印刷から果実へ。ユーシンSLが仕掛ける農業事業「アクアポムム」の可能性とは

ユーシンSL株式会社は1953年創業の老舗印刷会社だ。シール・ラベル製造に特化し、食品用ラベルや工業用ラベル、個人情報保護シールなど、幅広いシーンで求められる製品を届けている。そんな同社が2023年、農業事業に進出。フィンガーライムという希少な果物の栽培に取り組んでいるという。代表取締役社長の岩越泰憲氏に、異業種への挑戦の想いを聞いた。

事業の第⼆の柱をつくるため、フィンガーライムの栽培に着⼿

当社は約400平米の敷地でフィンガーライムという果物を栽培しています。オーストラリア原産の柑橘類で、栽培が難しいことから希少価値が高いです。現在育てている品種は9種類・160株。それぞれが個性を持ち、粒の色や香り、味わいが大きく異なるのが特徴です。なかには山椒のような香りがするものや、オレンジのように華やかな風味を持つものも。プチプチとした食感と鮮やかな見た目は、料理に添えるだけで一気に華やかさを加えます。おすすめの食べ方は、唐揚げや生牡蠣へのトッピング。さわやかな酸味が素材の旨味を引き立ててくれます。

そもそも当社がフィンガーライムの栽培を始めたのは、印刷業界の先行きへの危機感からでした。当社は食品用や工業用などのシール・ラベル製造に特化しており、業界内では比較的恵まれた立場です。それでもデジタル化の進展により紙媒体の需要は減っており、業界全体が縮小傾向にあることは否めず、新たな事業の柱を探していました。そんななか、SNSで偶然知ったフィンガーライムの高い市場価値に可能性を感じ、参入を決意したのです。

新規事業の展開にあたり、これまでの印刷技術はあえて活かしていません。既存の顧客層とは異なる新たな顧客の獲得のためであり、事業の幅を広げるためだからです。ターゲットとしては、一般消費者も視野に入れつつ、レストランやホテルといったBtoBを主軸に据えています。

無理なく差別化を図り、印刷業との両⽴を叶える「⽔耕栽培」

フィンガーライムの栽培にあたり、当社が選んだのが「水耕栽培」という方式です。理由は明確で、これまで農業の知識や経験がなかった私たちが、すでに経験豊富な農家の方々と同じ土俵で戦うのは難しいと判断したからです。そのなかで初心者でも管理しやすく、なおかつ効率的な方法として水耕栽培を選びました。また果樹の水耕栽培は珍しく、差別化も図れると考えました。

水耕栽培のメリットは、長期休暇が取りやすい点です。従来の土耕栽培は手入れが日々欠かせず、夏場などは休みを取りづらいとされています。水耕栽培は水を一定量貯められる構造のため、1週間程度は手をかけずとも問題なく管理可能。印刷業と両立できる体制となっています。

また、体力的な負担が少ないことも強みです。フィンガーライムは「フィンガー」と言うだけあって、果実は指と同じくらい小さく、収穫や移動の際に重さが負担になることはほぼありません。土を使わないことで鉢の重量も軽くなり、果樹の移動や配置変更もスムーズです。無理のない栽培方法のため、定年後の社員の働き口としての提案も検討しています。

水耕栽培を選んだことを機に、農業事業のブランド名を「Aqua Pomum(アクアポムム)」としました。「Aqua」はラテン語で「水」、「Pomum」は「果実」を表します。水耕栽培で果樹を育て、良質な果実を安定供給する。その第一歩として、フィンガーライムの栽培に取り組んでいます。

売上を拡⼤し、ブランドオーナーとしての地位の確⽴へ

将来的な目標は、全体売上の2割を農業事業で達成すること。そうなれば、事業の多角化とリスク分散が可能になり、農業法人化も視野に入ってきます。農業法人になることで農地を購入できるようになるため、フィンガーライムの栽培面積をさらに広げていけるでしょう。また、ゆくゆくはフィンガーライム以外の果物の栽培にも挑戦したいと思っています。

こうした取り組みの先に見据えているのは「ブランドオーナー」としてのやりがいです。現在の印刷業では、当社の名前が表に出ることはほとんどありません。例えば、物流ラベルや医療ラベルなど、多くの人の目に触れない場所で使われているものが多く、いわば裏方の仕事が中心です。たとえどれだけ高品質であっても、それが当社の仕事であると知ってもらえる機会は限られています。

その点、フィンガーライムのような希少価値の高い商品であれば、自社ブランドとして市場に直接出せるチャンスがあります。レストランのメニューに「アクアポムム」の名前が記される日が来れば、それは社員にとっても大きな誇りとなるはずです。実は、ブランド名のアクアポムムは、社員の公募により決定しました。今後も会社一丸となって農業事業に注力し、社員が家族や友人との会話のなかで「うちが作ったフィンガーライムだよ」と言えるような、そんな未来を実現したいと考えています。

ユーシンSL株式会社
代表取締役社長 岩越 泰憲
https://www.ushinsl.jp/
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