週末寝だめ、1日6時間の睡眠では返済できない?──「睡眠負債」を返済する方法とは

access_time create
週末寝だめ、1日6時間の睡眠では返済できない?──「睡眠負債」を返済する方法とは

「睡眠負債」という言葉を耳にしたことはありますか?睡眠不足が借金のように徐々に積み重なり、心身の不調を引き起こすことを指す言葉で、2017年の新語・流行語大賞トップ10にも選ばれました。若手ビジネスパーソンの中には、毎日忙しくてなんだか寝不足、疲れがなかなか取れず週末は昼まで寝坊…という人も多いのではないでしょうか。

しかし、本人の気づかぬうちに負債はどんどん溜まっているのです。そこで、睡眠や体内リズムの専門家で「目覚め方改革プロジェクト」メンバーである明治薬科大学の駒田陽子准教授に、睡眠負債を溜めない方法、睡眠負債の返済方法を詳しく伺いました。

睡眠負債

明治薬科大学 リベラルアーツ・心理学 准教授 駒田陽子氏

日本睡眠学会評議員、日本時間生物学会理事。日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所特別研究員、東京医科大学睡眠学講座准教授などを経て現職。現代人に目覚めの重要性を啓発する「目覚め方改革プロジェクト」()の設立メンバーとして睡眠の問題や改善法などを広く伝えている。著書に『子どもの睡眠ガイドブック』(朝倉書店)など。

睡眠負債が溜まると、どんな影響が出る?

睡眠不足が積み重なることで、本人の自覚がないまま心身にさまざまな悪影響が生じる状態の「睡眠負債」。睡眠は体と脳を休ませるためのものであり、不足すると集中力、判断力、記憶力が低下し、仕事でのミスが増え、効率も著しく低下します。また、肥満やメタボリック症候群、生活習慣病などのリスクが上がるほか、気持ちが落ち込み、うつ気味になることもわかっています。

とはいえ、仕事やプライベートで忙しく、平日はなかなか寝る時間を確保できないという人も多いことでしょう。「徹夜はしていないし、数時間は眠れているから大丈夫」「休日に寝だめしているから大丈夫」などという声もよく耳にします。しかし、寝だめは効果がないどころか体内リズムを崩す原因になるので注意が必要です。

成人は1日7~9時間の睡眠が必要

若手ビジネスパーソンの場合、平日は睡眠時間5~6時間という人が多いようです。しかし、成人であれば毎日7~9時間の睡眠が必要と言われており、多くの人が睡眠が足りていない状態にあります。

さらに言えば、「単に7時間寝ればいい」というわけではありません。人によってはもっと必要であるケースもあり、「7時間以上で、かつ自分にとって適正な睡眠時間の長さを把握する」ことが重要です。

駒田陽子氏

数年前、国内の研究機関で、20代男性を実験室に集め、「2週間、好きなだけ寝てもいい」とする実験が行われました。すると、初日はみんな喜んで10時間以上寝るものの、その後は徐々に落ち着き、最終的にはほとんどの人が8時間半前後の睡眠で安定する、という結果になりました。

実験前の平均睡眠時間は7時間20分程度で、「睡眠は十分にとっている」と思っていたにも関わらず、実は潜在的に睡眠が不足していたわけです。

そして、8時間睡眠を10日以上続けた後に血液検査を行ったところ、実験前に比べて空腹時血糖値が減少し、ストレス反応は低下しました。これらの結果から判断すると、多くの人においては「最低でも7時間、できれば8時間程度の睡眠が適正である」と言うことができます。

週末の寝だめは逆効果!

平日の寝不足を休日に取り返そうとする人も多いですが、「休みの日に寝坊をして寝だめする」は、体内リズムを狂わせ、かえって不調の原因になります。

休日に朝寝坊すると、「平日の睡眠中央値」と「休日の睡眠中央値」に差分が生じます。その差がたとえ1~2時間であっても、体内リズムのズレにつながり、心身にさまざまな影響を及ぼすことが明らかになっています。このズレのことを、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)」と呼びます。

例えば、平日は毎朝7時に起きている人が、休日に10時すぎまで寝坊した場合、平日と休日とで3時間超の差分が生じます。これは、土日のうちに日本との時差が約3時間30分のインドに行って、また帰ってきて、月曜日朝に出勤するのと同程度の負担を心身に与えます。月曜日の朝に「体がだるくてしんどい」「辛くて起きられない」と感じるのも当然なのです。

睡眠負債を返済するためには

平日にたまった睡眠負債を返済するには、まず自分の「生活時間」を洗い出すことが大切です。

毎日何時に起きて、何時に出社し、何時ごろまで働いているのか。何時ごろ夕食を取り、お風呂に入って、何時ごろ就寝しているのか…日々の行動を振り返り、時間割にして洗い出してみましょう。そして、もし現状で6時間しか寝られていないのであれば、どこを調整して7時間ないし8時間の睡眠時間を確保するのか、考えてみましょう。

そのうえで、次の3ステップを踏んで、睡眠負債を返済することをお勧めします。

Step1:睡眠記録を取り、ばらつきを改善する

毎日何時に寝て、何時に起きているのか、睡眠の記録を取りましょう。メモ書きでもいいですし、専用のアプリもいろいろ出ているのでそれに記録してもいいでしょう。まずは自分が何時間寝ているのか、寝る時間・起きる時間にばらつきがあるか、把握するのが先決です。

そのうえで、もし週末に2~3時間朝寝坊しているのであれば、その2~3時間を平日に20~30分ずつ割り振って、ばらつきを減らしましょう。例えば、平日だいたい24時に寝ているという人であれば、30分早い23時30分に寝るようにする、など。

睡眠負債を週末に一気に返済するのは難しいですが、平日に割り振って「分割で返済」すれば、ジェットラグを起こすことなく、体内リズムを整えながら睡眠時間を確保することができます。

Step2:休日も平日と同じ時間に「いったん」起きる

そうはいっても「週末ぐらいゆっくり体を休めたい」という人もいるでしょう。そういう場合は、朝は寝坊せずいつもの時間に起き、昼寝することで補いましょう。

人間は、朝に明るい太陽の光を浴びることで、体内リズムを整えています。休日もいったんは起きてカーテンを開けて光を浴び、朝食を取るなど少し活動した後で、どうしてもまだ眠かったら昼寝で睡眠を補うほうがベターです。もちろん、昼寝をせずそのまま起きていられれば、それに越したことはありません。

なお、休日の昼寝の時間帯や長さは、その夜にぐっすり眠れる程度にしておくこと。めやすとしては「15時までに2時間以内」だと大丈夫という人が多いようです。

Step3:日中に、太陽の光を積極的に浴びる

日中に太陽の光を浴びると、夜の時間帯に、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌が増えることがわかっており、体が自然と休息態勢に入ります。

体内リズムを整え、自然な睡眠を取るためにも、平日、休日いずれも光を積極的に浴びましょう。日中に屋外で過ごす時間を、意識して増やすことをお勧めします。オフィスワークがメインという人も、休憩の際に外に出て空を見上げてみる、窓際に行って外を見るなど、工夫するといいでしょう。

なお、夜は逆に明るすぎるのはNG。なかなかメラトニンが分泌されず、眠れなくなる恐れがあります。オフィスの明かりは仕方ありませんが、家に帰ったらダウンライトや間接照明などに切り替え、照明を抑えめにして睡眠に向けゆったりと過ごすのがお勧めです。

眠りにつくぎりぎりまでスマートフォンを見ているという人は多いですが、睡眠負債の観点ではNG。スマホの光は目にダイレクトに入ってくるので、メラトニンの分泌を阻害し、寝付けない原因になります。

駒田陽子氏

寝具、音楽、アロマ…睡眠の「質」を上げるには?

寝具を良くする、サプリを飲む、リラックス効果のある音楽をかける、アロマを焚く…など、「睡眠の質を上げられる」としてさまざまなアイテムが発売されていますが、効果は人それぞれであり「〇〇は必ず効く」というわけではありません。

ただ、使ってみて「自分に合うかも」と思えたら、取り入れてみていいと思います。「この音楽をかけるとリラックスできる」「好きなアロマで癒やされる」「肌触りの良いシーツにくるまって眠る」など、環境を整えることで心が落ち着いて、眠りの世界を楽しめるようになるでしょう。

「質のいい睡眠を取れば、多少睡眠時間が短くても大丈夫だろう」という考えは間違いです。睡眠時間を確保することが、質の高い睡眠の大前提。1日7時間以上の睡眠時間を確保し、かつ平日・休日のばらつきを極力なくすことが、睡眠の質を上げることにつながるのです。

平日の「20分程度の昼寝」は効率UPに有効

最近、大手企業の一部で、勤務時間中の昼寝を推奨しているところが出始めていますが、短時間の仮眠であれば効果的です。

よく「ランチの後はお腹がいっぱいになるので眠くなる」などと言われますが、たとえ昼食を食べなくても人間は13~14時ぐらいに眠くなることがわかっています。

どうしても眠くて仕事もはかどらないという場合は、15~20分程度仮眠を取ると脳が休まりシャキっとできますし、夜の睡眠にも響きません。目を閉じて視覚情報を遮断するだけで脳は休まるので、その後の仕事が捗ります。ただ、30分以上になると深い睡眠に入ってしまい、起きた後も頭がぼんやりしてしまい逆効果なので注意しましょう。

「たまの夜更かし」ならば早期リセットは可能

なお、規則正しい生活、睡眠時間の確保を心掛けていても、急な残業や飲み会などで、どうしても帰りが遅くなってしまう日もあるでしょう。体内リズムは一時的に崩れますが、たまのことであればリセットは可能です。

翌日も同じ時間に起きていつも通りに活動し、夜は早めに帰っていつもより少し早く寝るようにすれば、リズムが整い疲れも取れるはず。「起きる時間は一定に」「寝不足を補うなら早めの就寝で」がポイントです。

駒田陽子氏

【まとめ】睡眠を十分取れば、仕事の効率もぐんと上がる!

以前、睡眠専門のクリニックで、「常に眠くて困っている」という人たちの相談を受けていたことがあります。もちろん睡眠時無呼吸症候群や、過眠症という場合もあるのですが、「単に睡眠時間が不足している」というケースが意外なほど多いのです。

そんな方々に、「毎日の睡眠時間を30分、1時間増やすことを2週間続ける」ようアドバイスすると、「頭が驚くほどクリアになった」「体調がよくなり、昼間のだるさがなくなった」と多くの方から喜びの声をいただきました。皆さん、「自分の睡眠は足りている」と過信しているのですが、実は足りないケースが非常に多いので、まずはぜひ、1日30分早く寝ることから始めてみてください。

「私はショートスリーパーだから大丈夫。何の不調もない」と公言している人もいます。確かにそういう体質の人はゼロではありませんが、あるアメリカの研究者は「ショートスリーパーの出現確率は、人が一生の間に雷に打たれる確率より低い」と言っています。つまり、実際にはショートスリープでOKという人はほとんどいないのが現実です。

日本人は世界的に見ても、睡眠不足が深刻な国。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、OECDに加盟する36カ国のうち、日本は最も睡眠時間が短いというデータが出ています。日本で働く一人ひとりが自身の睡眠にもっと気を配ることで、心身ともにイキイキと仕事に臨んでほしいと願っています。 インタビュー・文:伊藤 理子 編集・撮影:馬場 美由紀

関連記事リンク(外部サイト)

【忘年会・新年会も安心】酔いやすい人必見!二日酔い対策&リセット法
キャッシュレスでお得なのは?─イチからわかるスマホ決済サービス「〇〇ペイ」
「この仕事、自分に向いているんだろうか…」と思った時こそ”やるべきこと“とは?――マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 週末寝だめ、1日6時間の睡眠では返済できない?──「睡眠負債」を返済する方法とは
access_time create

リクナビNEXTジャーナル

ビジネスパーソンのための、キャリアとビジネスのニュース・コラムサイト。 キャリア構築やスキルアップに役立つコンテンツを配信中!ビジネスパーソンの成長を応援します。

ウェブサイト: http://next.rikunabi.com/journal/

TwitterID: rikunabinext

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。