クズ男、マゾ、ぼっち、不倫……ダメダメな歌ばかりを集めた「逆ベスト版・万葉集」

クズ男、マゾ、ぼっち、不倫……ダメダメな歌ばかりを集めた「逆ベスト版・万葉集」

 いわゆる”残念な人”というのは皆さんの周りにも少なからずいるのではないでしょうか。恋愛で周りが完全に見えなくなっている人、思い込みがはなはだしい身勝手な人、イケメンなだけのクズ男、ちょっと面倒なメンヘラ女子……などなど。それ、令和の現代だけじゃないみたい!

 万葉集というと優雅で美しい歌を集めた和歌集だという印象を持っている人もいるかと思いますが、そんなイメージを木っ端みじんにぶった斬ってくれるのが『ざんねんな万葉集』。万葉集には全4516首が収められていますが、その中にはざんねんな歌、微妙な歌、イタい歌というのもかなりの数、詠まれているのだとか。そうした歌たちにスポットライトを当てるべく、古文講師の岡本梨奈さんが執筆したのが本書なんです。

 たとえば最初に登場するのはとんでもないサイテー男。「愛しと 我が思ふ妹は はやも死なぬか 生けりとも 我に寄るべしと 人の言はなくに」という歌の意味は、「美しいと私が思う愛しいあの娘は早く死なないかなあ。生きているとしても『私になびくだろう』と誰も言ってくれないので」。要するに、「付き合ってくれないなら死ね」……なんという自己チュー! こうしたタイプの人間って奈良時代にもいたのですね……。

 しょっぱなからこんな刺激的な歌が紹介されている本書。続いては、女性が1000年以上の時を超えて共感してしまうこんな和歌はいかがでしょう? 「西の市に ただひとり出でて 目並べず 買ひてし絹の 商じこりかも」――この歌は「西の市にただ一人で出かけて見比べないで。買った絹が誤算だなあ」という意味。市場に出かけて、他の商品と見比べずに一目惚れでお買い上げ。しかし、帰宅して冷静に考えてみたら「なんでこんなの買っちゃったんだろう」となってしまった……これ、今の私たちにもあるあるな体験談ではないでしょうか。実はこの歌は「よく考えずに結婚したけれど、見掛け倒しのざんねんな男だったことを後悔した」という内容の比喩歌だと考えられているそう。見た目だけのイケメンを選ぶとあとあと後悔……これまた「あるある」ですね。

 さらに歌の数々をさらに盛り上げてくれるのが、(ほぼ)全員美男美女に描かれたイラスト。BLを中心に活動しているマンガ家・イラストレーターの雪路凹子さんが担当しており、超美麗! ……なんだけど、表紙の男性は顔を足で踏まれて鼻血を出している(帯を取ると小指を立てている!)などとても面白いものになっています。

 華やかで高尚に見える万葉集の世界にも、ちょっと違うほうに目を向ければこんな残念な人たちがいる……。人間の昔から変わらぬダメさは、見ていると憎めず、逆になんだかほっとしてしまうところも。逆ベスト版・万葉集ともいえる本書、ぜひ皆さんも「ふふっ」と笑いながら肩の力を抜いて読んでみてください。

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