『サヨナラまでの30分』萩原監督インタビュー「“自分にはこれなんだ”と分かってからの人生の輝き方」「去り際は『レスラー』を意識」

「遺されたカセットテープを再生する30分間、2人は1つの体を共有する」
一年前に死んだ、バンドボーカルのアキ(新田真剣佑)と、人と関わる事が苦手で就職活動も失敗ばかりの大学生の颯太(北村匠海)。偶然、アキの遺したカセットテープを颯太が拾ったことから、出会うはずのない2人に起こる様々な奇跡を描いた『サヨナラまでの30分』が現在絶賛上映中です。

『ちはやふる』にて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『十二人の死にたい子どもたち』『カイジ ファイナルゲーム』などその確かな演技力で話題作への出演が絶えない俳優・新田真剣佑さんと、『君の膵臓をたべたい』にて日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、『君は月夜に光り輝く』などで若者の絶大な支持を受け、ダンスロックバンド「DISH//」のメンバーとして幅広い活躍を魅せる北村匠海のW主演で贈る、完全オリジナル映画。

メガホンをとったのは、映画、CM、MVなど数々の映像作品を手がけてきた萩原健太郎監督。本作にかける想い、観た方を虜にしている素晴らしい映画音楽へのこだわりなどお話を伺いました。

【萩原健太郎 監督プロフィール】1980年生まれ、東京都出身。2000年からアメリカ、ロサンゼルスのArt Center College of Design映画学部で学び、帰国後は、多数のテレビCM、MV、ショートフィルムの演出を手掛ける。2013年、初の長編脚本”Spectacled Tiger”が、アメリカのサンダンス映画祭で最優秀脚本賞、サンダンスNHK賞を日本人で初めて受賞。2017年、人気コミックの実写映画化『東京喰種 トーキョーグール』で長編映画監督デビューし、2018年には河瀨直美らと共に短編プロジェクト『CINEMA FIGHTERS/シネマファイターズ』に参加し、短編映画『Snowman』を監督した。その他、NHK BSプレミアムドラマ『嘘なんてひとつもないの』で演出を手掛け、ATP賞ドラマ部分奨励賞を受賞。

――本作大変楽しく拝見しました! お話、キャストの皆さんの演技、映像、素晴らしい部分はたくさんあるのですが、特に音楽が魅力的で。大きな話題となっていますよね。音楽についてはどんな事をこだわりましたか?

萩原監督:(劇中のオリジナル楽曲を手掛けていただく)アーティストを選ぶ時に、「ロック」と一言いっても、どのくらい尖っているのか、ポップなのかと色々な方向性がありますよね。なのでプロデューサーと話しながら、このくらいで行こう、だったら自分たちの好きなバンド・アーティストでこういう人達がいるよって出し合っていって決めました。

そこで大切なのが「同じバンドの曲に聞こえないといけない」という所で、それぞれ個性的なアーティストなのでそこのバランスは難しかったと思います。一番大きいのが歌詞で、<アキが作った曲>という設定なので、アキがどの様に生きてきてどういう考え方を持っているのかという事をアーティストの皆と共有して。時系列ごとに(曲を作るアキの)気持ちも変わっていくので。

――なるほど。アキの心情やストーリーからアーティストの皆さんと共有して。

萩原監督:最後の曲だけ<アキと颯太2人で作った曲>なので、それまでの流れに颯太の想いも入るということで、すごく難しかったです。この曲を作ったMichael Kanekoさんは(候補曲を)4、5曲くらい作ってくれたんですよ。他のアーティスト達もたくさんバリエーションを作ってくれて、各アーティスト本人達が仮歌を入れているのですごく良くて。世には出せないのですが、たまに聴いてます(笑)。

【動画】ECHOLL 「もう二度と」 (MV Short ver.)
https://www.youtube.com/watch?v=oYT5FGGKezE [リンク]

――それは豪華すぎる未発表音源ですね(笑)。北村さんはダンスロックバンド「DISH//」としての活動もされていますが、新田さんもとても歌が上手くて驚きました。

萩原監督:本当に上手いんですよね、僕も驚きました。ボイトレしている動画を事前に見させてもらって、その時点でも上手だったのですが、レコーディングブースに入って、何気なくレディー・ガガの『Shallow』(映画『アリー/ スター誕生』メイン楽曲)とかを歌うんですけど、めっちゃくちゃ上手くて! これは感動しましたね。新田さんは声も高めですし、北村さんとは歌い方も違って。表現が異なる2人が集まれたのもすごく良かったと思います。

――お2人との撮影で印象に残っていることはありますか?

萩原監督:2人ともすごく真面目でストイックで、僕がやりたい事に応えてくれて有り難かったですね。匠海君は本当に器用で、(颯太とアキが入れ替わって入っている時の颯太と)一人二役で、演奏シーンもそうなので、とても難しい役柄だと思うんです。でもそれをサラッと出来てしまう。新田さんは華がありすぎるくらい華があるので、画に映っているだけでサマになる。それでいて、僕が納得していない顔をちょっとしたら、「もう一回やります」って率先してやり直してくれて。2人だけじゃなく、この(バンドメンバーも含めた)6人は皆本当にストイックに役に向き合ってくれました。

――全然違う2人が重なり合う時、本当に感動しました。

萩原監督:「表現するという事が、彼らにとって本当に大切なんだ」という事を映画で伝えたかったんですよね。今の子達って失敗しない様に自分を抑え込む傾向があると思うんです。生き方に正解なんて無いのに、誰かの人生を当てはめてみたりだとか。それって楽だけど息苦しい事じゃないですか。この映画でもアキが「思ったよりも、自分は皆に必要じゃない」と気付いた時に、本当にやりたい事は何なのかと考えて、「表現する事が何よりも大切なんだ」と気付く。周りも、アキの存在には気付いていないけど、アキが遺した物はちゃんと受け取っている。本作を作るにあたって、ジョン・カーニー(映画監督。音楽映画の名匠)を見返して、何がこんなに良いんだろうって考えたりもしました。

――若い世代の方に響くのはもちろん、本作って男泣き映画だなとも感じまして。大人の男性がウルっときてしまう様な。

萩原監督:皆さんがそう感じてくれると嬉しいですね。編集の段階で、男の去り際の話として、僕が大好きな『レスラー』(2008)を意識しました。「自分にはこれなんだ」と分かってからの人生の輝き方とか。『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)など、幽霊モノもいくつか観直したのですが、幽霊になった事が無いから共感ってしづらいんですよね。どうやったら多くの方に共感してもらえるだろうと考えた時に、死に際の話だったら、人間は誰しもが死ぬし自分の死について考えるので、そういう話にしたいと思いました。

――きっと監督が繊細な人の気持ちを想像出来る方だから、本作の様な作品が作れるのですね。

萩原監督:割と”切ない感度”は昔から高いと思います。皆と一緒にいても、「今この瞬間は自分一人だ」って感じたり、この気持ち分かってもらえてないよなって思ったり。今は無いですけど、自分が何者でも無い時、学生時代に感じることってあると思うんですね。僕はアメリカに留学していた時にそう感じる事が多くて。そうやって「切ない状況を考える癖」みたいなものは昔からあって。だからウディ・アレンの作品とかも大好きなんです。

――大人になって鈍感になる人、鈍感にならざるを得ない人がいる中で、この映画に気付かされる事、癒される人が多いのではないかと私は感じました。

萩原監督:映画のそういう所が好きなんですよね。大好きな監督の市川準さんが「世界で一番寂しい人にこの映画が届けば良い」といった事をおっしゃっていて、その言葉が素晴らしいなと思うんですよね。ハッピーでリア充な人は映画が無くても良いし、寂しい人、悩んでいる方にこそ届いて欲しい。もちろん多くの方に観て欲しい気持ちもあるのですが(笑)、そういったバランスを考えたり、映画を作る事が本当に楽しいので。ぜひ劇場でご覧になっていただきたいです。

――今日は楽しいお話をどうもありがとうございました!

撮影:オサダコウジ

映画『サヨナラまでの30分』大ヒット上映中
http://sayonara-30min.com/

【動画】映画『サヨナラまでの30分』本予告
https://www.youtube.com/watch?v=0D5PpjJb9SQ [リンク]

(C)2020『サヨナラまでの 30 分』製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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