煩悩クリエイターが行く座禅旅。禅の世界が体験できる宿に泊まってみた
はじめまして、稲田ズイキです。僕はお寺生まれの僧侶なんですけど、現在は実家の寺を飛び出して、全国を移動しながら生活をして、文章を書いたりしています。
そんな矢先、びゅうたび編集部から「永平寺で坐禅しませんか?」とのお声がけが……!
永平寺といったら、日本で指折りの禅の修行寺。こりゃ行かない手はない! 目指すのは煩悩まみれな心のガチ浄化。そこで、1泊2日で福井の旅へ行くことに。
JR金沢駅
ひょんなきっかけで、旅のお供がガチ母に
JR東京駅から北陸新幹線かがやきで約2時間半、金沢駅へ。
さらに、金沢駅から北陸本線の特急サンダーバードで約50分、JR福井駅に到着しました。
生まれて初めての特急サンダーバード
さぁ、さらに乗り換えて……その前に、この旅にはもう1つの目的があるんです。
ある日、ひょんなきっかけで、母に永平寺へ行くことになった旨を伝えた際のこと。
母から返ってきた斜め上のLINE
あのね、おかん……となだめつつも、「死ぬまでに絶対一回」という言葉が胸に引っかかりました。
日々感じているモヤモヤ、実はそこには母親の存在があります。僕が実家の寺を放り出しているばっかりに、お寺の守りをしている母に、余計な負担と心配をかけているんじゃないかと。
う〜んと悩んだ末、母を連れて行っていいか、びゅうたび編集部に恐る恐る尋ねてみると、なぜか快諾。
というわけで、今回の福井の旅は少しでも親孝行の気持ちを込めて、日々がんばる母親に癒しの旅を贈ります。
母合流。そのわざとらしい「やぁ!」なんなのよ
福井駅
絶景を走るえちぜん鉄道
福井駅からローカル線のえちぜん鉄道勝山永平寺線に乗り換えます。
母が撮ってほしそうにこちらを眺める
母とは昔から友達感覚で何事もぶっちゃけて話してきました。それでも、2人だけで泊まりの旅に出るのは初めてのこと。親子水入らずで、のんびり列車にコトコト揺られながら、永平寺を目指します。
先頭車両からの景色
揺られること25分。永平寺口駅に到着。
「おお〜! 山に近づいてきた!」とテンションが上がる母。
ここから京福バスに乗り換え、さらに山を登ること、約13分。永平寺バス停に到着。
降りてすぐ「空気が美味しい!!!!」と親子でシンクロ。
近くに小川が流れていて、さっきまでとは時の流れが違います。もうここは、禅の里!
柏樹関
ここは宿坊?高級旅館?
バス停から歩くこと約5分、本日の宿「柏樹関(はくじゅかん)」に到着。お寺にも旅館にも見える、この建物。「えっ、もしかして私、ここで修行させられんの?」と騒ぐ母。まぁまぁ落ち着いて。
「ジャーン!」と部屋を見せたら、「キャ〜!」と20代さながらの声を上げる母。
柏樹関は2019年7月26日にオープンしたばかりで、そこらの3つ星旅館顔負けの快適な宿泊ができる宿なのです。めちゃくちゃ綺麗!
ラグジュアリーな体験だけではなく、永平寺の坐禅体験や写経体験を案内してくれるなど、禅の世界も体感できる粋な施設。
永平寺
坐禅体験で心を軽やかに!
柏樹関から歩いて約3分、永平寺は思わず息を飲むほど、美しい場所でした。
境内に一歩足を踏み入れると、「異空間」に入ったことを全身で感知。木々が生い茂っていて空気が冷たく、近くを流れる永平寺川のせせらぎが響きます。
永平寺の象徴になっている唐門(からもん)
いろんなお寺を見て歩いている母の目から見ても、やはり永平寺は別格のよう。さて、散策も終えたところで、お目当ての坐禅体験へ。
永平寺は、坐禅を尊ぶ「曹洞宗」という宗派の大本山。全国からお坊さんが集まり、ストイックに禅の修行に励む「禅道場」です。そんな禅の聖地で、坐禅を指導してもらえる贅沢さ……!
写真提供:永平寺
姿勢の正し方、呼吸の整え方など、お坊さんから丁寧に指導してもらいました。
しかし……、心を無にしようと努めても、浮かんでくるのは「今日の晩御飯は?」「この取材の撮れ高は今の所大丈夫だろうか」と、そんな雑念だらけ(マジ呆れた)。
約40分間座り続け、体験は終了。
指導してくださったお坊さんに「全然集中できませんでした」と素直に告げると、「自分が雑念に溢れているということを知ることができただけでも第一歩です」と優しく肯定してもらえました。あぁ、ありがたい。
ちなみに、母は「気がついたら終わってた」とのこと。やはり母はすごいのか?
柏樹関
味気ないイメージを覆す、絶品精進料理
さぁ、夕食の時間。柏樹関に戻り、館内のお食事処「水仙」にて、精進料理をば!
御膳スタイルの精進料理
「精進料理は味気ない」なんてイメージが見事に覆されました。素材本来の味を引き立たせるため、緻密に計算された最小限の味付け。新鮮な野菜やお豆腐の美味しいこと!
釜で炊いた福井県産いちほまれがうまい!
夕食後は、ゆったりお風呂へ。露天風呂に体を浮かべるこの幸せをなんと呼びましょうか?
館内着が作務衣なので修行僧気分を味わえる
こんなにリラックスした母の顔、見たことがなかったなぁ。満足してくれているんだろうか。永平寺川の音を聞きながら、おやすみなさい。
永平寺
永平寺の朝は早い
永平寺の朝は早い。4時に起きて、「朝課(ちょうか)」と言われる朝のおつとめに参列します(ふと、空を眺めたら、星が見えたレベル)。
圧巻の光景でした。100名くらいの修行僧が並び、「EDM※か?」ってくらい重低音を鳴らす超巨大木魚をBGMに読経をするのです(写真撮影がNGで残念)。
※エレクトロニック・ダンス・ミュージックの略
朝課のあとは、永平寺内を係のお坊さんが案内してくれました。朝靄がかかる山々、荘厳な寺の建築。ふと息を吐けば、そのまま溶け込んでしまいそうなくらい、自然との近さを感じます。
144名の画家が描いた230枚の天井絵
平泉寺白山神社
思わずCGかと疑うほど美しい苔の名所
十分に永平寺を満喫したところで、柏樹関をチェックアウトし次のスポットへ。
バスで「永平寺口駅」に戻り、えちぜん鉄道勝山永平寺線に乗ること約30分、「勝山駅」に到着。そこからタクシーに10分乗り、苔の絶景スポットと言われている平泉寺(へいせんじ)白山神社へ。
参道にすでに苔!
一面、真緑!! あまりの絶景に、もう言葉が出ません。
「抹茶パウダーかけ散らかしたの?」ってくらい、何から何まで苔に覆われ神秘的な空間。
母は「息子たちにいいご縁がありますように」とお願いしていました。お母さんも、いつまでも元気でいてください。
けんぞう蕎麦
最高の越前おろし蕎麦を求めて
旅の締めはやはり、地元グルメ!
最高の越前蕎麦を求め、「勝山駅」から再びえちぜん鉄道勝山永平寺線に乗ること約35分、松岡駅に到着。
駅に着くや否や、「自転車乗ろっ!」と再び母から斜め上の提案が。
自転車は駅にて1日税込100円で借りられます
知らない街を母と一緒に自転車で駆け抜ける。この謎の高揚感こそ、旅の醍醐味!(なのか?)
というわけで、チャリで来た
越前おろし蕎麦の有名店「けんぞう蕎麦」へ。手打ちの十割蕎麦が食べられる名店です。
おろし蕎麦(税込660円)を注文
かつおぶしがのったお蕎麦の上に、ネギと大根おろし入りの特製出汁をかけていただく、これが越前おろし蕎麦の食べ方。
大根の辛みと出汁の甘みとのマリアージュ! ヤバい、何杯でもいけます。
福井駅
母、ありがとう。そしてこれからもよろしく
再び福井駅に戻り、親子の福井の旅はこれにてクランクアップ。母はJR京都駅へ戻り、僕は再び家出の道へ。金沢駅を経由して東京駅へ向かいます。
福井駅の駅ナカで、お土産の福井名物「羽二重餅」を買いました。
今回の旅どうだった? と聞くと、母はこのように言ってくれました。
「しんどいこととか、大変なこととか、この2日間は全部忘れて、本当に楽しかった!!! 自慢の息子や」
母には色々心配かけてます。大学院を中退した時も、会社を1年で辞めた時も、家出した時も。こんな旅に一度連れていくだけでは、その恩は1パーセントも返せない。それどころか一緒に旅に行くことで、さらに母の愛の深さを知ることになりました。
母の無茶ぶりから始まったこの2人旅でしたが、心のモヤモヤも少しは晴れて、明日から心機一転がんばれそうです。
おかん、いつもありがとう!
掲載情報は2019年11月12日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
旅するメディア「びゅうたび」は、ライターが現地を取材し、どんな旅をしたのかをモデルコースとともにお届け。個性たっぷりのライター陣が、独自の視点で書く新鮮な情報を、臨場感たっぷりにご紹介します。
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。