楽天kobo「大炎上」は、編集者として実に残念 ――誰かひとりでも「このまま発売しちゃ駄目だ」って……
この記事はtokyo_editorさんのブログ『編集者の日々の泡』からご寄稿いただきました。
楽天kobo「大炎上」は、編集者として実に残念 ――誰かひとりでも「このまま発売しちゃ駄目だ」って……
ところで楽天が発売する電子書籍端末koboの歴史に残る「不具合」スタート、編集者であり多少は電子書籍に関わったという立場上、少しはコメントしておく。
koboの失敗を語るときどうしても書かざるを得ないのは、「電子書籍云々」とはまったく別の側面だ。実際、kobo大炎上は、いくつかの失敗が複合的に重なって起きている。大きな部分は以下のようなものだ。
1 ローカライズ失敗による、「設定すらできない謎端末」問題
2 事前の宣伝「日本語書籍3万点」>蓋を開けたら「2万点で、半数以上が青空文庫」といった類の「誇大広告」問題
3 こうした問題を指摘した大量の楽天市場「koboユーザーレビュー」を全て削除するという「驚きの荒技」問題
まず「1 ローカライズ失敗」問題。
kobo touch自体、ハードウェアとしてのデキはそう悪くはないというのが一般的な評価だろう。しかし初期セットアップができないとか日本語のIDだと認証できない、果てはPC接続用ソフトがインストールできないというのは、「いくらなんでも事前の検証が甘かった」と言われても反論はできない。
推察するに、「アマゾンが出て来る前に発売して迅速にシェアを押さえる」狙いが裏目に出たのだろう。
あたりまえだが迅速と拙速は違う。「なんでこのレベルで問題が発生しているのに発売を強行したのか」は、正直に書けばかなり疑問。社内で問題点は事前に明確に認識されていたはずだ。楽天は流通企業であり、「ものづくり」企業ではない。それだけに自社ブランドが毀損することへの危機感が製造業より薄いのかもしれない。「最悪、koboがダメなら日本ではソニーリーダー売ればいいじゃん」とかね。
次に「2 誇大広告」問題。
これもかなりクリティカルと個人的には思う。だって映画のブルーレイBOXセット「エイリアン1~4フルセット」とか買って自宅で開けてみたら「なんと2本しか入ってなかった。それもよりにもよって3だけ+エイリアンvsプレデターのセットだった」とかなったら、私なら大暴れでしょう。
これの背景は不明だ。もしかしたら「発売時には3万点になるに違いない」という見切り発車。あるいは「すぐ3万点になるんだから、いいじゃん細かいこと言わなくても」というあたりなのだろうか?
最後の「3 ユーザーレビュー全削除」だが、よくやったなあと蛮勇に驚く。
後述のインタビューでは担当の執行役員が「一時的に見えなくしただけで、いずれ復活させる」とか言っているが、それって「いずれにしろ売れなくなった時点で復活させる。それまでは欠陥を知らせないで売り逃げする」という宣言に取る人もいるのでは?
それにそもそも楽天はネット上のショッピングモールだ。ネット通販でユーザーレビューがどれほど重要か、痛いくらい知っているはず。もちろん楽天に出店するショップの商品の欠陥がレビューで指摘されても、消させないはずだ。
――なんで自社だけ都合よく例外にするのか。
そんな燃料注ぎ込めば炎上するの当然じゃん。楽天に出店する各店舗も怒るのでは。
ITmediaのインタビューでは*1、kobo担当執行役員は、以下のように説明している。
*1:「「大きなミスを犯してしまった」――楽天koboに何が起きたのか」2012年7月25日『ITmedia』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1207/25/news106.html
良いこと、悪いこと含め、あるべき姿を参考にしていただくのがレビューですが、不完全な状態からスタートしたkobo Touchのレビューの場合、かえって誤解を招くのではないかと判断しました。
今回まさにユーザーが「良いこと、悪いこと含め、あるべき姿を」書いているのに削除するのはおかしい。
koboがたとえば楽天の関連企業の製品でなく、楽天に出店する一店舗が発売したものだったと仮定して、欠陥でレビューが大荒れになったとしたら、楽天はレビューを消すんですか? 「不完全な状態からスタートしたkobo Touchのレビューの場合、かえって誤解を招く」のは、どちらも同じですよ。
百歩譲ってこの執行役員の論理を認めるとしても、それならなぜ「不完全な状態」の製品のままで市場に出してしまったのか。発売前に不具合は全てわかっていたはずだ。
この大失敗・大失態に対し「大きなミスを犯してしまった」と平謝りの上記kobo担当執行役員に対し、三木谷社長は「販売を急ぎすぎたということはない」「騒いでいるのはせいぜい2000~3000人」「大成功」*2と強気。
*2:「細かいことで騒いでいるのは少数派ですよ」2012年7月27日『日経ビジネスDigital』
http://business.nikkeibp.co.jp/article/NBD/20120727/235043/?ST=pc
経営陣の間で社外に発信しているメッセージがこれほど大幅にブレているのも、企業の危機管理上どうかと思うし。2000人も購入者が困り果てて騒いでいたら大問題と私なんかは思うけど。たとえば……
「パナソニックの液晶テレビ、なぜかNHKしか映らず、購入者2000人が販売店に苦情」とか「日産のSUV、エンジン始動不良で3000人が運転できず」とか想像してみると、それはもはや全社的な対策委員会作るクラスの危機でしょう。
いい悪いの問題ではなく、そのへんに流通企業ならではの感覚があるのかなあとか。
このように要素に微分して分析してみると、いずれも共通する問題が陰に隠れている気がする。それはネガティブ要素が出たときにユーザー目線で対応することなく、強引に強攻策を取っていることだ。それが全ての問題の真因なのでは。
理由はわからない。ただおそらく三木谷さんの周囲って、イエスマンしか置かないんだろうなあとは想像がつく。
さて、ここで一般論を離れ編集者としての立場で語ってみると、今回の騒動がまことに残念。つまり出版社はどこも今電子書籍離陸に血眼になっている。*3
*3:「小学館、集英社、講談社が電子書籍でアマゾンと組みそうな「ワケ」 ――電子書籍に死屍累々の「出版界」」2011年10月25日『編集者の日々の泡』
電子書籍市場立ち上げを成功させるためには、ターゲットとなる媒体(ハード)は競争を考えるなら3~4つくらい欲しい。アマゾンのkindle、ソニーのリーダー、楽天のkobo、そして電子ペーパーでないのは微妙だが市場としてでかいアップルのiOS系。
いずれも海外で成功している媒体なのに、その一角koboがコケちゃったのは実に痛い。
いずれにしてもいやこれ、なんとかならなかったのかよと。事前に「嘘はやめよう」とか「この状況では発売を延ばすしかない」など正常な判断が示されなかったのは、koboの未来を考えても残念な限りだ。
執筆: この記事はtokyo_editorさんのブログ『編集者の日々の泡』からご寄稿いただきました。
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