自分史記憶の天才

自分史記憶の天才

この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

自分史記憶の天才

およそ10歳以降に自分が経験したすべてのできごとを詳細に思い出すことができる。そんな自分史記憶の天才がはじめて紹介されたのは、2006年のことでした。AJと呼ばれ、アメリカのCBSチャンネル「60ミニッツ」で特集も組まれたその女性を最初に発見したカリフォルニア大学アーバイン校の神経生物学者James McGaugh氏は、今回、Neurobiology of Learning and Memory誌7月号にて、そのような特殊能力をもつ天才たちの脳が、一般人の脳とどう違うのかを報告しています*1。

*1:「Behavioral and neuroanatomical investigation of Highly Superior Autobiographical Memory (HSAM)」2012年7月1日『ScienceDirect』
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1074742712000706

500名の、自称自分史記憶の天才たちの中で、現在までに実際にその能力を確認できたのが33名。そのうち11名が論文の中で被験者として選ばれました。MRIによって調べられた彼らの脳の構造は、9つの点で一般人の脳との違いが認められました。中でも最も大きな違いがあったのが、予想通り自分史記憶に関連する脳の領域でした。

彼らの記憶の特徴は、およそ10歳以降に自分が経験したすべてのできごとを、99%の正確さで思い出せる一方で、通常の一般的な記憶力テストでの成績は、人並みだったという点です。これは、一口に記憶といってもその内容によって脳の分担が異なっていて、今回自分史記憶という特殊な記憶を、その他の記憶と切り離して研究できる症例が見つかったという点で意義のある研究になるだろうとMcGaugh氏はコメントしています*2。

*2:「Brains are different in people with highly superior autobiographical memory」2012年7月30日『University of California, Irvine』
http://today.uci.edu/news/2012/07/nr_supermemory_120730.php

さらに、これら自分史記憶の天才たちの中には、強迫性障害*3の傾向を示す者の割合が、統計的に有意に高いこともわかりました。また、何らかの収集癖が認められる例も多くあったようです。これらの、傾向が自分史の天才的な記憶とどう関わってくるのかは不明のようですが、このような疾患が生まれる分子メカニズムは何なのか。その解明が待たれます。

*3:「強迫性障害」『Wikipedia』
http://ja.wikipedia.org/wiki/強迫性障害

執筆: この記事は神無久さんのブログ『サイエンスあれこれ』からご寄稿いただきました。

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