「生活保護が浮いて見えるのは、世の中が地盤沈下したせい」派遣村”村長”の湯浅誠氏がナマポ・バッシングを斬る
売れっ子お笑いコンビ「次長課長」の河本準一氏の母親が生活保護費を受給していた問題が、世間を騒がせたことは記憶に新しい。病気で働けない人や、困窮して追い詰められた人々を救うために、生活保護制度が誕生して60年が過ぎた。
日本国憲法で決められた「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための最後のセーフティーネットだったはずだが、今回の事件を機に「ナマポ(生活保護を示すネット用語)の不正受給を許すな!」と、ネット上では非常に厳しい視線が注がれるようになった。一種の「ナマポ・バッシング」と言える事態になっているのだ。
最低賃金で働いた場合の収入が、生活保護費の受給額を下回る「逆転現象」が起きている地域が11都道府県に上ることも、厚生労働省の調査で判明している。「真面目に働くのがバカらしくなった」という意見もネットの掲示板に寄せられるほどだ。
一体なぜ、こんな事態になってしまったのか。生活保護は本当に問題のある制度なのか。2008年末に東京・日比谷公園で行われたイベント『年越し派遣村』の”村長”として知られる社会運動家の湯浅誠(ゆあさ・まこと)氏に”ナマポ”の実態について直撃してみた。インタビューの全貌は、本日7月18日20時からニコニコ生放送で録画放送されるが、その一部をご披露しよう。
・[ニコニコ生放送] 【収録】湯浅誠、「ナマポ」を語る – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv100689160?po=newsgetnews&ref=news
■これほどのバッシングは30年ぶり
湯浅氏は1969年、東京都生まれ。東京大学の大学院を経てNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の事務局長となり、ホームレスの生活支援事業を続けてきた。『あなたにもできる!本当に困った人のための生活保護申請マニュアル』(同文館出版)という著作も出している。
このインタビューは、2012年7月に湯浅氏がお気に入りだというJR御茶ノ水駅前の小さな喫茶店で行われたが、湯浅氏は初対面とは思えないほどリラックスした雰囲気だった。気さくで快活な口調で取材に応じてくれた。
――生活保護に対するバッシングが盛り上がっているんですが、こうした状況を湯浅さんはどのように感じていますか?
うーん。生活保護に対する批判的な見方は、今に始まったことではないんですよ。今ほど盛り上がっているのは、私は30年ぶりくらいじゃないかと思っていますね。ナマポって言い方も、今回の騒動があって生まれた言葉ではないですしね。
(生活保護に対する)厳しい見方自体は、以前からずっとあるんです。日本の場合は、生活保護のような公的扶助(税金で貧困層に経済援助すること)が、非常に絞り込まれているんです。それゆえに「公的扶助を受け取る人は特別ダメな人たちだ」という見方が根強くて、それを下に見る……。二等市民視する見方や言い方は、ずーっとあるんですよ。その延長線上だな、とは見ていますね。
――30年前にもバッシングが盛り上がったことがあるんですか?
はい。生活保護の制度が始まったのが1950年で、そのころに200万人いたんですね。それが高度経済成長でぐっと減って、そこからジグザグいってから、ガクーンと落ちて95年に底をつくんです。そのきっかけになったのが、1981年に(当時の厚生省が全国に出した)通知なんですよ。
それは、和歌山県の暴力団不正受給というケースがあって「暴力団員が不正受給している事例が全国にある」ってことになったんです。それで、1981年に通知を出したんです。その結果、全般的に(受給者の認可を)グッと締めたんですね。それでワーっと、受給者が減っていきました。バブルに至る経緯の中なんで、景気が悪くなかったというのはありますよ。でも、高度経済成長のときより、明らかに減りました。そのあたりは、「生活保護といえば不正受給」「生活保護といえば暴力団」みたいなイメージが強かった時代でしたね。
――そのときの悪いイメージが払拭されたのちに、また別の悪いイメージが出てきたということですか?
はい。ずっと、その繰り返しなんです。80年代にもグーッと締めたから、受給者は減ったけど、その中で(1987年に)札幌市の母子家庭のお母さんが餓死して死んじゃったり、「さすがにひどいじゃないか?」って話も一方で生まれました。
ある振り子が時代によって、移り変わってきたんです。「生活保護って不正受給ばかりだから厳しくしないといけない」っていうムードから、「いくらなんでも厳しすぎるだろ」っていうムードまで、制度が始まってから60年間、いつも揺れてきたんですね。
■生活保護費を下げるべきではない理由
――今回の騒動を通じて、生活保護に対してネガティブな印象が強まった底流には何があると考えられますか?
みんなの危機感ですね。生活の苦しい人が増えていってるわけですよね。生活保護基準以下で暮らしている人も相当いるわけです。だけど、自動車を持っていたり、申請するのが嫌だったり、家族のことを気にしていたり、いろんな理由で申請してないんです。母子家庭のお母さんが、「自分が申請したら子供がいじめられるんじゃないか」と思って申請してないとか、そういうケースがいっぱいあるわけですよ。
そういうのが今ある中で、ああいった(芸能人の親族の不正受給疑惑の)話がポーンと出ると、「自分がこれだけ頑張って何とかギリギリやってるのに、何だよぉ!」っていう感じになる。世の中全体が地盤沈下していけばしていくほど、浮き上がって見えてくるんでしょうね。
――日本各地で最低賃金より、生活保護費の方が高いという逆転現象が起きているという報道もありますが、これについてはどのようにお考えでしょうか?
生活保護費よりも最低賃金が低いというのは、実は前からそうなんですよ。日本の最低賃金はもっと低かったですから。これまで随分、上がった方ですね。ただ、これまでは問題にならなかったんですよ。というのは、最低賃金で働いてる人が、さほど多くなかったからです。ただ、地方に行けば結構いたんですが、それは主婦パートの賃金だったんですね。ちゃんと夫にきちんと収入があって、お小遣い賃金ということで「賃金が低くても問題ない」と思われていたんです。「最低賃金が低い」という事実に、社会の関心が向いたことが実は、あんまりなかったんです。
ところが、最低賃金で働く人が次第に増えていったわけですよ。今は東北とか地方に行くと、ハローワークで正社員ということで紹介されていっても、実際には最低賃金でフルタイムで働くことになる。いわゆる正社員と呼ばれる人でも、最低賃金にへばりついて生活する人たちが出てきたんです。「俺らがこの暮らしなのに何だ!」ということで、最低賃金と生活保護費の比較が切実な意味を持つようになってきたんですね。この図式自体は前からあったけど、生活がかかっている人が少なかったから問題にならなかったんです。
ギャップがあるのはその通り。でも、そのときに「最低賃金を上げていくという話にならないのか?」と思うんです。高い方と低い方のどちらに合わせるのかという問題ですね。なんとなく低きに合わせて生活保護費を下げろという話もありますが、この5年間は(最低賃金を)せめてここまでは上げようねということで、上げてきたんですよ。
それでも今でも生活保護費の方が高い地域が10県近くあります。そこで生活保護費を下げろという議論もあるかもしれませんが、そうすると最低賃金がこれ以上、上がらなくなってしまうんです。せめて最低賃金を生活保護費よりあげるという議論にしないと、状況は良くならないと思いますね。
■河本騒動で生活保護申請は増えたのか?
貧困問題に長年取り組んできた湯浅氏だけに、巷でバッシングを受けているのとは違う意味で「ナマポ」の抱える様々な問題が浮かびあがってきた。
このほかにも「河本準一氏をめぐる騒動で生活保護費の申請者が実際に増えたのか?」という疑問をぶつけたほか、この制度が持つ根本的な問題点についても聞いてみた。一見すると楽チンそうな生活保護受給に向けたハードルの実態など、興味深い話が次々と披露されていったが、その全ては収録放送で明かされるので是非見ていただきたい。
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・[ニコニコ生放送] 【収録放送】湯浅誠、「ナマポ」を語る~ – 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv100689160?po=newsgetnews&ref=news
(安藤健二)
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