給食費未納問題は幻
今回はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
給食費未納問題は幻
他の人が話題にしてたので、前から思っていること。ある時期から急に給食費未納問題が社会的にクローズアップされるようになった。何百万円未納だという報道やモラル低下と結びつける報道もある。
だがちょっと待ってほしい。給食費未納の調査が初めて行われたのは2007年に発表された2005年度の調査結果だという。昔から統計調査が行われてきて最近増え出したわけではないのだ。そして未納率の全国平均はわずか0.5%だという(沖縄はなぜか突出して高いらしいが)。
一方で給食費の未納率が高いため学校給食のサービス全体が危機に瀕しており、食材費を削ったりしているという報道もあった。0.5%でそこまで影響があるのだろうか?百歩譲って影響があるなら、サービスの維持を第一に考えて0.5%値上げすればすむことではなかろうか。
思うに昔から1クラスに一人や二人給食費を払わない人はいたと思う。0.5%なら200人に1人だから1学年に一人程度で、むしろ少ない方ではなかろうか。
本当に給食サービスの維持が脅かされているとしたら、子供の数の減少とか、材料費や人件費の値上がりなど他の理由ではなかろうか。あるいは社保庁や国交省などのようにまたぞろ無駄遣いに蝕まれている可能性を疑うべきではないだろうか。
22億円の滞納とか9万人の滞納者とか報道されているけれど、絶対数ばかり強調され、全体に占める割合の低さは無視されてしまっているように思う。また、未納者が(一人でも?)いた学校が何パーセントあるかとか、「最近未納者が増えたと思うか」というアンケートとか(印象を問うアンケートではなく実際のデータを調べればいいと思うのだが)、統計として意味があるとは思い難いものもある。どうも「多さ」を強調するため四苦八苦しているように感じてしまう。
最近の社会の風潮として、やたら厳正さを要求することが多くなってきているように思う。厳正さを必要以上に追い求めると社会は萎縮し逆におかしくなってしまう。規律を窮屈に感じていた学生の頃を思い出してほしい。厳正さを保つために必要以上のコストを社会全体が払わなければならない社会が、未来に向けて発展する社会になりえるのか考えてほしいと思う。
確かに、自分は給食費を払っているのにアノ人は払っていない。しかも家が貧乏ならともかく自分よりいい暮らしをしている、となれば心穏やかではいられないだろう。ましてや、未納者のせいで自分の子供が本来食べられるはずの食材が削られているとなれば、怒りがこみ上げてくるのが人として自然な反応だろう。
しかしそういう人間の心理が煽られ悪用されているように感じる事が最近多い。日本の社会がイマイチ元気がない。上手くいっていない。そういうフラストレーションは誰でも感じている事だ。しかしそれを妙な方向にガス抜きされているように思う。
会社でもなんでも組織というものは全体的に上手くいっている時はいろんな面でおおらかだが、上手くいかなくなると途端にどうでもいいような細々とした事まであれこれ気になるようになるものだ。しかしそうした事を是正しても良い結果に結びつかないことが多い。
人間はしばしば身近な人間により強く怒りを感じる。国家や政治家、官僚などへ向かうべき批判の怒りを、自分と同じ子供をもつ親、すなわち庶民同士の怒りへ逸らされていると思うのは穿ちすぎだろうか。
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似たような問題に本屋の万引きがある。万引きのために本屋が潰れそうだという話をよく聞くが、万引きも昔の方が多かったのではないかと思う。町の小規模な本屋は経営が苦しいのは事実だろう。身近なところでも店じまいしてしまった本屋が少なくない。
しかしそれは本屋を取り巻く様々な社会的要因の変化のためであって、万引きを減らしたからといって全体的な状況が好転するとは思えない。「1冊万引きされると3冊余計に売らないと元が取れない」とかの話を聞くと、本屋への同情と万引き犯に怒りが沸いてくる。しかしそういう「感覚」に従って万引き撲滅に突き進んでも、単に一時の満足感を得るだけの結果に終わってしまうのではなかろうか。
社会全体が短絡的になっている気がする。そして短絡的思考を諫めるべきテレビの評論家がむしろ短絡的・感情的な方向に世論を先導しているように思う。確かに国民の感情と一致したコメントをいえば国民のウケはいいだろう。しかしそこにはプロとしてのプライドや良識が感じられない。
そもそも最近のテレビは素人っぽいコメンテータばかりに見える。昔はテレビに出てくる専門家の話を聞くと「ああ、なるほど問題は単純じゃないんだな。素人の感覚で突き進んでも上手くいかないんだな」と思うことが多かったが、最近は「そうか、俺の感覚は正しいんだ。なんでこんな素人にも分かる単純なことを政府は対策しないのだろう」と思ってしまう事が多い。危険だと思う。
執筆: この記事はメカAGさんのブログからご寄稿いただきました。
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