『PCエンジン mini』レビュー:懐かしさとともに自分の半生と向かい合う時間をくれるハード

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CD-ROMが魅せた! 映像演出の魅力

『PCエンジン』にはシューティングの良作が多い。それは間違いない。ただその一方で、家庭用機向けのジャンルで一般的に普及していったゲームジャンルは、RPGだ。そしてRPGにおいて『PCエンジン』が発揮できた強みが『CD-ROM2』。当時の日本のRPGは「物語を映画的に魅せる」という方向へ進化をはじめていた。その手法は、キャラクターの顔画像を表示したり、キャラクターを自動的に動かして演技させたり、アニメムービーを流したり……といったもの。こうした演出に適していたのが『CD-ROM2』だ。ちなみに『PCエンジン mini』で『CD-ROM2』のタイトルを起動すると、『CD-ROM2』挿入画面と起動画面が表示され、CD-ROMを読み込む音が聴こえてくる。この演出で、思い切り当時の自分を思い出してしまった。

『CD-ROM2』のタイトルで思い入れが強いのは、『イースI・II』や『天外魔境II 卍MARU』……と言いたいところだが、筆者的には『悪魔城ドラキュラX 血の輪廻』を推したい。本作は『悪魔城ドラキュラ』シリーズの一作で、横スクロールアクション。当然RPGではない。RPGではないのだが、『CD-ROM2』のタイトルの特徴であるムービーや、キャラクターの演技といったゲーム演出を効果的に取り入れており、作品への没入感はRPGと比べてなんら遜色ない。余談だが、本作の直接的な続編である『悪魔城ドラキュラX 月下の夜想曲』がスマホ向けにリリースされているので、併せてプレイするとより楽しめるだろう。

『CD-ROM2』のメリットをBGM方面に活かしたという意味で思い入れが強いのは『超兄貴』。ゲームシステム的にはスタンダードな横スクロールシューティングで世界観が独特だ。プロテイン採掘プラントを乱立させ侵攻を繰り返す「ボ帝ビル」を倒すという設定。自機にオプションとして従う2人のマッチョマン・アドンとサムソンなど、筋肉美を世界観としているのだ。この世界観をパーフェクトなまでに引き立て、魅力的なものにしているのがBGM。本作のサウンドトラックはゲーム史に残るものだと思う。本作のBGMを聴くために『PCエンジン mini』を買ったとしても惜しくない! 筆者にとってはそれぐらいのタイトルなのだ。

最後に最も思い入れの強いタイトルが『SNATCHER』。本作は、筆者がゲーム業界を目指すきっかけになったタイトルだ。『メタルギアソリッド』シリーズや『デス・ストランディング』の小島秀夫監督作品。人を殺し、殺した人間とすり替わる(=スナッチ)謎のアンドロイドを追うアドベンチャーゲーム。監督作品の特徴であるSF要素や映画的な映像演出は本作の時点からすでに存在している。『CD-ROM2』の大容量が使えるとはいえ、ドット絵による映像演出の数々は、今プレイすると逆に新鮮な印象を受けるだろう。本作は『PC8801』向けに発売されたオリジナル版がストーリー途中までの未完結状態だった。その後、『SDスナッチャー』という完結まで描いた作品がリリースされたものの、こちらは小島監督企画ではない上、ジャンルがRPG。そうした経緯を経て、「完結まで描いた小島監督企画のアドベンチャーゲーム」としてリリースされた初作品がこの『PCエンジン』版。筆者は当時、オリジナル版『スナッチャー』からのファンだったため、それはそれは思い入れが強いのだ。

半生を振り返り「自分」を再認識できるハード

正直なところ、『PCエンジン mini』のみならず、ミニ・レトロハードというのは、それぞれのタイトルを数分プレイして終わり……という人がほとんどだと思う。どんなに名作タイトルとはいえ、レトロゲームを今プレイすると、ストレートに面白いとは思えない。がんばってはいてもビジュアルにはショボさを感じるし、操作性が悪いと感じる部分もある。だからこそ、ぜひとも当時のことを思い出しながらプレイして欲しい。「当時自分がどうしてこのゲームを買ったんだっけ?」あるいは「あきらめたんだっけ?」と。それは、ただ昔を懐かしむだけの行為じゃない。自分の半生を振り返って自分の好みを確認し「そういや自分ってこんな人間だったよな」と、「自分」を再認識する行為に繋がる。改めて自分と向かい合う時間は、きっと今のあなたのプラスになってくれるはずだ。

文/田中一広

PCエンジン mini – Konami 公式サイト:
https://www.konami.com/games/pcemini/gate [リンク]

(執筆者: ガジェット通信ゲーム班)

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