『童貞。をプロデュース』強要問題の“黙殺された12年”を振り返る 加賀賢三氏インタビュー<2019年12月12日追記あり>

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性行為強要までの“ゴリ押し”と圧力

▲『童貞。をプロデュース』予告編(ニュー・ヴァージョン)より

――制作に違和感を持ち始めたのは、AVの現場から?

AVの現場に行く前の段階から、嫌な予感はしていました。松江さんが「AVの現場に行く」と言い出したときにも、「行きたくないです」とずっと断っていました。すると、松江さんは「じゃあ、コイントスで決めよう」と言い出しました。これは映画の中にもあるくだりです。結局、コイントスもぼくが勝ったんですが……なぜか、松江さんのゴリ押しで行くことになりました。映画では、コイントスして、手を開いて、「あっ」って言うところで映像は切られていて、次の画ではもうAVの現場にぼくがいる、という流れに編集されています。本当はぼくが勝ったから行かなくていいはずだったんですが、本編では松江さんが勝ったことになっているんです。

――本編に映っていないところで、松江監督がゴリ押ししている、と。

そうです。松江さんは、本当にゴリ押しが酷いんです。普通に考えたら、何か話をするときって、こちらが意見を呑んだら、相手も譲歩してくれるだろうと思うじゃないですか。そうすることで、人の関係性って成り立つはずなので。だから、ある程度は松江さんのゴリ押しをのんでしまうわけです。今思えば、それをのんじゃいけなかったと思うんですが……そういうやり方で、ずっと進められました。

――AVの現場には、加賀さんの味方はいなかったのでしょうか?

最初は、松江さんが味方だと思っていました。知りあいが松江さんだけだから、というのもありますが。最初は、原宿のハマジム(松江監督の作品などもリリースしているAVメーカー)の事務所に連れて行かれて、カンパニー松尾(AV監督)さんや社長の濱田(一喜)さんに挨拶しました。その後、AV女優さんが生理なので、海綿を(膣に)入れることになったんです。ぼくは、そのための海綿をハサミで切る、という作業をやらされました。ぼくは、「女性器のことをわからない童貞が、『どのくらいがちょうどいいんだろう?』と考えながら海綿を切る」のが面白いんだろうな、と思っていました。そういう色を付けて撮るんだろうと。すると、次は公園に行ってジャケット用のスチール写真を撮ることになりました。現場では松江さんに「内トラ(※スタッフがエキストラ出演すること)みたいな感じで、入って」って言われたんです。それも嫌だったんですけど、すでに「そういうのはやるのが当たり前だろ」という空気だったので、結局、断れずにスチールに収まりました。

――その時点から、すでに圧力を感じていたわけですね。

次は“本番”を撮るために、ホテルに移動することになりました。ホテルに着いたら、カンパニーさんが「じゃあ、パンツを脱いで」と言い出したので、ぼくは「嫌ですよ」と断りました。すると、松江さんは「お前、何言ってんの?ここまで来て、何言い出してんの?」と言い始めました。それでもぼくは「絶対に嫌です」と断って、そこから結構な押し問答になりました。どのくらい経ったのか体感なのでわからないですけど、ぼくにとってはすごく長い時間でした。大勢に囲まれて、圧をかけられて、味方だと思っていた人が味方じゃなくなった。それでも、ずっと「嫌だ」と言い続けました。すると、松江さんは「じゃあ、わかった」と。「じゃあ、わかった」と言われたら、「これで終わるんだ」と思うじゃないですか。

――はい。

松江さんが「じゃあ、わかった。一回、ふたりで話そう」と言うので、ふたりで部屋を出て、非常階段のような場所で話すことになりました。ところが、そこでも松江さんが「お前、何で嫌なんだよ」と言うので、また押し問答になりました。松江さんが「あの子、可愛いじゃねえかよ」とか、そういうことを言うので、ぼくが「いや、そういう問題じゃないでしょ」と断る。そんなやりとりが続いて、松江さんはまた「じゃあ、わかった」と。「じゃあ、わかった。カメラを回して質問するから、お前は『AV女優は汚い』って言え。そしたら、殴る(ビンタする)から」と、段取りの説明を始めたんです。そこで、初めて“段取り”が出てくるわけですけど。

――松江さんが“断る理由”を提案したということですか?

ぼくも、松江さんが妥協案を考えてくれたんだと思いました。でも、そうじゃなかったんです。「じゃあ、わかった。俺が質問するから、お前が『AV女優は汚い』って言って、俺が殴る。それでいいだろ?」と言うので、ぼくは藁をもつかむ思いで応じました。ただ、松江さんの案も嫌だったんですけどね。ビンタされるのはいいんですけど、まず“ヤラセ”が嫌だし、「AV女優は汚い」と言うことも嫌でした。でも、これでオチをつけてくれるんだろうと思ったんです。今思えば、そこでとことんやり合えばよかったんですけど。でも、怖かったんです。ハマジムの社長さんもいて、カンパニー松尾さんもいる。そんな状況は怖いですよ。「この人たちとやりあうことになったら、後で何をされるかわからない」とか、色んなことが頭をよぎりました。

――やむなく、「AV女優は汚い」と言ってビンタされることを受け入れた?

そうです。ぼくは逃げ出したくてしょうがなかったんで、藁にもすがる思いでした。本当は言いたくなかったですし、言わなきゃよかったと後悔しているんですけど、従いました。ささやかに抵抗してはいるんですけど……「AV女優は汚い」じゃなくて、「AVっていう仕事は、ぼくにとっては奇麗なものとは思えない」と言葉を変えて。

『童貞。をプロデュース』予告編(ニュー・ヴァージョン)(YouTube)https://youtu.be/85llJTzxlcc

――予告編にも収められているシーンですね。

はい。そのシーンを撮り終えて、「これでオチがついたから、やっと終わる」と思っていました。ところが、部屋に戻ったらまた押し問答が始まりました。松江さんは、「お前待ちなんだよ」「やるまで終わらねえぞ」「松尾さんを待たせるなんて。お前、いい度胸してんな」と、脅しも入れるようになりました。「カンパニーさんって、そんなに怖い人なんだ」と想像を巡らせて、また怖くなりました。初めて会う方でしたし、「AV業界だし、怖い人たちがバックにいるかもしれない」と、さらに色々と想像して、どんどん怖くなりました。当時のAVは今ほど風通しもよくなかったと思いますし、ある種アンダーグラウンドの文化だったと思います。いずれにせよそういう空気がまだあったので、「怖い」という気持ちが強かったですし、できれば深くは関わりたくないと思っていました。だから“取材”の段階で「行きたくない」と言っていたんです。

――それでも撮影は続いた?

押し問答が続いて、そのうち松江さんが「じゃあ、わかった。俺らもパンツ脱ぐから」と、下着を脱ぎ始めました。カンパニーさんや周りの人たちも脱ぎ始めました。松江さんは寒くてタイツを穿いていたんですが、「これでいいだろ? 俺、今モモヒキ穿いてるんだぞ。こっちのほうが恥ずかしいだろ」と、わけのわからないことを言っていたのを覚えています。

――松江さんだけではなく、現場の人たちからも圧力を感じた?

そうです。そういう流れで、全員が男性器を出して、松江さんが「これでいいだろ。俺も脱いだんだから、お前も脱げ」とプレッシャーをかけてきました。それでも「嫌だ」とずっと言っていたんですが、結局は逃げられなくなって、とりあえず脱ぎました。そうしたら、松江さんは「じゃあ、わかった。フリだけでいいから。フリだけやろう。画だけ撮らせてくれ。本当にはやらなくていいから」と。ぼくはやられたくない一心だったので、「助かった。フリだけで終わる」と思っちゃった。いつまで経っても終わらないし、やるしかなかない、と思ったんです。そうしたら、女優さんが本当に(口淫を)やりはじめました。ぼくは引き離して、「もう、やめましょう」と訴えましたが、結局は羽交い絞めにされて、やられました。

――予告編では、該当シーンの一部が“面白い一幕”のように編集されて使われています。

ぼく自身も「面白いほう」に転がそうとしていたと思います。傷ついていることを見せるのが、恥ずかしいことだと思っていたので。自分自身で面白く見せようとすることで、自尊心を保とうとしたというか、かわそうとした部分があると思います。この件で、高校時代にいじめられて、いわゆる“パシリ”をさせられていた同級生を思い出しました。その人は、いじめっ子に「パン買ってこいよ」と言われて、「ったく、しょうがねえな」と軽口を叩きながら買いにいっていたんです。同じように、ぼくはあの時、本当は泣きたかったのに、“ふざけているように見せたかった”んだと思います。

――“やられた”後は、どうなったんですか?

脱がされていたパンツをはいたときに、ぼくの股間が勃起していたんですが、それを見た松江さんが「お前、勃起してんじゃねえかよ(笑)」と言ったのを覚えています。松江さんにとって、そこで男性器が勃起していることは面白いことなんだ、と……それも、すごく嫌でした。それから、「ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」と言ったら、カンパニーさんは「迷惑はかけるもんなんだよ」と、“名言”のようなことをおっしゃいました。

『童貞。をプロデュース』予告編(ニュー・ヴァージョン)より
▲『童貞。をプロデュース』予告編(ニュー・ヴァージョン)より

――その流れを聞くと、名言には思えませんね。

なぜ、「ありがとうございました。ご迷惑をおかけしました」と言ったかというと、自分に非があるのかもしれない、と“思わされていた”からなんです。「お前、どんだけ待たせるんだよ」「全員がお前待ちなんだよ」という言葉を浴びせられて、「お前が悪いんだ」というプレッシャーをずっと感じて、同調圧力の中で「自分に非があるんだ」と。圧力から逃れるために出た言葉なんです。後になって冷静に考えて、そんなことを言う必要が全くなかったことに気づいたんですが。

――撮影が終わった後に、抗議はされたのでしょうか?

当初から、編集のあがりを確認するという話はしていました。だから、(性行為強要のシーンについても)「こういう使い方をされるのは、やっぱり嫌だ」と言ったんです。そうすると、松江さんはお金の話を始めました。「俺はノーギャラでやってんだぞ。金のためにやってんじゃないんだから」と。「いや、それを言い出したら、ぼくだって一銭も貰ってないだろ」と内心は思いましたが、口には出しませんでした。松江さんはさらに「しまださんからいくらかもらうわけでもないんだよ」「ガンダーラで上映するだけだから」「お前が撮ってきた何十時間もあるテープを、おれは全部観たんだぞ!それも、ノーギャラでやってんだぞ!」と、またゴリ押しし始めました。ただ、ぼくが撮影したテープも結構な量だったし、それを編集するのも大変だろうとは思いました。確かに労力がかかっているし、最初に『第1回ガンダーラ映画祭』で上映するとは約束はしていたので、ぼくは「じゃあ、ガンダーラ映画祭だけですよ」と。

――譲歩した?

はい。松江さんには、「もし『ガンダーラ映画祭』以外でやる話になったら、必ずお前に相談する。その時はお前の意見を尊重する。だから、ここは泣いてくれ」と言われました。ぼくは「約束ですよ。今言った話は絶対忘れないですよ。口約束も契約のうちなので、それを破ったら民事でやりますし、ぼくが勝ちますから」と言いました。それは、松江さんもご自分のブログ(現在非公開)に書いていました。

――他に抗議したシーンはありますか?

あと、「追加で、好きな子に告白するシーンを撮らせて欲しい」と言われました。でも、そんなの嫌じゃないですか。無理やり口淫されるシーンを撮って、それを笑いにするような映画に、好きな人を巻き込みたくないですよ。だから、「絶対嫌です」と言ったんですが、また松江さんは「じゃあ、わかった。代わりの女の子を用意したから、その子で撮ろう」と言い始めました。つまり、「①好きな子を巻き込む ②用意した代役で撮る」という2択でゴリ押ししてきたんです。

――またですか。

ここでもぼくが譲歩して、(代役で)撮りました。ところが、松江さんは後になって「いや、やっぱり本物がいい」と言い始めました。ぼくは、「絶対に嫌です」と言ったんですが、松江さんは、「もう、本人に連絡したから。〇〇で待ってるから」「俺から全部(加賀氏が女性のことを好きだという気持ちを)伝えてやるよ」と強引に話を進めました。そうなったら、もう行くしかないじゃないですか。最終的には告白するフリを撮ることになって、松江さんも彼女に「これはお芝居なんです」と説明していましたけど……それでも、そんなところで“告白”を利用されるのは嫌なわけですよ。例えヤラセであっても、ぼくが彼女のことを好きだったのは本当ですし、「こんなタイミングで言うことじゃない」と思っていました。

――『第1回ガンダーラ映画祭』での上映にOKを出したのは、関係者に迷惑をかけたくなかったから?

というよりは、形を変えてでも出せばいい、と思っていたからです。要するに、あの(性行為強要)シーンを使わないで、別の形にして『ガンダーラ映画祭』に出してほしいというのが、ぼくの一番の希望だったんです。「作品をなかったことにしろ」とまでは思いませんでした。ぼく自身あのシーンには傷つけられましたが、それでも同意したのは、「ここで松江さんの条件をのめば、その後はぼくの意見を尊重してくれる」と信じたからです。だから、その時点では、『ガンダーラ映画祭』が終わったら、なかったことにしてもらおうという腹づもりでした。

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