マスクの「転売ヤー」が1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金対象に「国民生活安定緊急措置法」とは
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新型コロナウイルスの感染拡大で、全国で品薄状態が続くマスク。転売目的でマスクを買い占め、インターネット上で高額で販売する「転売ヤー」の行為が社会問題となっています。「医療機関などでのマスク不足を引き起こす要因となったのでは」という指摘もあり、批判が高まる事態に。
3月に入り、経済産業省が、ネットオークションサイト「ヤフオク!」など、運営会社に対して出品の自粛を要請。これを受け、「ヤフオク!」では、3月14日からオークション形式でのマスクの出品を禁止にしました。さらに、政府は、マスクのインターネットなどでの転売を禁止するため、国民生活安定緊急措置法の政令改正を閣議決定。違反した場合には罰則が科され、15日から施行されます。国民生活安定緊急措置法とは?マスクだけでなく、高額転売は違法なのでしょうか?弁護士の半田望さんに聞きました。
国民生活安定緊急措置法をマスクの高額転売に適用できるかは疑問が残る。高額転売の商品を買わないなど、消費者の情報リテラシーを高めることも大切
Q:マスク品薄に対する措置の一つとして、経済産業省がオークションサイトなどの運営会社に出品自粛を要請しています。各事業者の対応は?
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経済産業省の要請を受け、各運営会社がマスクの出品への対応を自社サイト上で発表しています。
「ヤフオク!」では、3月14日からオークション形式の出品は削除、フリマ(定額)形式での出品については、不当に高額であったり、大量にまとめて出品していたりする場合は削除すると公表。フリマアプリ「メルカリ」では、取引状況によっては、入手経路の確認や商品の削除・利用制限を行うとしています。
各社の対応はいずれも運営上の規約に基づくものと思われますが、事前に問題のある転売のみを除外することはシステム上難しいと考えられますので、具体的な対応は出品されたものをパトロールし、問題があれば削除等を行うといった措置にとどまるものと思われます。
Q:政府がマスクの高額転売を取り締まる法的根拠とする国民生活安定緊急措置法とは、どのような法律ですか?
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第1次オイルショック時による物価の上昇とトイレットペーパーの買い占め騒動を受け、1973年(昭和48年)に制定されました。
1条に記されているように、「物価の高騰、日本経済の異常な事態などに対処するため、国民生活との関連性が高い物資及び国民経済上重要な物資の価格及び需給の調整等に関する緊急措置を定め、国民生活の安定と国民経済の円滑な運営の確保」を目的としています(一部抜粋)。
第1次オイルショックの際には、同法による品目の指定と規制がなされましたが、規制が実施されたのは4つの都市のみで、いずれも2年以内にすべて解除されています。
22条に基づく、国から事業者への売り渡し指示についても、3月3日、国がメーカーからマスクを買い取り、北海道の市町村に供給したことが、制定以来、初めての適用事例となります。
今回、マスクの転売を取り締まる根拠として、政府は、26条の「生活関連物資が著しく不足し、国民生活に支障が出る恐れがある場合、政令で物資の譲渡禁止などの措置を定められる」を挙げていますが、法律家の間でも、適用の是非について解釈が分かれていると思われます。
そもそも、国民生活安定緊急措置法は、ひどいインフレ等で物価が急激に跳ね上がる場合や軽罪の異常事態に対応するための法律で、転売を想定して立法されていません。
マスクやトイレットペーパーの品薄状態は続いていますが、国内メーカーは生産に対応し、小売価格が高騰したという事情は生じていません。このような場合に、転売価格が高騰したからといって「異常事態」が生じたと言えるかには疑問が残ります。
また、米やトイレットペーパーといった生活に直結する「生活関連物資」に、マスクまでが含まれるかどうかも疑問があり、今回のケースにこの条文を適用するのが妥当かどうか慎重に議論されるべきです。
Q:3月15日から施行される国民生活安定緊急措置法の政令改正では、個人などが小売店やネット通販などで購入したマスクを、取得価格を超えて、第三者に販売すると違反となります。罰則はどの程度になりますか?
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仮に国民生活安定緊急措置法を適用できるとする場合は、同法37条が同法26条違反の罰則として5年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または両方を科することができる政令を制定できる旨を規定しています。
政府は、「国民生活安定緊急措置法26条1項の規定に基づく政令を改正して転売の取り締まりを行うこと」、また違反した場合の罰則について、政令には「1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、または両方を科する」と公表しています。今後は、この政令に基づき、取り締まりや処罰が行われる可能性があります。
ただ、前述のとおり、マスクの転売を国民生活安定緊急措置法で規制できるかどうかについては疑問が残ります。仮に規制できないとなった場合、取り締まりや処罰が違法になる可能性もあり、後々大きな問題となりえますので、特に罰則の適用には慎重な運用が求められます。
Q:そもそも、転売は違法なのですか。高額転売を取り締まる法律にはどのようなものがありますか?
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転売そのものは違法ではありません。ただ、オークションサイトやフリマアプリで、一般の人も気軽に転売を行うことができるようになり、高額転売など違法な転売で逮捕される例も増えています。
高額転売を取り締まる法律としては、下記があります。
■都道府県の迷惑防止条例
乗車券やチケットを転売目的で購入、または不当な価格で販売すること(ダフヤ行為)を禁止(自治体により異なる)。
■チケット不正転売禁止法
東京オリンピック実施に併せて2019年6月に施行。チケットの転売を禁止し、違反した場合には1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が科されます。
■物価統制令
戦後のヤミ米など闇物資を禁止するため、勅令により1946年に制定。現在でも銭湯の入浴料に適用されています。
迷惑防止条例やチケット不正転売禁止法では、対象物が限定されており、物価統制令は、戦後の古い法令のため、今回、国民生活安定緊急措置法に目を向けたのかもしれません。
Q.今回の問題をきっかけに、チケット不正転売禁止法などのように、新たな法律で、生活必需品の買い占めや高額転売を取り締まる必要が出てくるのでしょうか?
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戦後の混乱期のようなハイパーインフレの際に物価高騰を防止するため、法律で取り締まる必要があることは否定できませんが、本来、自由であるべき経済活動に対して過剰に政府が介入するべきではないと考えます。取り締まるほどに、悪質な転売はもっと目につかない形で行われるようになり、悪循環をたどる可能性もあります。
また、転売等を規制するのではなく、例えば、政府や地方自治体が平時からマスクを備蓄し、有事には国民に供給できるようにしたり、既往症がある等で本当にマスクを必要とする人に行き渡るようにしたりするなど、法律で転売を取り締まる以外にも混乱を防止するためにできる対策はあると思います。
また、政府が常に正確な情報を提供することも重要です。
マスクに限らず、トイレットペーパーの一時的な品薄も転売目的だけが原因ではなく、ネットにのせられ不安になり、多くの人が一気に同じものをまとめ買いすることで起きていると思われます。
非常時こそ、消費者一人一人がデマに踊らされず、冷静に対応することも大切です。高額に転売しようとしても、購入する人がいなければ、騒動が沈静化した後に不良在庫を抱えるだけとなるため、高額転売の商品を買わないことが今後の抑止にもつながります。
これを機会に、情報リテラシーを高めるなど自身の行動を見直すことも必要ではないでしょうか。
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