なぜ面接官は「あなたはどんな人ですか?」と聞かなくても判断できるのかーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

なぜ面接官は「あなたはどんな人ですか?」と聞かなくても判断できるのかーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものもあります。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「友達10人から、あなたの転職後の年収が予想できます」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア41より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

面接官は、どうやって相手を見抜くのか?

採用面接の際、応募者は自己PR用の答えを用意してきているため、なかなか本音を話すことはありません。「だから面接官は、応募者に『あなたはどんな人ですか?』とは聞かない」のだ、と井野は言います。代わりに「あなたは友達からどう思われていますか?」と聞くことによって、相手は想定外の質問に取り繕うことができずに、その人の本質が垣間見える、と言うのでした。これは、具体的にはどういう方法なのでしょう。また、何がわかるのでしょうか。

「友達10人の法則」とは?

井野が次に担当することになった転職希望者は、東大経済学部卒で一流商社に勤める桂木悠也(かつらぎゆうや)・32歳。井野は「年収の高い人を転職させれば売上もその分、多くなる」というので張り切ります。ところが、桂木は頭が切れるせいか、転職代理人である井野を小馬鹿にしたような態度を時々見せます。

馬鹿にされていると思った井野は、上司・海老沢から教わった質問を試すことにしました。その質問とは「最近、一緒に食事をした友達10人を教えてください」というもの。井野は「“友達10人の法則”というのがあって、友達10人の平均年収が、あなたの年収とほぼ一致する」のだ、と説明します。それを聞いた桂木が、試しに計算してみると、平均890万円。確かに、桂木の現在の年収900万円とほぼ一致しました。

どうして付き合う人同士の年収がほぼ同じになるのか?

物語の中で、井野は桂木に「友達を観察すると、年収予想だけでなく、自己分析もできてしまう」、とも話しています。桂木が挙げた「最近、食事をした友達10人」というのは、ほとんどが同級生の人たちです。一緒に食事をした、ということは、それなりに仲が良いことを表しています。

桂木が付き合っている人たちは、年齢構成がほぼ一緒ですから、話すことといえば、おそらく過去の思い出ばかりになるでしょう。そうした話題は、楽しいものかもしれませんが、「これからくる未来の役に立つことなのか?」と言えば、少々疑問なのではないでしょうか。同じような属性の人が集まれば、当然ながら、収入も同じくらいになるはずです。これが、「親しくしている人の平均年収が自分と同じになる」理由です。

ところが、そうした慣れ親しんだ世界に安住するのではなく、もっと自分の知らない世界に果敢に飛び込んでいって、自分よりもレベルの高い人たちと付き合うように心掛けている人もいます。

そういう人は、レベルの高い人に触発されて、自分も努力を重ねます。レベルが高い人は収入も高い傾向がありますから、行動をともにすることによって、自分も収入も引っ張り上げられる可能性が自然と高まるというわけです。

複数が対戦する勝負事でゲームを続けると、必ずと言っていいほど弱者の実力の方が伸びていきます。「胸を借りる」という言葉もあるように、弱者は自分の実力以上のものを出さないと話にならないため、それが成長に直結するのです。

©三田紀房/コルク

直接、話したことのない部下を査定する方法

レベルが高い人たちと一緒にいれば、自分とのレベルの差に、おそらく冷や汗をかく思いをすることもあるでしょう。けれど、そうやって自分を奮い立たせる機会を得ることは、実はとても大事なことなのです。

話は変わりますが、私が有する1社については、社長業も後進に引き継いでいるため、今は完全にビジネスオーナーという立場です。しかし、それ以前にマネジメントをしていた時代には、部下の査定も行っていました。そうは言っても、実際は満足に話をしたことのない部下もいました。「話しすらしたことのない部下を、どうやって人事査定するのか?」というと、「本人の周りにいる人から話を聞いて、その人の仕事ぶりを判断する」という方法によってでした。

本人が思っている以上に、周りはよく見ているし、その判断は正確なものです。確かに、中には仕事ができても、同僚との仲が悪かったり、人付き合いの苦手な人もいます。しかし、たとえそうであっても、本人と関わりのある数人から話を聞き、みんなが同じようなことを言っているのであれば、その情報は信用できます。さらに、本人の提出してきた仕事の結果を見れば、ほぼ間違いのない査定が可能になります。

自分の成長に合わせて、人脈も入れ替わっていく

今回の話のポイントは、「その人の周りにいる人を見れば、その人がどういう人なのかがわかる」、ということです。もともと、人脈とは自身の成長とともに入れ替わっていくものです。

もちろん、旧友との関係を断つ必要はありませんが、仮に「何年経っても同じ人としか付き合っていない」という人がいるのであれば、ご自身のキャリアプランが思うように進んでいるかどうかを、見直してみたほうがいいかもしれません。

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第43回

俣野成敏(またの・なるとし)

ビジネス書著者/投資家/ビジネスオーナー

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳で東証一部上場グループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらには40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任する。

2012年の独立後は、フランチャイズ2業態6店舗のビジネスオーナーや投資家として活動。投資にはマネーリテラシーの向上が不可欠と感じ、現在はその啓蒙活動にも尽力している。自著『プロフェッショナルサラリーマン』が12万部、共著『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』のシリーズが13万部を超えるベストセラーとなる。近著では、『トップ1%の人だけが知っている』(日本経済新聞出版社)のシリーズが11万部に。著作累計は46万部。ビジネス誌の掲載実績多数。『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも数多く寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』を4年連続で受賞している。

俣野成敏 公式サイト

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