起業したいけれどやりたいことがない…ビジネスの「芽」ってどう見つければいい?【シゴト悩み相談室】
キャリアの構築過程においては体力的にもメンタル的にもタフな場面が多く、悩みや不安を一人で抱えてしまう人も多いようです。そんな若手ビジネスパーソンのお悩みを、人事歴20年、心理学にも明るい曽和利光さんが、温かくも厳しく受け止めます!今回は、漠然と起業したいと思っているけれど、何のビジョンもないという男性からのお悩みです。
曽和利光さん
株式会社人材研究所・代表取締役社長。1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャー等を経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)、『人事と採用のセオリー』(ソシム)など著書多数。最新刊『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)も好評。
起業の「芽」の見つけ方を教えてほしい!
<相談内容>
CASE38:「起業したいと思っているけれど、ビジネスイメージが湧きません」(27歳・IT関連会社勤務)
業務システムの法人営業職に就いて5年目です。
先日、同僚が起業しました。趣味を活かした情報交換サイトを制作し、イベントなどを企画・運営していて、大変ながらとても楽しそうです。ほかにも、大学時代の友人が小さなWeb制作会社を立ち上げるなど、最近周りで起業する人が増えていて、自分も「起業したい」と真剣に考えるようになりました。
でも、具体的なビジョンはまったくありません。それどころか「●●の分野で起業したい」というビジネスイメージもありません。
実家が自営業なので、経営自体には以前から興味を持っていました。自分がやりたいと思えるビジネスに出会ったら、自分なりの方法でそれを大きくしたいと思っています。しかし、どうやって出会えるのか皆目見当がつきません。
同僚や友人は、「自分の好きな分野」「得意な分野」で起業しましたが、私には特段好き、得意と言える分野はありません。まずはビジネススクールに通ってみようか、それとも副業として友人の会社などをいくつか手伝って経験値を上げ、ビジネスの芽を見つける力を磨こうかなどと思っていますが…どういう方法で見つけ、起業プランを立てればいいものでしょうか?(営業職)
「やりたいこと」がなくても起業はできる
何が何でも、起業しないとだめなのでしょうか?特にやりたいことがないならば、無理に起業を考えなくてもいいのではないでしょうか。相談者が言うように、いつかやりたいことに出会ったら、そのときが「起業しどき」であり、今から「ビジネスの芽は見つかるだろうか」と気を揉むことはないように思います。
ただ、別にやりたいことがなくても、起業すること自体は可能です。いくつかの方法をご紹介しておきましょう。
手っ取り早いのは、「経験を活かして誰かをサポートする」こと。相談者は法人営業で5年近い経験があるのですから、それを活かして起業するという方法があります。つまり「営業サポート・営業代行」です。
「大学時代の友人が小さなWeb制作会社を立ち上げた」とのことですが、ご友人はおそらく制作業務に専念したいはず。まずはその会社の営業業務をあなたが代行することから始める、という方法も考えられます。
周囲の人をサポートして、少しずつ仕事が増えれば、ビジネスの視野も広がります。「こんな営業ニーズがあるんだ」と気づき、「次はこういうことにも挑戦してみよう」など業務内容を広げることも可能になるでしょう。
実際、初めは何らかの代行業からビジネスをスタートし、その後ニーズに合わせて業務の幅を広げ、大企業に成長したベンチャーはたくさんあります。もしすぐにでも起業したいのであれば、相談者も同じようなコースを目指してはいかがでしょうか。
成功しているビジネスの「二番煎じ」を狙う
経験を活かしたサポート業務ではなく、「自分の手で新しく事業を興したい」という野望が強いのであれば、やりたい・やりたくないはいったん置いといて、「世の中で今求められているもの」を探して、それを事業にするのが順当なやり方でしょう。
ただ、「誰もまだ気づいていないブルーオーシャン」を見つけるのは、一般ビジネスパーソンには至難の業ですから、二番煎じ、三番煎じで十分。最近注目され始めた分野、儲かり始めている分野で、自分ができそうなことを探してみるといいでしょう。
例えばですが、立ち食いステーキ店が人気を集めた後、似たようなお店がたくさんできましたよね?そんな「後追い店」の中には、コンセプトは人気店の二番煎じながら、独自の工夫をこらして人気を集めているところもあり、二番煎じであっても十分に業を成すことができています。ステーキでもAIでも介護でも分野は何でもいいですから、気になる分野をじっくり調べてみてはいかがでしょうか。
相談者が挙げている「ビジネススクールに通う」も、「副業をいくつか経験してビジネスの芽を見つける」も、悪い作戦ではないと思います。特に後者の「数打ちゃ当たる」作戦は、まだ若く体力もあるだろう相談者には、向いているかもしれません。
自分の中にアンテナがないと、起業の芽にも気づけない恐れ
ただ、一つ気になるのが、相談内容に記されている「私には特段好き、得意と言える分野がない」という点です。社会人1年目や2年目ならば別ですが、相談者は27歳、営業5年目。そろそろ「得意と言える分野」がないと、ビジネスパーソンとして厳しいと思われます。
5年頑張ってきたのに、本当に得意と言える分野がないのであれば、想像できるのは「相談者が仕事をえり好みしてきた」可能性。身近なところにチャンスがいっぱい転がっているのに、あれも嫌、これも苦手と食わず嫌いをして、自分で可能性の幅を縮めてきたのではないでしょうか?
先ほど、「数打ちゃ当たる作戦は悪くない」とお伝えしましたが、いくらいろいろな経験をしても、自分の中にアンテナがなければ「チャンスはたくさん存在しているのに、それに1つも気づけずスルーしてしまう」なんてことになりがちです。もしこの作戦を決行するならば、例えば「1年やってみて一番楽しいと思えたものを事業化する」など、自分を追い込むルールを決めておかないと、「いろいろやったけどどれもイマイチだったね」で終わってしまうので注意が必要です。
本業でもうひと頑張りして「処理の自動化」を目指そう
今回の相談は「起業の芽の見つけ方」であり、前段ではその方法についてアドバイスしましたが、「得意分野がない」相談者の場合は、やはり何か一つ得意分野を作るまで本業を頑張ったほうがいいような気がします。そのほうが結果的に起業の芽を見つけやすくなるだろうし、能力開発の観点からもお勧めです。
人間は、一つのことを何度も繰り返すことで能力を身に付けることができます。心理学用語で「処理の自動化」と言いますが、無意識でも自動的に物事ができる状態が「能力が身についている」状態です。
「得意分野がない」相談者が起業に興味を持つようになったのは、もしかしたら今の業務に飽き始めているせいではないでしょうか?
ただ、「飽きている」状態はまだ、能力が身についている状態とは言えません。処理が自動化され、無意識に業務がこなせる状態になっていれば、「飽きる」という感情は湧かないからです。
おそらく、本業をもうひと頑張りすれば、「飽き」を超えて無意識に業務がこなせるようになり、能力が相談者に装着されるでしょう。そうなれば、それが得意分野となり、本業にやりがいを持てるようになるかもしれませんし、得意分野を軸に新たな業務にトライしようと思えるようになるかもしれません。
また、自動化された分「頭のメモリ」が空き、視野が広がることも期待されます。今の仕事の意味が見出せるようになったり、次に身に付けるものが見えてきたりすることも考えられます。もちろん「起業の芽」も、今より見つけやすくなるのではないでしょうか。
アドバイスまとめ
できることベースで代行事業を立ち上げるか、
世の中のニーズを探ってチャンスがありそうな分野を後追いするか。
でも相談者の場合は、まず本業で能力をつけ得意分野を作るほうが、
結果的には手っ取り早いかも。
EDIT&WRITING:伊藤理子 PHOTO:平山諭
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