に逃避できないぶん、サブカルな人のほうが悲惨ですらある。「セックスをするか否か」は、サブカルとオタクとの判別基準になりえない。
精神科医・斎藤環先生は「オタクかどうかの基準は二次元で抜けるかどうかだ」と書いていらっしゃった。
この基準にしたがえば、同じ内向的な人々でも、画面の向こうに嫁がいるのがオタク、そうでないのがサブカルだと定義できそうだ。オタクのほうが空想的・理想主義的で、サブカルのほうが実利的・現実主義的だといえる。オタクは8,000円のエロゲーを嬉々として購入するが、サブカルな男は(たぶん)そのカネでピンサロに行く。じつに実利的だ。
続いてリア充な人々に目を向けてみよう。
体育会系とヤンキーは、どのような部分が違うのだろう。
Elastic
http://taf5686.269g.net/
ときどき読んでいるファッション系のブログに、Elasticさんというブログがある。こちらの記事を読んでみると、どうやら小悪魔ageha等のギャル系ファッションには、少女マンガやディズニーのお姫様の価値観が背後にあるようだ。またメンズナックルのピンナップが「中二病すぎる」として、しばしば話題になる。「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」というあれだ。中二病……つまりゲームやマンガの価値観に強く影響されているのだ。ヤンキー系の文化とオタク文化は、じつは親和的なのかもしれない。
※ヤンキー・お兄・ギャル男は似て非なるものだよ、というツッコミは至極当然だと思います。それらの境界線がよく分からないので、ここでは「似ている集団」としてまとめてしまいました。どなたか詳しい人教えてください。
以上のことから、同じ社交的な人々でも、マンガやゲーム、ディズニーなどのセンスを愛好しているのがヤンキー、それらから距離を取っているのが体育会系と定義できるのではないだろうか。ヤンキーのほうが空想的・理想主義的で、体育会系のほうが実利的・現実主義的だといえる。
理想主義的だからこそ、ヤンキーは現実の汚い大人たちが許せない。社会的な規範よりも、自分たちのルールを優先する。一方、体育会系は現実主義で、清濁あわせ飲むことができる。だからこそ、飲み会でピッチャー一気を強要されても「ありがとうございます!」と答える。先輩や上司から気に入ってもらえば、出世できるからだ。じつに実利的ではないか。
つまり「社交的か内向的か」を横軸に、「現実主義か理想主義か」を縦軸におくと、四つの陣営をうまくマッピングできそうだ。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/20120829194250.jpg
◆社交的で現実主義な人◆
あなたは体育会系です。人とのコミュニケーション能力に長け、なおかつ現実を見据えた行動を取ることができるので、社会的に成功する可能性が高いです。反面、その暑苦しさから他の陣営からはウザがられているかも知れません。他人の個性を尊重するよう心がけましょう。
◆内向的で理想主義の人◆
あなたはオタクです。時代はいま、あなたに味方しています。全力で二次元の嫁を愛でてください。あなたが落としたカネで日本のコンテンツ産業は食いつなぎ、世界に羽ばたこうとしています。いつの時代も、世界を変えたのは夢想家たちでした。
しかし、このマップは固定的なものではない。むしろ現在進行形で変化し続けている。
まず挙げられるのはオタク勢力の拡大だろう。ニコニコ動画やケータイコミックの普及などが追い風となり、「オタク」と呼ばれる層は急拡大している。海外から注目されているのもこの層だ。日本に留学に来た学生たちは、ほぼ例外なく『ナルト』や『ワンピース』、ジブリ作品などから日本を知る。間違っても阪神タイガースや浦和レッズではない。
反面、体育会系の人々は急激に減っているように感じる。
終身雇用、年功序列……いわゆる“日本的”な人生プランが成り立つ状況では、体育会系の生き方が唯一にして最高の選択だった。しかし時代は変わった。日本らしい地道なモノづくりでは到底、鴻海工業に太刀打ちできず、iPhoneは技術的には日本企業にも作れるはずの製品だった。高い技術力よりも、型破りなセンスのほうが問われる時代になったのだ。社会的規範や常識を重んじる体育会系は、もはや居場所を失いつつある。
たとえば飲料業界ではサントリーは異端視されているという。
昔ながらの義理や不文律を重んじる酒類業界にあって、サントリーは古い因習を無視したエゲツナイ営業戦略を立てるからだ。しかし、スイカ味ペプシのようなバカバカしくも心躍る製品を作っているのは、ビール4社ではやはりサントリーなのである。一方、「ザ・日本企業」とでも呼ぶべきサッポロビールでは酒類部門の業績が不安定で、恵比寿ガーデンプレイスなどの不動産事業が利益を支えている。もはやサッポロビルだと揶揄されるほどだ。
既存のルールに縛られる人の肩身が狭い時代になった。
体育会系が目立たなくなるわけだ。
またヤンキーも大きく二つに分けて考えるべきだろう。
かつて、ヤンキーとは不良のことで、不良とはヤンキーのことだった。しかし犯罪行為も辞さない「ガチなワル」に対して、アウトローの価値観だけをファッションとして受け継いだ「伊達ワル」が急速に増えている。エグザイルは不良っぽいが、ほんとうに不良なわけではない。メンズナックルに見られるお兄系の人々は伊達ワルの極北である。
サブカルは一時期こそ巨大勢力として君臨していたものの、最近ではすっかり影が薄くなった。
原因は明白で、サブカルのなかでもとくに趣味的な人たちはライトオタクとしてオタク層に吸収され、そういった趣味を持たない醒めた人々は「真面目系クズ」を自称するようになったからだ。
オタクほど空想的ではなく、アニメやマンガをコミュニケーションツールとして扱う程度には実利的な人たち:それがライトオタクだ。また体育会系ほどの社交性を持たないものの、趣味に没頭できないほど現実主義な人たち:それが真面目系クズだと言える。
真面目系クズにしか分からないこと
http://himasoku.com/archives/51662815.html
以上をまとめると、次の図のようになる。
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このグラフは、さまざまな分析に使えそうだ。
たとえばWEBサービスのユーザー層を考えてみよう。
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リア充の巣窟であるFacebookは、間違いなく体育会系の人々から愛されている。したがって図の右上に配置できる。一方、mixiはヤンキーやギャルの利用者が多いらしい。社会の常識よりも、自分たち規範のを大事にするのがヤンキーだ。したがって目新しいFacebookに飛びつくという“実利”には走らず、以前からのネットワークに居残ったのだと考えられる。
またヤンキー層の人々は現実の利益よりも、自分たち独自の喜びを重視する。そのためパチンコやソーシャルゲームのような実利的ではない娯楽に対しても、自分が楽しければきちんと対価を払う。体育会系の人が、自己啓発本を読んだり、教養のために美術館に行ったり、あるいは健康のためにフットサルをしたり……実利的な娯楽を好むのとは対照的だ。グリーやモバゲーのユーザーはこのヤンキー層に多いと思われる。
Yahoo! 知恵袋や発言小町は、わりと実利的なサービスだといえる。疑問の答えを探すという実用的な目的が設定されているからだ。実態はどうあれ、暇つぶしや娯楽はこれら質問サービスの主眼ではない。また発言小町の参加者の多くは鬼女……もとい、既婚女性だ。やつらは結婚している時点でリア充だ。爆発しろ。 したがってYahoo! 知恵袋や発言小町は、どちらかといえば体育会系寄りのサービスだといえるだろう。ただし、直接質問できる相手がいないという点で、彼(彼女)たちはガチの体育会系から少し外れた場所にいる。
Pixivは説明不要、オタクど真ん中だ。
また興味深いのはニコニコ動画で、ユーザーのすそ野はとてつもなく広い。
とくに投稿者と視聴者との溝は深い。一本の動画を仕上げるのはラクではない。構成を考えて、編集し、長いエンコード時間にも負けない根気が必要だ。一つのことを追求できるオタク気質の人でなければ、動画の投稿者にはなれない。反面、視聴者はテレビを見るぐらいの感覚で利用している。したがってニコニコ動画はオタク寄りのユーザーが投稿者となって、サブカル寄りあるいはヤンキー寄りの視聴者に向けて配信するという構図になっているはずだ。
LINEとSkypeは、よく似た通信サービスとしてしばしば比較される。
このグラフにあてはめれば、ユーザー層はおおむね下記のような分布になりそうだ。
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Skypeは、実利を求めて登場直後から飛びついた体育会系の一部と、あるいはオタクのなかでも特に通信インフラとして早い段階から使っていた一部の人とがユーザーになっている。これらの人々は、必要にかられれば新しいシステムの使い方をゼロから勉強できる層なのだ。
一方のLINEは、わずらわしいアカウント登録の手間などを一切はぶいている。ヤンキー層やサブカル層のなかでも、とくに難しいモノが苦手な人々から圧倒的な支持を受けて、爆発的にユーザー数を伸ばしているようだ。
ほかにも様々なジャンルにこのグラフを適用したいところだが、今回の記事はいつも以上に長くなってしまった。
最後にファッション誌のジャンル別の分類を載せたところで、筆を置きたい。
(画像が見られない方は下記URLからご覧ください)
http://px1img.getnews.jp/img/archives/20120829194249.jpg
※参考
シロクマの屑籠
http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/
色で見る初音ミク 初音ミクのカラーパレットを作ってみた
http://smallwebmemo.blog113.fc2.com/blog-entry-139.html
執筆: この記事はrootportさんのブログ『デマこいてんじゃねえ!』からご寄稿いただきました。
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