なぜ原発を推進しないといけないのか?

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この記事は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

なぜ原発を推進しないといけないのか?

グルメとか恋愛とかのくだけた話題が多い週刊金融日記ですが、まじめな話題も扱っています。
今回、寄せられた質問のひとつは、公益の点で重要なので、ブログで回答したいと思います。

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藤沢さん

いつもメールマガジン*1楽しく読ませて貰ってます。
今回の質問ですが、下記リンクにもある、GEイメルトCEOの
「原発の正当化は難しい」*2
との発言についてです。
この発言はやはり裏に風力発電で儲けようとかの企みが合っての事でしょうか?
私は藤沢さんの著作やブログ、ツイッターの影響で原発推進派ですが、あのGEのトップの発言に少しばかり、自分の考えが変わりそうですが、イメルトCEOはソロバン弾いた上での発言ですよね?
藤沢さんの意見を是非聞かせてください。
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*1:「週刊金融日記 第16号 いま内容を最終チェックしています。」2012年7月30日『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51919438.html
*2:「原発「正当化難しい」 米GEトップが英紙に」2012年7月31日『MSN産経ニュース』
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/120731/biz12073108320003-n1.htm

市場での競争を考える上で、経済学では外部性ということが問題になります。
公害を垂れ流しても、それを罰する法規制がないなら、環境対策をせずに製造コストを安くした方が競争で勝ってしまいます。
よって、利益を追い求める組織が、そういったコストを負担するように法規制を作らなければいけません。
これを外部性の内部化といいます。

しかし、法規制を作るプロセスというのは極めて政治的で、社会にとって悪い外部性を法規制で、科学的に正しく内部化できているかというと、そうではありません。
化石燃料を取り扱う産業は自動車、火力発電所など、非常に大きな産業で、雇用においても重要なので、極めて大きな政治力を持っています。
その点、原子力は、政治力が非常に弱いのです。
核燃料のエネルギー密度は、化石燃料の数百万倍なので、それが原子力のいいところなのですが、逆にいえば、産業としての規模は小さくなり、政治力も小さくなります。

さまざまな学術研究によると、こういった外部性を考えると、火力が最も高く、原子力が最もコストが安くなる、ということで一致しています。
それは、僕の本にも詳しく書きましたし、池田さんのサマリー*3なんか読んで下さい。

*3:「エネルギーの本当のコスト」2012年8月4日『アゴラ』
http://agora-web.jp/archives/1477806.html

しかし、科学的に正しいことが、ビジネスとして正しい、とは限りません。テレビ局の人たちは、馬鹿な視聴者に馬鹿な番組を提供して、馬鹿な人達がもっと馬鹿になると分かっていながら、馬鹿なことをするのが一番儲かるので、馬鹿なことをし続けています。トレーダーも、馬鹿な株価でも、他の投資家がもっと馬鹿で、これからも馬鹿高くなっていくと思えば、敢えて馬鹿なバブルに乗って行かないといけません。麻薬の売人だって、麻薬中毒患者がもっと中毒になろうが、知ったことではありません。当たり前ですね。

そういう観点から見ると、原子力はビジネスとしてとてもリスクが高いのです。なぜならば、多くに市民は、本当の科学的な外部性などわからないからです。多くの市民にとって、原子力=原爆であり、広島、長崎の忌まわしい記憶と、米ソの冷戦で繰り返された核実験の生々しい映像が思い出されるだけです。多くの市民にとって、原子力=悪なのであり、それは洋の東西を問いません。原子力は、最初のイニシャルコストが非常に高く、安いランニングコストで回収するため、反核運動などで、原発の建設が止まったり、今の日本のように再稼働できないと、コストが上がってしまいます。

だから、本当はより健康被害があり、コストも高いけど、政治的な理由で安くなるその他の発電方法の方が、ビジネスとしては割に合う可能性もあるのです。馬鹿な視聴者には、間違った情報でも、馬鹿な視聴者が欲しい情報を届ける、という日本のマスメディアのような発想は、確かに短期的なビジネスとしては正しいのです。ソフトバンクの孫正義さんのように、こういった人々の思い込みをビジネスに役に立てるのも、ひとつのやり方だと思います*4。

*4:「孫正義の秘密のアービトラージ」2011年6月30日『金融日記』
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51838169.html

しかし、科学的に間違っていることは、やっぱり間違っている。根気強く、市民に本当の情報を伝えていくのが、やはり正しいやり方だと、僕は思っているのです。

執筆: この記事は藤沢数希さんのブログ『金融日記』からご寄稿いただきました。

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