人生100年時代にフィットネスブーム到来。ボディメイクだけではないその役割とは
近年の健康志向に加え、日本人の美意識の変化か、ほどよく鍛えられた体を美しいとする人が世代を超えて増えたこともあり、フィットネスクラブの需要が大幅に増えているようです。働き方改革で、現役世代が自由に使える時間が増えたこと、75歳以上の医療費が窓口負担増になるなどを背景に「健康寿命を延ばしたい」と考える人が増えました。また、予防医学の必要性の高まりも後押しして、ますます需要が高まりそうです。
少し前まで、フィットネスクラブは、男性の肉体づくりや、若い女性のボディメイクのためといったイメージがありましたが、近年は中高年の主婦が毎日通う「街のコミュニティー施設」としても、定着しつつあります。そのスタイルも、各種レッスン場やプール、浴場まで備えた大型のものから、ビルの1室や商業施設の内部にトレーニングマシンを備えただけのもの、また目的に特化したパーソナル(プライベート)ジムや女性限定、シニア限定、24時間営業と実にさまざまです。
進化し続けるフィットネスクラブは、今後私たちの生活のなかでどのような位置づけになっていくのでしょうか。「40才からの体づくり専門家」でパーソナルトレーナーの日高靖夫さんに聞きました。
目的よりも自分の性格に合うかどうかでフィットネスを選んで100年もつ体づくりを
Q:最近、24時間営業のフィットネスクラブをよく見かけるようになりましたが、健康管理やボディメイクをしようという意識が高まっているのでしょうか?
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24時間営業のフィットネスクラブは、「いつでも好きな時間に運動ができる」ということが大きなメリットです。実際、30代後半~50代の現役世代のビジネスマンの間で、通い始める人が以前よりも増えている印象です。
ところが実際のところは、3カ月以上続けられる人は思ったほど増えているわけではありません。会員数は増えているけれども、3カ月以上続けて通う人の定着率は増えていないというのが実情のようです。
全体のフィットネス人口で比較すると、欧米人が15~20%なのに対し、日本人は4%ほど。増えたといってもわずかですし、定着率まで見れば、さらに低いかと思います。
マシントレーニングが中心の24時間営業フィットネスクラブは、運動習慣が定着している欧米的なスタイルです。利用者のほとんどが男性であることを考えると、学生時代にハードな運動系の部活動を経験していて、「運動はキツイ、つらい、しんどいもの」という印象を持っている人ほど、かえって続けにくいということかもしれません。
よほど、体を鍛えることが好きか、ボディメイクに強い意志を持っている人でないと、習慣とするには難しいということでしょう。
Q:複数のスタジオやマシンに加え、プール、大浴場まで備えた大型施設もあれば、マンションの1室などの限られた空間を利用したパーソナルジムもあります。これから利用する人は、何を基準に選べばよいでしょう?
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フィットネスクラブの事業所数は年々増えており、それに伴い、利用者数も増加傾向にあります。それでも前述のように、定着率に関してはまだまだで、いずれのクラブも、いかにして継続利用者を増やすのかを今後の大きな課題にしているようです。
これからフィットネスクラブで運動を始めようとする人には、その目的よりも、まず自身のキャラクター(性格)に合うかどうかによって、フィットネスのスタイルを選ぶことをおすすめします。
「1人では続けられないかも」「誰かと一緒に楽しみながらフィットネスをしたい」という人は、そのようなプログラムのあるクラブを、「人との関わりは苦手」「どちらかといえばマイペース」という人はパーソナルレッスンを、などというように。
いずれにしても、目的はおそらく「スリムになりたい」「健康を維持したい」というものが多いでしょう。
たとえばですが、「なんのためにスリムになりたいのか」と考えてみると、実は「自信を持って堂々と振る舞いたい」などという心の問題の方が大きかったりするものです。大勢の中で、楽しく体を動かして心が満たされる人もいれば、ボディのことも含めた生き方の悩みを誰かに聞いてもらうことで、心が満たされる人もいるはずです。
つまりは、スリムになることが必ずしもその人の幸せに直結するわけでなく、心と体の健康を、バランスよく維持することが大切になってくるのです。どんなスタイルだと、自分が幸せを感じつつ続けられそうか、それを知ることが自分に合ったフィットネス選びのポイントです。
Q:人生100年時代に「平均寿命より健康寿命」という考えが広がっています。フィットネスクラブにシニアや女性の姿が増えたことには、どんな背景があるのでしょうか?
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世の中の動きでは、75歳以上は医療費が来年度から負担増になることや、年金の受給年齢引き上げなどの制度上の不安要素が多く、「老後も健康でいなければ」というモチベーションが上がっています。
それに伴って、「健康増進型」と呼ばれる生命保険商品が登場したり、個人や企業に「健康投資」を促す税制の新設や予算措置を求める提言が出されたりと、健康寿命を延ばすことに関心を向けさせるような取り組みも増えています。
フィットネス業界でも、体への負荷が軽いプログラムを用意するなど、シニア対象の取り組みに力を入れています。
また、それとは別に、50~60代の女性の中には、実際の介護の経験からでしょうか、「親のような生き方をしたくない」という声もよく聞きます。
たとえ寿命は延びても、「認知症や病気など、不本意な姿で人生のクライマックスを迎えたくない」という現実的な思いがあるようです。
同時に、生涯現役を貫いた女優の森光子さんや、今でも堂々と大きく背中の開いたドレスを着こなす桃井かおりさんといった芸能人、若手に劣らぬパフォーマンスを最後まで見せるイチロー選手など、年齢を重ねてもイキイキと輝いている有名人の様子を見るにつけ、「自分もあのような年のとり方をしたい」という前向きな思いを持つ人も多いようです。それも、フィットネスを始めるモチベーションのひとつです。
Q:ボディメイクだけでなく、健康増進、リタイア後の居場所づくり、介護予防施設など、多目的な活用が期待されるフィットネスクラブですが、私たちの生活のなかでどのような位置づけになっていくのでしょう?
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これから、ますます高齢化が進むことを考えると、これまでよりも確実に健康維持に関心が高まるでしょう。
ボディメイクのためにハードなトレーニングをして、「ただ筋肉量を増やせばいい」という時代ではなくなってきているということも、広く認識されていくと思います。
筋肉にも良い筋肉と悪い筋肉があり、極端な筋肉の付け方をしてしまうと、見た目も機能的にもバランスの悪い体になってしまいます。
良い筋肉とは、柔軟でしなやかに動く筋肉のことで、調和のとれた美しい肉体を形作るものでもあります。
20代までは、激しいトレーニングをしてもそう問題はありませんが、同じようなことを続けていると、いつか心と体がついていかなくなるものです。
年齢とともに、生活習慣や食事の大切さに気付き、さらには心の平穏や幸福感といったものを追い求める人が増えてくるでしょう。ヨガやピラティスといった、アジアンテイストのレッスンが人気ですが、やはり日本人に適しているかもしれません。
緩やかな動作の中に呼吸法を取り入れ、精神の充足感まで得られるようなものに魅せられる人が多いのは、自然の流れのように思います。
Q:どのようなトレーニングが健やかな体づくりに有用だと思われますか?
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たとえば、私どもではフレックストレーニングを実施しています。これは、筋トレとストレッチを効率よく組み合わせたもので、性別や年齢に関わらず、しなやかに動く筋肉をつくるための効率的なトレーニングです。食事や生活習慣、マインドやモチベーションなど心の在り方も含め、トータルにアドバイスしているのが特徴です。
運動が苦手な人でも無理なく楽に続けていける、そして体だけでなく心も気持ちよくトレーニングを続けていくことが大切だと考えています。
フィットネスが一時のブームで終わるのではなく、生活の中に自然な形で取り入れ、誰もが「100年もつ健康な体」を得られればいいなと思っています。
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